ローアングラー

近年、コスプレ界に大きく影を落とす「盗撮騒動」。コスプレイベントには、コスプレイヤー(以下、レイヤー)の股間を狙う“ローアングラー”がのさばっており、一部画像はネット上で販売も…。無断での写真販売について、盗撮問題に詳しい弁護士は「撮影の許諾」に重要なポイントがあると分析する。

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■「食い込みに興奮」の文字

中学生時代にコスプレ活動を始め、コスプレ歴8年になる現在OLのAさん。ある日、自分の写真がとある盗撮写真・動画販売サイトで商品化されていることに気がついた。偶然発見した彼女のファンが情報共有してくれたのだ。

販売ページでサンプルとして掲載されていたのは数年前、とあるコスプレイベントで撮られたと写真。目線あり写真のほか、股間や下着のアップ写真が並び、「オシリを抑えて照れまくり」「食い込みに興奮!」といった閲覧者をあおる卑猥な言葉が記載されていた。


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■会場では一切気が付かず…

「今から2年ほど前、とある大型イベントで着用した衣装で間違いありません。キャラクターを忠実に再現した衣装とあり、スカートがやや短めだったので、対策として見られてもいい”見せパン”(インナー)を着用していました。また、当日はボディガード的に友人男性を同伴していたのですが、まさか販売用にこんな撮影をされていたとは…」と、Aさんはショックを見せる。

じつは近年、これらのケースがコスプレ界では多発している。被害者からの発見を遅らせるためか、盗撮サイトではあえて数年の時間をおき「新商品」として販売され、ネット上で自分の恥部が拡散され続けていることに気づかないままのレイヤーも大勢いる。

Aさんは撮影時に異変を感じなかったのか。「なかったですね。仮に許諾した後に『なんだかレンズの向きがおかしいな』と思っても、カメラに詳しくないのでそれを制止することは困難です。まさかその後、写真を販売されるなんて到底予想ができません」(Aさん)。

■コスプレイヤー引退も視野

無秩序なコスプレ会場

彼女のTwitterフォロワーは約4万。会場では普段から交流するカメラマンから、初めて対面する一見(いちげん)のカメラマンまで幅広く撮影応対する。その数は一日で100人以上にも及ぶ。

生きがいは、コスプレを通じてアニメやゲームなど共通の趣味を語り、交流することだ。もちろん性欲の対象になるため活動を続けているわけではなく「露出系衣装はむしろ嫌いです。大好きなキャラになりきりたい」とAさん。

記者に「本当にショックで、掲載ページを見た時は震えました。いまはコスプレ引退も本気で考えています…」と吐露しつつ、現在は販売サイト側へ商品の削除依頼をかけているところだ。


■カメラマン側にも権利が生じる

盗撮などの刑事事件を多く担当し、『犯人に告ぐ!盗聴盗撮 怒りの追跡バスターズ!!』(TBS系)にも出演してきたレイ法律事務所の河西邦剛弁護士に話を聞いた。

河西氏はこの問題を追及する前提として、まず撮影における「権利」について解説する。

「2つの権利が問題になり、ひとつはAさん自身の肖像権。もうひとつは写真の著作権。写真の著作権カメラマンにあるので、ネット販売がAさんの肖像権を侵害しているかどうかが問題となります。

そもそも肖像権というのは明確に法律に規定されている権利ではなく、過去の複数の裁判例を通じて認められてきたもの。ですので、肖像権を侵害としたとしてもそれだけでは犯罪になるわけではないのが現状」(河西弁護士)。

■「撮影許諾」に鍵が…

警察

コスプレイベントでは、被写体のレイヤーの前に撮影待機列ができ、一人終わったら次の一人が「写真お願いします」「はい」という簡単なやりとりの後、撮影に入る“作法”があるが、そこに落とし穴がある。

「撮影について承諾しているとすれば、Aさんは自己の肖像権利用についてカメラマンに許諾したことになるので、基本的には肖像権侵害を理由として削除請求や差し止め、損害賠償請求は難しいと考えられます。『販売されると知っていたら許可しなかった』としても、ここはかなりグレー。例えばそれが明確に表示されていれば違法になりうるのですが、明確に伝えていないとすれば違法とまではいえない」と河西氏は分析する。

つまり安易な撮影許諾はカメラマン側にも権利が生じるため、後々トラブルを生む可能性があるというわけだ。


■自衛方法はあるのか

スケッチブック

「もっとも、卑猥な方法で利用された場合、例えば性風俗店の看板に勝手に使用されてしまった場合などは、人格権侵害を根拠に、差し止めや損害賠償請求は可能になります」と河西氏。

現在、レイヤースケッチブックボードを足元に立て、コスプレネームやキャラ名、「勝手にアップしてOKです」「公開前にDMで事前確認させてください」といった写真掲載時ルールを記すのがスタンダードになっている。これはコロナ禍で、撮影者との接触を極力なくすことにも一役買っている。

河西氏の分析を鑑みると、このボードが写真の無断販売を防ぐファクターになる。レイヤー側はボードで「確認がない限りはネット上での公開禁止」「販売行為は禁止」「下半身だけの撮影は禁止」などの文言をしっかり明記し、カメラマン側に確認させる必要がある。そして撮影時、怪しい行動があれば撮影を即中断。写真チェックの上、撮影許可の取り消しを伝えることも重要である。

しかし会場には中学生や、高校生のレイヤーも多く、言葉巧みに近寄ってくるローアングラーを退けるには限界があるだろう。トラブルが起きたらまず会場スタッフを呼び、時には周囲にいる別のカメラマンレイヤーが助けてあげることも必要となる。

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(取材・文/Sirabee 編集部・キモカメコ 佐藤

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