スーパーやコンビニで、客が自ら商品の精算・会計を行う「セルフレジ」が増えています。しかし、セルフレジを導入している店で、店員がいるレジに行列ができ、セルフレジには誰も並んでいないという光景をよく見ます。

 一方、セルフ式のガソリンスタンドでは、店員が給油する場合よりもガソリンの価格が安いのに、スーパーやコンビニのセルフレジでは商品の値段が安くなりません。精算・会計の手間が増えるのに、なぜ、スーパーやコンビニのセルフレジでは、値段が安くならないのでしょうか。経営コンサルタントの大庭真一郎さんに聞きました。

店員の配置転換ができない

Q.そもそも、スーパーやコンビニの「セルフレジ」は、どのような目的で設置されるようになったのですか。

大庭さん「スーパーやコンビニがセルフレジを設置することで、『店員を他の業務に再配置できる』『売上金管理の効率化が図れる』というメリットが生じます。

有人のレジで対応すると、必ず特定の店員がレジ業務に専念しなければなりませんが、セルフレジを導入することで、レジ業務に配置していた店員を接客や品出しなどのレジ以外の業務に配置できるようになり、顧客満足度の向上にもつながります。

また、店は、1日の営業が終了した後にレジを締め、売上金の確認を行います。有人のレジの場合、金銭の出し入れは人が行うため、記録上の現金残高とレジの現金残高が一致しないことがあります。その場合、店は、当日のレジの記録をたどり、原因を明確にしなければなりませんが、セルフレジの導入で、現金残高が一致しないリスクを減らすことができます。

このこと以外にも、コロナ禍である昨今は、店員との接触を避けるために、セルフレジで精算したいという客側からの要望もあります」

Q.セルフ式のガソリンスタンドは、店員が給油するよりも値段が安くなります。なぜでしょうか。

大庭さん「セルフ式のガソリンスタンドは有人サービス式のガソリンスタンドと比較して、1リットル当たりのレギュラーガソリンの価格が数円程度安いことが通常です。その理由は、店員の手間が少なくて済む、すなわち配置人数を減らせることによって、人件費を削減できるからです。

有人サービス式のガソリンスタンドでは一般的に、給油以外にも、車の窓掃除やゴミの引き取り、空気圧やエンジンオイルの点検などのサービスをしてくれます。固定客を増やすためのサービスですが、それらを行うことで必要となる店員の数も増えます。

一方、セルフ式ガソリンスタンドでは、基本的に車の運転手などの客が、給油作業やその他のサービスを自分で行います。そのため、店員が客にあまり時間を割かなくてもよいので、必要な配置人数を減らすことができます」

Q.スーパーやコンビニの「セルフレジ」では、店員がいるレジよりも精算・会計の手間が増えます。なぜ、セルフ式のガソリンスタンドのように値段を安くできないのでしょうか。

大庭さん「スーパーやコンビニなどがセルフレジを導入する目的は、前述したように、店内業務の効率化や顧客満足度の向上にあります。すなわち、セルフ式ガソリンスタンドのように、店員の配置人数を減らすことを前提としていません。

そのため、人件費の削減のような目に見えるコスト低減効果を期待できないことが多く、客の精算・会計の手間が増えても、販売価格を下げないことが一般的です。人員配置の考え方から、現状ではスーパーやコンビニでセルフレジを利用しても、販売価格が安くはならないでしょう」

Q.スーパーでもコンビニでも、店員がいるレジは行列ができるのに、「セルフレジ」には誰も並んでいないという光景をよく見ます。セルフレジは、日本人に受け入れられにくいのでしょうか。

大庭さん「日本におけるセルフレジは、2003年にイオングループが試験導入したことが始まりですが、本格的な普及は今から5~6年ほど前からであり、感覚的に慣れていないことでセルフレジを利用しない人が多いものと思われます。

調査会社のマイボイスコム(東京都千代田区)が、2018年12月に実施した『セルフレジの利用に関するアンケート』でも、40%ほどの人が店にセルフレジが設置されていても利用しないと回答しています。その理由も、『操作や手順が分かりにくい』『操作方法が分からないとき、エラーが生じたときの対応が不安だ』などが、上位に挙げられています」

Q.スーパーやコンビニで、セルフレジを利用する人を増やす対策はあるのでしょうか。

大庭さん「セルフレジの利用度合いを高めるためには、客側のメリットを明確にする必要があると考えます。客側のメリットは、前述した非接触による買い物代金の精算に加えて、『品切れの防止』『レジの待ち時間の短縮化』『キャッシュレス決済のしやすさ』などが挙げられます。

セルフレジの利用度合いが高まり、店員がレジ以外の業務に対応する時間が増えることで、品切れを防止するための店内での商品管理がしやすくなります。セルフレジの操作を分かりやすくすることで、客一人当たりのレジ精算時間が短くなり、レジの待ち時間の短縮化を実現できます。

セルフレジを多様なキャッシュレス決済に対応させることで、客はキャッシュレス決済をしやすくなります。店側がこれらの対応を行い客にアピールすることで、セルフレジの利用度合いが高まるのではないでしょうか」

オトナンサー編集部

「セルフレジ」使用でも安くならない理由とは?