2022年6月9日(木)よりヒューリックホール東京を皮切りに上演される、舞台『死神遣いの事件帖 -幽明奇譚-』。江戸で探偵業を営む死神遣いが、難事件の解決に挑むストーリーだ。映画と舞台を完全連動させるプロジェクト「東映ムビ×ステ」の第2弾作品として2020年に上演された映画『死神遣いの事件帖 -傀儡夜曲-』、舞台『死神遣いの事件帖 -鎮魂侠曲-』の続編となる。

今回は、映画『死神遣いの事件帖 -傀儡夜曲-』に続き主人公・久坂幻士郎を演じる鈴木拡樹にインタビュー。今作の見どころを尋ねると、“しにつか”シリーズにかける熱い思いをのぞかせた。

ーー続編の制作が決まった時の心境を教えてください。

前作の『死神遣いの事件帖-傀儡夜曲-』を撮っている時に、キャストやスタッフ、制作陣の皆で「新しい事件が起きたら、もしかしたら続けられるかもしれないね」と言っていたんです。その言葉が本当に実現したのが嬉しかったですね。続けたいとは願っていても、叶うのが難しいということがもちろんあると思います。この作品に対しては「やれたらいいな」ということをかなり思っていましたし、ちゃんと形にできる喜びを感じながら映画『死神遣いの事件帖 -月花奇譚-』(今冬公開予定)にクランクインしました。

ーー「やれたらいいな」と思えた要因は、どんなところだったのでしょうか。

まず、ストーリーの展開が楽しいんです。これまで事件解決モノってあんまり演じて来なかったんですが、探偵役ってお芝居をしながらもなかなか頭を使うんですよね。大変ではあるんですけど、やりごたえがあってとても楽しい。それと、映画の撮影を行った東映京都撮影所にもまた行きたいと思っていました。前作の時、スタッフさんが本当に良くしてくださったんですよ。本当に気さくな方が多くて。また皆さんにお会いしたいなって思っていたので、今作でもご一緒できて嬉しかったです。

ーー映画『-月花奇譚-』の撮影をされた後、舞台『-幽明奇譚-』の稽古に入られたとのこと。時系列としては舞台が先のお話ですが、映画の撮影時点でストーリーの全容はご存じだったのでしょうか?

知らなかったです。「こうなるということは、きっと何かあったんだろう」というスタンスで進めていましたし、いずれ舞台で補完されていくのだろうと思いながら演じていました。その点でいうと、情報がほとんどない状態で演じられた亞門役の(小林)亮太くんのほうが大変だったと思います。舞台への取り組み方としては、未来のお話にあたる映画のことはいったん忘れつつ、どういう成長の仕方をすると映画の幻士郎に繋がっていくのかということだけ少し考えていきたいです。

ーー前作『-鎮魂侠曲-』の取材時、脚本・演出を手掛ける毛利亘宏さんが、幻士郎と鈴木さんの不在を寂しがられていたのが印象に残っています。

僕も出たかったですよー(笑)! ただ、今作は前作の舞台と時系列がちょっと重なってるんです。「一方、その頃……」のような描かれ方なので、前作に出られなかったからこそ、今作に出られたというところでもあります。そう考えると、この形で良かったです。

ーー今作の台本を読まれた感想を教えてください。

死んだ人間がどうやって事件を解決していくんだろうと。いろんな不都合が起こりそうなスタートなんですけど、そういう部分からまず今回の作品の特殊さを感じました。前作の舞台を見ていても感じたことなんですが、裏テーマとして“かぶく”ということがあったと思うんです。例えば、ミュージカルだと感情が高ぶると歌になっていくと思うんですけど、このステージの場合はかぶく。今作でも、その瞬間は大きな見どころになるのではないでしょうか。

ーー幽霊として戻ってきた幻士郎ですが、かなり怒涛の展開が待ち受けています。

胸アツですね。映画『-月花奇譚-』に繋がっていく話ですし、前回演じた時よりも少し前のめりになっている幻士郎が感じ取れました。特にラストの展開は、幻士郎を改めて成長させた要因になったんだと思います。

ーー思わず息をのんでしまうシーンもありますが、そういった場面でも淡々と台本を読み進められるタイプですか?

