◆人生の終末期を支える「ターミナルケア」とは

「ターミナルケア」という言葉をご存知だろうか。病気などで余命わずかになった患者に対して、延命治療は行わず、残された人生の質の向上を目指す介護のことである。以前は延命治療が主流で、いかに長生きさせるかに焦点が当てられることが多かったが、近年は延命治療を行わず、穏やかに余生を過ごす選択をする人が増えているという。

 ターミナルケアを行うヘルパーは、身体面だけでなく、精神面や社会面なども含め、死を間近に控えた患者を支えていく。時には遺産の相談や遺品整理も担うこともあるといい、死後の不安をなくす手助けも行うようだ。

 自分や家族が死に直面しない限り、ターミナルケアの現場を知ることはないだろう。ただ、そういった現場で働くヘルパーの人達は、日常的に人1人の人生の最期を見届けている。そこには、様々な苦悩や困難があるはずだ。

◆大酒飲みでヘビースモーカーの終活

 そういったヘルパー目線の話を聞くため、長年ターミナルケアを行っている訪問介護士の50代女性Hさんに話を聞いた。実際の現場を知る人は、一体どういった現場を目の当たりにしているのだろうか。

「以前担当した利用者さんで印象的だったのは、大酒飲みでヘビースモーカーの方ですね。その方は80代の男性で、末期のがんで入院中に余命1ヶ月を宣告されたのですが、大好きなお酒とタバコを『最期の最期まで続けたい』という意思がありました。ドクターからも『そういう想いがあるなら退院してもらって、彼の好きなようにお酒もタバコもOKにしましょう』との指示があり、退院することになったのです。そこからは看護師と連携しながら、彼の意思を尊重しつつサポートを始めました」

◆末期がんで酒とタバコをやめなかった男の最期

 身寄りがなく、酒とタバコを最期まで愛し続けるために自宅に戻ってきた男性。身長が高く、とても恰幅がよかったために、歩けなくなった彼を移動させることが重労働だったようだ。そんな自分の意思を貫いた人だからこそ、日に日に衰えていく姿に心打たれたという。

「最初のうちは、訪問するたびにベッド脇にあるテーブルの上にお酒の空き缶や吸い殻、食べたカスが散乱していました。その掃除も大変ではあるのですが、それが彼の"生きている証"なので、ターミナルケアを行う私としては、ゴミが出ることすら嬉しかったのです」

◆行くたびに汚れなくなっていく部屋

 最期の最期まで自分が好きだった酒とタバコを嗜みたいと語っていたが、余命宣告をされていた彼に残された時間はそれほど長いものではなかった。

「徐々に元気がなくなり、最終的には大好きだったお酒もタバコも口にしなくなりました。あれだけ汚かった部屋が行くたびに綺麗になっていくけど、それは整理整頓できるようになったからではなく、我々が綺麗にした部屋を『汚す力がなくなっている』ということ。彼の"生きている証"がなくなっていき、余命宣告からちょうど1ヶ月後に亡くなりました。最期まで自分の生き方を貫いた人、そしてその生き方ができなくなって迎える死を目の当たりにして、色々と考えさせられることがありました……」

◆働く側のメンタルケア

 通常の介護に比べて、患者の死に直面する機会が圧倒的に多いターミナルケア。このような環境下では、ヘルパーに対するメンタルケアも必要になってくるとHさんは語った。

「利用者さんが亡くなる姿を見ることは何度経験しても辛いですが、そこも含めてターミナルケアなので受け止めるしかありません。それでもやはり落ち込んでしまうヘルパーも多いので、事前に利用者さんの体調などの状況をしっかりと伝えています。利用者さんが最期を迎えた時の、ヘルパー側の精神的負担を軽減させてあげるためにも、状況だけは確実に把握してもらう必要があるのです」

 利用者さんの状況の伝達を続け、従業員のメンタルをケアしてきたHさん。しかし、それでもトラウマになってしまうヘルパーもいるという。

「奥さんが長い間寝たきりで、旦那さんがずっと一人で面倒をみてきた80代の夫婦のお家で起きた出来事でした。高齢の旦那さんは、奥さんの面倒は自分がみると頑なだったのですが、今までやってきた簡単な料理がきつくなってきたようで、自分のできなくなったことだけを依頼されたんです。

 台所が汚かったので、まずはサービスとして台所を綺麗にするところから始めました。すると、その様子を見た旦那さんが『こんなにケアをやってくれる人たちがいてよかった。あんたたちに今後は任せる』と言ってくださったのです。信頼してもらってよかったと安堵し、今後奥さんの介護全般を任せてもらえると思い、スタッフ一同喜んでおりました」

◆しかし突然の悲劇が…

 自分にしか自分の奥さんを介護できないと思っていた旦那さん。そんな彼が頼りになるヘルパーと出会ったことで、大きな気持ちの変化があったようだ。

「そういう話をしてもらった数日後、旦那さんが他界されました。介護することが当たり前となっていた旦那さんが、任せられる人を見つけたことで一気に今までの疲れが出たのでしょう……。私たちが介入したことで死を早めてしまったのではないかと、私自身とてもショックでした」

 第一発見者は、訪問介護に訪れた自社のヘルパー。奥さん想いの旦那さんは、歩けなくなった奥さんには絶対見られない位置で息を引き取っていたそうだが、第一発見者のヘルパーはショックを受け、しばらくトラウマになってしまったそうだ。

「残された奥さんの介護は私たちの会社が任せられることになったのですが、第一発見者のヘルパーは、しばらくその家に入れなくなってしまいました。ただ、期間が空いてしまうと復帰がより難しくなると考え、他のヘルパーと一緒に行ってもらうと徐々に慣れていくことができて……。今はしっかりと奥さんの介護をこなしています。ヘルパー側のメンタルサポートする難しさを感じた出来事でした」

 このような介護現場において、突然の他界は少なくないことだという。ヘルパー側の精神的なケアも、ターミナルケアを続けていくうえで大切なことであるとHさんは語った。

 ターミナルケアを行うヘルパーは「1人の人生の最終的な充実度を決めている」と言っても過言ではない。自分のためにも大切な家族のためにも、終活について今から考えてみてはいかがだろうか。

取材・文/みなもひかる

みなもひかる
お酒は飲めなくてもおつまみ大好き。趣味はゴルフ筋トレパチンコ・神頼みの自称清楚系純情女子ライター。長所は諦めが悪いこと。「なせばなる」「なんとかなる」をモットーに、何事にも全力で取り組みます!  Twitter:@minnapikapika

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