総火演などで実射を披露する「92式地雷原処理車」。撃ち出される大型ロケットは、実は敵を攻撃するものではないとのこと。どのように使う装備なのか見てみます。運用には知られざる苦労もあるようです。

「ジャベリン」ミサイルより短い射程

毎年、静岡県御殿場市で開催されている「総火演」こと「富士総合火力演習」。この演習では戦車やヘリコプターなどを始めとして、普段なかなか目にすることができない陸上自衛隊装備の実弾射撃が披露されますが、なかでもひときわ目を引く射撃を見せる車両があります。それが「92式地雷原処理車」です。

92式地雷原処理車は、一見すると装軌式、いわゆるクローラー駆動の装甲車の上部に大型の箱型ランチャー(発射機)を載せています。この車体上部のランチャー部分から大型ロケットを前上方へ向け撃ち出すのですが、そのロケットの射程はせいぜい数百mほどしかありません。

ロシアウクライナの戦いでは対戦車ミサイルジャベリン」のような個人携帯型ミサイルが話題になりましたが、これが数km程度は飛翔するのと比べると、92式のロケットは全くといってよいほど飛びません。

しかし、短射程で問題はないのです。なぜならば、これは敵戦車などを攻撃する装備品ではないから。

ランチャーから撃ち出す大型ロケットは、敵が仕掛けた対戦車地雷などの障害物を爆破処理し車両用通路などを開設するためのもので、仮にロケットを敵の装甲車などに直撃させても破壊することはできないようです。そのため、射程が短くても問題ないといえるでしょう。

撃った後に控えている重要な作業とは?

92式地雷原処理車は、その派手な見た目から最初のロケット投射に目が行きがちですが、実はその後の方が重要です。このロケットの中には26個の爆薬ブロックが収納されており、ロケットを投射すると後部にあるパラシュートが展張することで、車体とつながった「制動索」と呼ばれるゴムロープによって、ロケット内部に入っている爆薬ブロックを引きずり出す構造になっています。

つまり、ロケットの前進力と、ゴムの後ろに引っ張る力が互いに働くことで、爆薬ブロックはまっすぐな状態に伸ばされて地上へと落達するのです。

この爆薬ブロック1個でどれだけの幅を処理できるのかは公表されていませんが、全幅3.4mの90式戦車も楽々通れるほどに拡幅できるといわれているため、最低でも直径5m程度、最大でも直径8mほどの地雷原突破口を作り出せると考えられます。

ただ、問題はここからです。もし、地面が凹んでいたり、爆薬が樹木に引っ掛かったりした場合、地面に設置してある敵の地雷に爆風が到達せず、地雷が処理されない状態で残ってしまいます。

そうなると味方の戦車などが地雷原を安全に通り抜けられないため、92式地雷原処理車を運用する施設科部隊の隊員は、味方の掩護射撃を受けながら地雷原まで走り、地雷の未処理部分がないかどうかを確認しなければならないのです。

これは決死の作業で、実際に対抗演習と呼ばれるような、赤外線で交戦する装置、通称「バトラー」を用いた訓練では、多くの施設科隊員がこの障害処理中に敵(対抗部隊)から狙い撃ちされ、「死亡」判定を受けています。

この部分は、総火演では披露されることはありませんが、実は重要な作業だといえるでしょう。

フル装薬で射撃したときのトホホ話も

総火演は今年もインターネット動画「YouTube」でライブ配信されますが、この92式地雷原処理車の投射からパラシュートで引っ張り出される爆薬ブロック、そして爆破の様子を視聴したのち、“未処理がないか施設課隊員が走り回っている”姿をイメージすると、臨場感が高まるかもしれません。

また、総火演において流れる無線の音声をよく聞いていると、92式地雷原処理車がロケットを投射する前後に、戦車中隊による射撃を行い、敵の動きを一時的にストップさせているのが確認できるはずです。常に互いに援護し合い、決して単独で行動しているわけではないことがわかると思います。

ちなみに、総火演では爆薬ブロックの数を4分の1程度まで減らして投射します。その理由は、演習場使用協定に基づく爆破薬の使用量制限に引っ掛かるからです。装薬をフルにした場合、爆発音とその衝撃はすさまじく、地元住民からクレームが来てしまいます。

ゆえに、国内における92式地雷原処理車のフル装薬での投射は、制式採用前の試験運用時に北海道の矢臼別演習場で実施された一度しかないといわれています。それ以外でフル装薬での投射を行っているのはアメリカでの訓練時のみに限られます。

処理用ロケットを投射する92式地雷原処理車。この時、乗員はハッチを閉めて車内から投射ボタンを操作する(武若雅哉撮影)。