化学物質を表記する化学式には色々ありますが、中学校レベルで習う、元素記号を量に応じて表記した「組成式」のほかにも、高校の化学レベルになると分子における元素の結合を示す「構造式」もよく使われるようになります。

 構造式は元素が結合している様子を明快に表現しているので、見方によってはミニマルな美しさを感じることも。この特徴をいかし、corvusさんは日常生活で身につけられる理系なアクセサリーを作り販売しています。

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 理系ならば一度は目にしたことのある、構造式や数式などをモチーフに各種のアクセサリーを作っているcorvusさん。小学校の頃から理科が一番好きな科目だったという根っからの理系人間で、大学、大学院とも理系(化学系)に進み、現在は海外の研究所に勤務しているといいます。

 モチーフにしたきっかけは「教科書でも構造式や数式がたくさん書いてあるとテンションが上がるタイプだったので、それらを気軽に身につけられるアクセサリーにすれば、私の好きなものができる!と考えたんです」「簡単に言えば、自分に“刺さる”ものを作っていたら自然とこうなっていた、というのが近いですね」とのこと。

 別の作品で使用したパーツビーズを流用して2014年から作り始めた、という理系アクセサリー2015年からはパーツ通販で手に入れた構造式パーツを使用し、制作するようになったそうです。すると今度は、創作欲求がさらに高まり「自分の好きなように作りたい」と思うように。

 そこで2018年、新たにアルマイトステンレス板を素材にレーザーカットする手法に転向。完全オリジナルの作品作りにシフトしたそうです。

 何事もきっちりしていたい、という理系思考からか、これまでに作ったモチーフにはすべて通し番号を付けて管理しているのだそうです。「2018年に完全オリジナルになってからは、全部で50モチーフ程度をレギュラーで作り、ほかにカスタムオーダー品として20モチーフ程度を手掛けています」と話してくれました。

 モチーフとなっている化学物質は、違法薬物のものから、様々な処方薬やホルモンまで多岐にわたります。違法薬物のモチーフは、市販のパーツにはそういうものが多く、その頃からの流れとのこと。

 また処方薬については、自身の通院経験からモチーフになっている薬に馴染みが深いといった事情もあるそうです。「カスタムオーダーで、ご自身が飲んでいる薬をモチーフとして依頼される方もいらっしゃいます」と、自分を助けてくれる馴染み深い薬への愛情にも似た気持ちがあるのかもしれません。

 もちろん、医薬品ばかりがモチーフではありません。カフェインニコチンといった嗜好品に含まれる成分もアクセサリーに。構造式で見ると、普段摂取しているものも違った感覚で楽しむことができますね。

 イベントに出店している際、来場者から「コーヒーが好きだからカフェインアクセサリーが欲しい」「よくタバコを吸うからニコチンアクセサリーに興味がある」「幸せになりたいからセロトニン構造式が欲しい」という声もよく聞かれるといいます。

 アクセサリーカラーリングにも、独自のこだわりがあります。例として、6月1日より夏限定で販売するというメントールは、その由来(ミントの芳香成分)となったミント色。素材のアルマイトが様々な色付けを可能としているため、その物質と関連の深い色とすることで、理系的な楽しみをより深いものにしています。

 アクセサリーというと、カップルがペアで身につけるというのもポピュラーな話。ここにもcorvusさんは「ペアグッズを身につけたい、でも“いかにも”なグッズは恥ずかしいという方向けに」理系ならではの発想でペアアクセサリーを2つのモチーフで作っています。

 それは「アデニンとチミン」「グアニンとシトシン」の2組。どれもDNAを構成する塩基で、プリン塩基のアデニンとピリミジン塩基のチミン、そしてプリン塩基のグアニンとピリミジン塩基のシトシンが相互に水素結合し、相補的塩基対を構成します。

 DNAの構造を理解しなくても「アデニンとチミン」「グアニンとシトシン」は、DNAレベルで強い結びつきの関係だと示している訳で、分かる人には分かる理系的なペアアクセサリーといえるでしょう。同じ形ではないので、ぱっと見でペアグッズと分からないのは、確かに需要が多いかもしれません。

 corvusさんは自身の作品を通じ「ちょっと寄り付き難い、なんだか難しそうという科学をモチーフに、分からなくてもいいから身近に感じて欲しい」というメッセージを送っているといいます。またモチーフになっている化学物質の特徴から、一種の願掛けの薬として手に取る方も多いとのこと。

 特にお気に入りのモチーフをうかがうと「フルニトラゼパム(睡眠導入剤)の耳飾りと、数式プレートネックレスです」とのお答え。フルニトラゼパムは、アクセサリーの基本色である金・銀・黒から離れ、アルマイトの特徴をいかしてモチーフイメージに合う色(水に溶かした際の色)で作った最初の作品だそうです。

 数式ネックレスは、特殊相対性理論における「質量とエネルギーの等価性を示す式」に、量子力学における「シュレディンガー(シュレーディンガー)の方程式」と「不確定性原理の式」の3種。「プレートを枠とすることで、構造式などと違い、線である部分を白抜きにするという視点の転換をもたらした作品です」と語ってくれました。


 このほかにもミジンコモチーフにしたアクセサリーもあり、幸福感をもたらすとされるホルモンセロトニンや、カフェインニコチンといった日常の嗜好品、六角形のベンゼン環といったシンプルなものも人気だとのこと。corvusさんのサイト「科学雑貨Scientia」では、各種作品の紹介と各種通販サイトへのリンクが用意されています。

<記事化協力>
corvusさん(@cosmicdroplet)

(咲村珠樹)

カフェインやニコチン、薬まで 色にもこだわった化学物質の構造式アクセサリー