さまざまな理由や事情により、所属している会社を辞めることを決断したら、その意思を会社に伝える必要があります。その際に提出するものとして「退職願」「退職届」「辞表」を思い浮かべる人が多いと思いますが、この3つについて「どう違うの?」「どれを出してもいいの?」といった疑問の声もあるようです。

 退職願、退職届、辞表には、どのような違いがあるのでしょうか。社会保険労務士の木村政美さんに聞きました。

「退職の意思表示」としては共通

Q.「退職願」「退職届」「辞表」はそれぞれ、どのような意味を持つ書類ですか。

木村さん「退職願と退職届はいずれも、従業員が会社に対して退職の意思表示をするときに提出する書類です。まず、退職願は『退職させていただけますか?』という意味合いの“願書”として扱われ、提出後、会社側が承認すれば退職扱いとなりますが、会社の承諾を得る前であれば、『やっぱり退職することをやめます』といった意思表示の撤回が可能です。

一方、退職届は民法の定めにのっとった形式で作成する“届け書”で、『退職させていただきます』と従業員の一方的な意思表示によって労働契約を解約する内容となります。この場合、退職届が会社側に受理された時点で退職日が決まるため、受理された後の撤回は原則認められません。

なお、辞表は会社の経営者や役員、公務員などが、その職の退職意思や辞意を表明する際に提出する書類です。そのため、退職願や退職届と違い、会社の従業員が利用することは基本的にはありません」

Q.会社を辞める意思を伝える際、3つのうち、どの書類を提出すればよいかを判断するためのポイントとは。

木村さん「会社を辞める人の職務上の地位が会社の経営者や役員、公務員などの場合は辞表を提出し、会社の従業員の立場である場合は、退職願、もしくは退職届のいずれかを提出することになります。

退職願と退職届は先述の通り、意味の違いがあるわけですが、多くの会社がその違いを理解していないため、届け書などの提出にあたり、明確な区別を定めていないことが多いと思われます。その場合は双方とも『退職の意思表示を行う書類』として同等に扱われるので、退職願と退職届のどちらを出してもよいことになります。ただし、会社や組織が決めている形式や慣例は事前に確認してください。そのポイントは次の通りです」

(1)会社の就業規則等で、退職の手続きに関する規定内容を確認します。
(2)退職の意思表示を伝える書式などが決まっていれば、それにのっとった形で作成します。
(3)規定に定められていない場合は、会社の慣例によります。届け書などの提出先や書式について判断に迷う場合は、まずは直属の上司に相談するとよいでしょう。

Q.これらの書類を作成・提出する前に、確認しておくべきことはありますか。

木村さん「まず、退職日を決める際に、会社の就業規則等で退職規定の内容を確認します。就業規則等において、例えば『退職日の2カ月前までに申し出ること』といったように、退職の意思表示をする期日が定められている場合は原則、考慮する必要があります。

就業規則等に定めがない場合は、事前に上司と相談して、仕事の進捗(しんちょく)状況などの事情を勘案した上で退職日を決めることになります。特に、人手不足である職場の場合、後任者の選任や業務の引き継ぎなどに時間を要するので、退職する予定があれば、早めにその旨の意思表示をしましょう」

「突然、退職届を出して即日退職」は許される?

Q.漫画やテレビドラマなどで、突然、退職届を出して会社を辞める場面を見たことがある人も多いと思います。現実にやってよいことなのでしょうか。

木村さん「退職届を提出後、即日退職することについて法律では禁止されていませんし、会社は従業員の意思に反して労働を強制することはできないため(労働基準法5条)、扱いは可能です。

しかし、場合によっては会社側から損害賠償を請求されるなど、トラブルに発展する可能性があります。また、即日退職や、先述の民法の扱いでの退職は、会社や同じ職場で働いている従業員に迷惑をかけてしまうことにもなりかねず、その行為は社会人の常識として好ましいものではありません。『以前から、退職の意思表示をしているにもかかわらず、会社が聞く耳を持たない』といったやむを得ない理由がない限り、即日退職などは避け、事前に準備を行った上で、できる限り会社を円満に退職するのがよいでしょう」

Q.これらの書類を提出したのに会社側が受理してくれなかったり、話を聞いてくれなかったりした場合、どうするのがよいでしょうか。

木村さん「昨今の人手不足の影響もあり、『退職の意思表示をしたにもかかわらず、会社側がなかなか応じてくれない』との話をよく聞きます。民法(627条1項)では、雇用契約に期間の定めがない場合、退職日の14日前までに意思表示をすれば退職は可能で、この場合は就業規則等の規定や会社の事情などよりも優先されます。ただし、雇用契約に期間の定めがある場合は原則、契約満了日まで退職できません。

また、退職の意思表示を行う届け書は直接渡すだけではなく、メールや郵便で送付することも可能です。送付方法としては『直属の上司や人事課長、社長宛てにメールを送る』『郵送の場合は配達証明付き内容証明郵便で送付する』などがあります。

会社側から『退職することを聞いていない』『退職届を受け取っていない』との理由で退職をほごにされないよう、意思表示をしたことの証拠として、届け書が確実に会社の担当者に届くようにしましょう」

オトナンサー編集部

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