幼い頃から文字や数字に興味があって、小学校入学前に片仮名を覚えていた子がいました。その子が、小学校入学後の作文で、「プールでおよいでたのしかったです」と書いたら、「片仮名はダメ! 平仮名で書きなさい!」と先生に大きくバツをされました。そこで、「ぷーる」と書いたらこれもバツ。「ー」は片仮名で使う記号だから「ぷうる」と書かなくてはならない、というのです。これって、おかしくありませんか。

自分の名前を漢字で書いて、叱られる 

 小学校に入学したらまず、平仮名から学びます。片仮名を教わるのはもう少し後になってからです。でも、子どもは小さい頃から、ファミリーレストランのメニューなど、日常的に片仮名をよく目にしているものです。

 子どもは片仮名も漢字も区別なく、どんどん吸収していきます。2歳くらいの子どもでも、「アンパンマン」「メロンパンナちゃん」といったキャラクターの名前を覚えると同時に、片仮名も自然に覚えていきます。

 子どもは興味を持ったものを文字にして書きたくなるので、いつの間にか片仮名の書き方も覚えてしまうことがあります。先述の子も、片仮名で表記されているものは、片仮名で書いていました。ところが、小学校に入学した途端、片仮名で書くことを否定されてしまいます。学校の先生によれば、その理由は「まだ教えていないから」。もちろん、許容範囲の広い先生もいますが、そうではない先生も実際にいます。

 これは、私が学習塾を経営していた頃、ある保護者から受けた相談です。

「幸せな人生を歩んでほしい」と願って、わが子に「幸子」と命名した田中さん(仮名)。子どもが持ち帰ったテストを見ると、名前の欄に書かれた「田中幸子」の「幸子」に大きくバツがされていました。母親が担任に抗議したところ、「“幸”の漢字はまだ国語の教科書に出てきていないので、書いてはいけません」「落とし物をしたとき、手元に戻ってきませんよ」と言われてしまったのです。わが子に心を込めてつけた名前にバツをされ、母親は悲しい思いをしたそうです。

 この先生の言い分としては、名前の漢字を書くときは、「たなかさちこ」→「た中さちこ」→「田中さちこ」→「田中さち子」→「田中幸子」と、教科書に出てきた順に従って名前の漢字を使わなければバツをつける、ということなのでしょう。名前だけでなく、「学校」という表記も「がっこう」→「学こう」→「学校」と表記するように教える先生もいます。

 現在は、学年別配当漢字で習っていない漢字も、振り仮名を付ければ、学校で子どもに渡すプリントやテストに載せてもよいことになっています。これを知らない勉強不足の先生が、自分の考えで、「まだ自分が教えていないものは、知っていても書くな」と言っているのかもしれません。自分の名前に振り仮名を付けるのは、何となくはばかられるかもしれませんが、幸子さんは振り仮名をつけていれば指摘されないで済んだのかもしれませんね。ただ、先生からは「嫌みだ」と思われるかもしれませんが…。

「もう知っている」を煙たがる?先生

 子どもは自分が知っていることを言いたがります。それは、他の子をばかにしているわけでも、自慢したがっているわけでもなく、「知っているから話したい」だけ。文字も同じで、「知っているから書きたい」のです。

 ただ、小学校の教師の中には、「入学前にいろいろ知識を入れられると、授業がやりにくくなるから困る」と、まだ学校で教えていないことを「もう知っている」「もう書ける」と言う子どもを嫌がる人も実際にいます。しかし、「知り過ぎていると小学校入学後に授業を妨げるから、幼児期にいろいろ教えないでほしい」というのは、先生の勝手な都合なのではないでしょうか。

 未就学の子どもが、学校で習う以上の知識を持っていることは果たして、本当にいけないことなのか――。「入学前に知り過ぎている」ことは決して悪いことではないと私は思います。皆さんはどう思いますか。

子育て本著者・講演家 立石美津子

片仮名を書いたら「バツ」をされ…