不祥事や事件・事故を受けて謝罪会見が開かれる際、会見登壇者が「土下座」をすることがあります。最近では、4月23日に起きた北海道・知床沖での観光船遭難事故について、運航会社の社長が会見をした際、土下座を繰り返しました。謝罪会見での土下座は必要なものなのでしょうか。広報コンサルタントの山口明雄さんに聞きました。

「保身」と映る可能性も

Q.4月27日に開かれた記者会見で、「知床遊覧船」社長は土下座しました。この土下座をどのように見られますか。

山口さん「記者会見での土下座は、一般の人たちには、時代錯誤で大げさなパフォーマンス、あるいは保身の行為と映る可能性が高いと思います。土下座は本来、目上の人や神様への最敬礼だったり、被害者や断罪者に直接、深く謝罪をする行為であったりしたと言われています。記者会見では、視聴者の多くは一般の国民であり、直接の被害者ではないので、違和感を抱く人が多いと思います」

Q.「土下座」は一般的に謝罪として、意味のあるものなのでしょうか。逆効果になる場合はないのでしょうか。

山口さん「加害者が行う『土下座』に対して、被害者は、深い謝罪や誠意を感じる場合もあると思います。逆に『そんな安っぽい行為には、だまされないぞ』と思って、不快感や敵意をあおるかもしれません。ケース・バイ・ケースだと思いますが、いずれにしても現代的な謝罪法ではないと思います。現代の謝罪は、言葉や文書で、責任の所在を明らかにし、責任が自分にあると認める場合は、深く謝罪し、補償を含めた解決策や再発防止策を提示することだと思います」

Q.運航会社の社長は、遺体安置所でも土下座する姿が報道されました。遺体安置所での土下座についてはどのように見られますか。

山口さん「遺族の感じ方次第ですので一概には言えませんが、周りからはパフォーマンスと思われる可能性が高いと思います。日本では死者への弔いを表す一般的な行為は黙とうだと思います。合掌し黙とうする場合もあるでしょう。死者への謝罪も、心の中で請うのが良いのではないでしょうか。

土下座に対して悪いイメージを抱く日本人は少なくないようです。鳩山由紀夫元首相は、2015年に韓国のソウル市内にある西大門刑務所歴史館を訪問し、植民地統治時代に日本が行った行為を謝罪し、追悼のモニュメントに献花し、韓国で最上位の敬意を示す作法に従って、靴を脱いでひざまずき、手をついて祈りをささげました。その姿が写真で報道されると、土下座したと勘違いされ、ネットで、『国辱的』だとして大炎上したことがあります」

Q. 4月27日に開かれた知床遊覧船社長の記者会見のタイミングや内容について、どのように思われますか。

山口さん「知床遊覧船社長の記者会見のタイミングは、非常に遅かったと思います。会見内容も、お粗末そのもので、知床遊覧船の安全運航管理の体質について疑念を深める結果を招いたと思います。

観光船『KAZU1(カズワン)』が消息を絶ったのは4月23日の午後1時過ぎ、記者会見が開催されたのは、事故発生から5日目の4月27日の夕方でした。会見では発言の矛盾が目立ちました。例えば観光船の出航について『最終的に船長判断』と発言する一方、『最終的な判断はすべて私』とも発言し、安全運航管理に大きな問題があったことが、白日の下にさらされたと感じました」

Q.謝罪会見で登壇者が謝る際の望ましい姿勢について教えてください。

山口さん「背筋を伸ばして直立し、謝罪の言葉を述べた後、頭だけではなく、腰から体をしっかりと前方に曲げてお辞儀をするのが良いとされています。お辞儀の角度は、90度は無理でしょうが、深ければ深いほど良い、時間は短くても7秒は必要、と。登壇者が複数の場合は、動作をそろえることも大切だとされています。もちろん、このような決まりがあるわけではありませんが、しっかりと誠意を持って、頭を下げるべきでしょう」

オトナンサー編集部

記者会見で土下座する観光船運航会社「知床遊覧船」の桂田精一社長(2022年4月、時事)