危機的な状況にある公共交通機関、その状況を打破しようと、滋賀県で「交通税」を導入する検討が始まっています。日本ではまだ導入されたことのない「交通税」とは、どのような税なのでしょうか。

滋賀県で導入が検討されている全国初の“交通税”とは

滋賀県で「交通税」が検討されています。一言でいうと、地域で運行されているバスや鉄道の維持費を、広く県民の税金で賄うというもの。疲弊する地方の公共交通機関の救世主になるのではないかと注目されています。

交通税の導入はもちろん、本格的に検討されるのも全国初。2022年3月24日滋賀県の税制審議会が、「地域の公共交通機関を支えるには、県民に新たな税負担を求める必要がある」として、交通税導入の答申案をまとめ、三日月大造知事が導入を検討する方針を示しています。

もっとも、滋賀県ではこれまでも経営の厳しい事業者などに補助金を出していましたが、税制審議会の資料によると、「県政世論調査では、地域公共交通に関する項目が11年連続で不満度ナンバー1」なのだとか。また、県としても今後の県内交通の維持・発展の在り方をまとめた「滋賀交通ビジョン」を打ち出しています。

そうしたなかで、税制審議会は財源を明確化するためにも、「利用者の減少と利用料金の引上げとの負のスパイラルを超克するための全国の先駆けとなる先進事例を創出し、全国へと発信していくべきである」と答申。これにより交通の維持につなげるとともに、三日月知事は「税負担とすることで公共交通に関心を持つ県民が増えるのではないか」とのメリットにも言及しています。

徴収方法は県民税(住民税)や固定資産税などに上乗せする案が検討されているそうですが、税収規模などは未定、今後検討するとのことです。

海外ではある交通税

日本では馴染みのない交通税ですが、海外では例があります。

たとえばフランス路面電車「トラム」を支えているのが交通税。市町村の規模の大きさによって税率が決められ、一定の規模以上の企業から全従業員の給料の総額に基づいて徴収されています。ただ、社員に他の交通手段を利用させている場合は免除されるそうです。

ではなぜ、日本でこの交通税がもっと多くの自治体で検討されていないのでしょうか。ひとつには、法律にも「受益者負担の原則」があり、利用して利益を得る者だけが維持費を負担すべき、という考え方が根強いこと、そして交通を担う事業者の多くが民間企業であることなどが挙げられるでしょう。また、公営の交通機関であっても、地方公営企業法により国や自治体の会計から独立した運営が義務付けられている側面もあります。こうした点から、滋賀県内でも交通税の導入には賛否両論あるようです。

しかし、滋賀県税制審議会は、交通税に関して「広く県民一般が受益者となりうる行政分野は他にも存在するが」としつつ、これまでの在り方に次のような問題点を指摘しています。

「例えば、子ども子育てを含む社会保障の分野については消費税・地方消費税収を社会保障施策に要する経費に充てることが明確化され、また、脱炭素・CO2ネットゼロ社会づくりの分野については炭素税の導入が現に議論されていることなどと比べると、地域公共交通の分野については、これまで交通事業者の自助努力にその多くを依存し、財源論が置き去りにされてきた面がある」

加えて審議会は、交通の「目指すべき姿」の議論と、その財源を巡る議論は同時並行で進めるべきとしています。「税負担の議論が先行して目指すべき姿の検討がしにくくなることもあってはならない」とのこと。また、交通の充実している地域とそうでない地域の格差、つまり税負担への納得感の違いについては、「県全体に利益がもたらされることを示せるようにする必要がある」としています。

利用者だけでなく地域全体を受益者とみなす交通税、導入が決まるかどうかは別としても、ひとつの問題提起になっているのではないでしょうか。

近江鉄道の電車。2024年度から上下分離式に移行する(乗りものニュース編集部撮影)。