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 ネコ科の動物を最終宿主とし、ほぼすべての恒温動物に寄生する「トキソプラズマ」は、全人類の1/3以上(数十億人)が感染しているとされており、幅広く蔓延している。

 健常者が感染した場合は、免疫系の働きにより何の症状もないので気が付かない人も多いかもしれないが、さまざまな研究から、他の多くの動物と同様、人間の行動も変化させる可能性があることが示唆されている。

 新たに発表された研究によると、トキソプラズマに感染した人間は、性的な魅力がアップする可能性があるという。

 これは、感染することで分泌されるホルモンが影響していると考えられており、魅力的に見せることで、宿主を見つけやすくしているのかもしれない。

【画像】 ネコ科を最終宿主とする寄生虫「トキソプラズマ」

 トキソプラズマToxoplasma gondii)は、人間をふくむ幅広い動物を中間宿主として寄生する。終宿主はネコ科動物だ。

 寄生されるとトキソプラズマ症を引き起こす。全世界の3分の1の人間が感染していると言われており、感染率は国・地域・年齢によって異なる。

 トキソプラズマ症となっても、健常者の場合は免疫系の働きにより症状はほとんど現れず、生涯にわたり保虫者となる。一度感染すると終生免疫が継続する。

 ただし、免疫不全者には重篤な症状を引き起こす。また、妊娠中の女性が感染することにより起こる先天性トキソプラズマ症は、死産および自然流産だけではなく子供に精神遅滞、視力障害、脳性麻痺など重篤な症状をもたらすことがある。

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 トキソプラズマの人に対する感染は、加熱の不十分な食肉や、ネコの糞便に含まれるオーシストの経口的な摂取により生じる。眼瞼結膜からも感染するが、空気感染、経皮感染はしない。

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photo by iStock

トキソプラズマに感染した人間は魅力的に見える

 トキソプラズマが様々な神経疾患と関連していると考えられており、科学者たちは、感染によって生じる不思議な効果を研究し続けている。

 今回行われた研究もその1つだ。研究者は、寄生虫に感染した男女は、感染していない人よりも魅力的で健康的に見えると評価されることを発見した。

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トキソプラズマに感染した男女10人の顔を合成した画像(a)と、感染していない男女10人の合成画像(b)。(a)の方が (b)より魅力的に見えると回答する人が多かった

 とても奇妙なことだが、仮にそうだとすると、この現象は進化生物学の立場からは理にかなっていると、科学者たちは言う。

 なぜなら、それはトキソプラズマにとっても都合がいいからだ。例えば、宿主が異性にモテてたくさんの相手が近寄ってくれば、トキソプラズマが別の相手に寄生するチャンスは増すだろう。

 「ある研究では、トキソプラズマに寄生されたオスのラットが、寄生されていないメスにモテるようになることが確認された」と、トゥルク大学(フィンランド)の生物学者ハビエル・ボラズ=レオン氏は論文で説明する。

 これと同じことが人間でも起きるかどうかいくつもの研究が行われてきた。

寄生された男性はテストステロンが増加する可能性

 今のところ確証はないが、寄生された男性は、代表的な男性ホルモンである「テストステロン」が増えるらしきことが示唆されている。

 テストステロンが寄生虫の影響で増えたのかどうかはわからない。可能性としては、テストステロンが多い男性は危険な行動をとりがちで、そのために寄生されやすいと考えることもできる。

 その一方、寄生虫は宿主の表現系を微妙に改変し、神経伝達物質やホルモンを操ることで、己の目的を遂げやすいよう仕向けているという可能性を否定することもできない。

 ボラス=レオン氏らは、そうした操作はずっと広範囲に及んでいる可能性があると指摘する。

トキソプラズマのような性感染する寄生虫は、感染の副産物あるいは操作を通じて、人間の宿主の外見や行動を変化させ、別の宿主に寄生するチャンスを作り出している可能性があります
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Photo by Adrian Swancar on Unsplash

寄生されている人は顔の対称性が高い

 ボラス=レオン氏らはこの仮説を検証するために、トキソプラズマに感染した人(男性22名、女性13名)と感染していない人(男性86名、女性92名)を比較してみた。

 するとトキソプラズマに感染した被験者は、顔がより対称的な作りであることが明らかになったのだ。

 感染した被験者の「左右対称性のゆらぎ(fluctuating asymmetry)」は、非感染者よりも低い傾向にあった。

 左右対称性のゆらぎが低いということは、顔がより対称的な作りであるということだ。これは健康・良好な遺伝子・魅力などとも関連があるとされる特徴だ。

 また女性の感染者の場合、ボディマス指数(BMI)が低い傾向にもあった(つまりスリムだった)。そうした女性たちは、自分の魅力を高く評価しており、恋人の人数も多いことがわかっている。

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photo by Pixabay

 さらに今回の被験者の顔写真を、別の人たち(205名)に評価してもらったところ、感染者の方が魅力的かつ健康的であると評価された。

 このような差が出る理由について、研究グループは、トキソプラズマが宿主の内分泌系(例えばテストステロン)を操作することで、顔の対称性が変化しているのでは? と推測する。

 またトキソプラズマは宿主の代謝率にまで影響し、宿主の魅力や健康的な容姿をアップさせている可能性もあるようだ。

現時点ではあくまで仮説

 ただし現時点で、これらはあくまで推測の域を出ない。顔が対称的で健康的に見える人には、もともと寄生虫の悪影響を相殺する力があるとも考えられる。

 寄生虫に感染されたから魅力や健康がアップしたのか、あるいは魅力や健康が寄生虫を引き寄せるのか? どちらが正しいのかは、今回の研究だけでは結論を出すことができず、今後の調査が待たれるところだ。

 だがこうした結果は、寄生虫が必ずしも人類の敵ではない可能性を示唆している。

トキソプラズマと中間宿主(ラットや人間など)との、一見したところ非病理的で潜在的にはメリットさえありそうな相互関係は、共進化戦略の結果である可能性がある。

それは利点をもたらすか、少なくとも有害ではないもので、寄生虫と宿主双方の適応度を向上さてきたのかもしれない

 と論文では述べられている。

 この研究は『PeerJ』(2022年3月25日付)に掲載された。

References:Are Toxoplasma-infected subjects more attractive, symmetrical, or healthier than non-infected ones? Evidence from subjective and objective measurements / Mind-Altering Parasite May Make Infected People More Attractive, Study Suggests / written by hiroching / edited by / parumo

 
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