いったん止まることはしないんですけど、たぶんものすごく暗い表情にはなってるでしょうね(笑)。できるだけ人に見られたくない顔はしてると思います。

ーー今作では新たに死神・亞門が相棒となりますが、十蘭とは一味変わったコンビネーションが見られそうですね。

十蘭のコンビ感とは180度違いますね。幻士郎と亞門は、二人とも元気でおバカなキャラクター。波長が合っているので居心地の良さはあると思いますし、放っておくと延々と会話が続けられちゃうタイプ(笑)。十蘭との場合は、幻士郎がまくし立てて十蘭がスパッと切る。それが二人のなかで落ち着く一連の流れですし、長年の付き合いからしっくり来ているところでもある。そういう違いは感じていますね。

ーー歌舞伎一座の殺人事件に加え、幻士郎の父・久坂衒太夫との物語も描かれていきます。父と息子という関係性の点では、どんなことを感じましたか?

今作は、幻士郎にとって亡くなった父親に伝えられなかったことと向き合うチャンス。久坂の一家は死神遣いを代々継いでいっている家系なので、衒太夫に厳しく育てられたからこそ生まれた親子関係というものがありますし、父親への思いを吐露できるのが今回の作品なのかなと。親子がテーマになっているのは幻士郎だけじゃなくて、ほかのキャラクターでも描かれているんです。久坂家とはまったく状況は違いつつ、幻士郎にとって重なる部分もありますし、どこか繋がりのようなものは感じました。

ーーすでに稽古に入られているそうですが、どんな雰囲気ですか?

まだ序盤なんですが、一周目のシーン稽古が一通り終わったところ。かなり順調だと毛利さんがおっしゃっていました。二周目に入ってからは、キャストみんなが攻めの姿勢に入っています。廣瀬(智紀)くんとご一緒するのも久しぶりですし、安西(慎太郎)くんはもっと久々ですね。二人とも相変わらずストイックで、僕もたくさん刺激をもらっています。

ーー役作りにあたり、鈴木さんにとって現在はどんな段階にあたるのでしょうか。

周りも役を膨らませようとしている今の段階だからこそ、映画では膨らませられなかった部分についても考えています。同時に、舞台での幻士郎は、きっと舞台の中で育った幻士郎になるんだろうなとも感じていて。前作もそうだったんですけど、映画と舞台でよく棲み分けができている作品だと思うんです。同じキャラクターではあるけど、テンポ感がまるで違う。柴﨑(貴行)監督の場合は子供も見やすいような作りや、大人が楽しめる呼吸の間も入れているんです。舞台には毛利さんの色があって、かぶいている。「押して押してさらに押して、大事なセリフ! キメて!」みたいな、歌舞伎でいう見得を切るような見せ場がふんだんに入っている印象を受けました。今作も舞台と映画で違いがありますし、同じキャラクターでありつつも、映画とはまた違って見える幻士郎になるはずです。

ーーちなみに、毛利さんからはどんなディレクションを?

今は、主に心境の変化についてシーンごとに細かいアドバイスをいただいています。2周目に入って「こういう感じでやってみたら?」というのを楽しみつつ、修正していってるところですね。

ーー幻士郎はまさに“愛すべきキャラクター”といった人となりですが、演じる鈴木さんから見た愛すべきポイントはどういったところでしょうか。

ちゃらんぽらんななかにも思いやりがあって、父親の才能を継いでいるのか頭が切れる瞬間がある。彼の場合、意図しているわけではないのでしょうけど、能ある鷹は爪を隠すといったところが魅力ですし、その瞬間がかっこよく映ったらいいなとも考えています。

ーー最後に、お客様へメッセージをお願いします。

冒頭は「もしかして、結構シリアスなのでは?」という展開からスタートするので、なんだか壮大な物語になりそうですが……基本的にはコメディタッチに描かれています! そのテイストは、すぐにわかっていただけると思います(笑)。お客様にはぜひ、たくさん笑っていただきたいですね。最後は笑顔で皆さんに劇場を後にしてもらえるように一同努めて参りますので、ぜひぜひお楽しみください。

取材・文=潮田茗   撮影=池上夢貢

鈴木拡樹