2022年6月10日(金)から上演される舞台『薔薇王の葬列』に、女優の若月佑美が出演する。本作は、シェイクスピア史劇を原案にした菅野文による同名人気コミックスをもとにしたTVアニメの舞台化。リチャード三世が男女二つの性を持っていたという大胆なアレンジで、15世紀のイングランドで起きた王座を巡る戦い“薔薇戦争”を舞台に描くダークファンタジー。主人公となるリチャードを有馬爽人とともにWキャストで演じる若月に、本作への意気込みなど話を聞いた。

【写真】舞台『薔薇王の葬列』に出演する女優の若月佑美が意気込みを語る

■今はとにかく全力で頑張ろうという気持ち

――まずは、出演が決まったときの気持ちを聞かせてください。

若月佑美】原作を読んでいたのですごく嬉しかったんですけど、読んでいたからこそ、とても心配になってしまいました。リチャードの苦悩や大変さを知っていたので、私に務まるのかなという不安も同時にあって。でも、それ以上に「挑戦したい!」と思う役者としての心もあったので、お受けさせていただきました。今年イチ、自分の成長の場になる作品だと思うので、今はとにかく全力で頑張ろうという気持ちです。

――演じるリチャードは、どんなキャラクターでしょうか?

若月佑美】まず一つは、母親に愛してもらうことが出来なかった末っ子。というのも、女の子でもあり、男の子でもある二つの性を持って生まれてきたこともあり、悪魔と呼ばれてしまうんです。最初は「リチャード」という名前をくれた父上を王にするため、その片腕になりたいと頑張っていくんですけど、いろいろあって最終的には自分の目的は何なのか、それを自問自答しながら、その目的に向かっていくという子です。

――二つの性を持つ、という部分での苦悩や葛藤に加えて、王の息子として王座争いにも参加していく。かなり難しいキャラクターでもありますね。

若月佑美】中世イングランドのお話なので、王位継承など今の日本にはない上下関係というか、約束ごとがあったりもするんですよね。自分の体にも悩み、そういった周りのことでももがき苦しんでいて、毎日葛藤して、毎日頑張っている存在です。

昔は日本にも長男だから家を継がなくちゃいけない、というようなことがあったと思うんですけど、リチャードも同じように父上から同じ「リチャード」という名前をもらったから、ずっと父上に尽くさなくちゃいけない。自分が「リチャード」という王の名前を守らなくちゃいけないというものがあって。それが使命感なのか、しがらみなのか。つらいところもありますが、面白い部分でもあるなと感じています。

■ リチャードが強い人に憧れるという部分では理解できる

――共感できるところはありますか?

若月佑美】なんとなく過去の自分を見ているような気がするんです。過去の自分はリチャードと逆で「女の子になりたい」って思っていましたから。それこそ、かわいい女の子がたくさんいる集団のなかにいたので、そういう存在に憧れていたんですよね。自分はどちらかというと、性格もサバサバしていたし、パンツや黒っぽい洋服が好きだったし、いわゆる“かわいい女の子”というタイプではなかったので。そういう子がとても羨ましくて、憧れていました。私もあんな風になりたいって思っていたので、リチャードが強い人に憧れるという部分では理解できるところがあります。

――逆に、自分とは全く違うなと思うところは?

若月佑美】リチャードは一人で生きようとするんですよね。いろんな人と出会うのに心を閉ざしていて「自分はみんなと違うんだ」と言っているところ。私も昔は一人で頑張ろうとしていたタイプだったんですけど、年齢を重ねていくにつれて、人のアドバイスを聞くようになったというか。誰かの言葉で、1週間悩んでいたことが1日で終わることもある。そこに気付き始めてから、いろんな人に頼れるようになったので、そこはリチャードとちょっと違うなと思います。でも、リチャードの気持ちも分からなくはないので、そこに寄り添うように演じていきたいです。

――リチャード役は、有馬爽人さんとのWキャスト。男性と女性でのWキャストというのは珍しいと思いますが、リチャードのキャラクターを考えると納得のキャスティングでもありますね。

若月佑美】そうなんですよ。私もお話を聞いたときに「その手があったか!」と思いました。キャストが公開になったときに原作のファンの方も同じように思ってくださった方が多かったみたいなので、それが嬉しかったです。

リチャードは男女両方の性を持つキャラクターなので、男性のヘンリーに対して、女性のアンに対して、それぞれと向き合うときの気持ちの変化、という部分でもリチャードをWキャストで演じることで、お客様への響き方が変わってくるのかなと。自分にとってもいい挑戦だと感じています。

――Wキャストで演じることについて、プレッシャーを感じることは?

若月佑美】相手のお芝居や殺陣を観る機会が多い分、「あの部分、いいな」と取り入れたいなと思うことはもちろんですけど、「ここは自分、出来ていないな」という反省もたくさん生まれてしまうので、プレッシャーというよりは自分にとっての課題を見つけやすいなと思っています。課題ときちんと向き合って、私なりのリチャードを作り上げていきたいです。

■剣の殺陣は初めてなので、作法から教えていただいている

――稽古場でも有馬さんの殺陣を真剣な眼差しで見つめているのが印象的でした。今回、殺陣のシーンも多そうですね。

若月佑美】原作だとリチャードが実際に戦っているシーンはそこまで多くないので、舞台でも同じくらいかなと思っていたんですけど、結構たくさんあるんです。剣の殺陣は初めてなので、作法から教えていただいています。

リチャードは剣の腕がいい、という設定もあるので、もっと頑張らなきゃと思っています。今回はキャストのなかに『刀剣乱舞』シリーズに出ている方もいらっしゃるので、お力を借りて、かっこよく剣を振れるように頑張ります!

――殺陣はやっぱり難しいですか?

若月佑美】経験を重ねたことで、余計に難しく感じるようになっちゃいました。以前は、知らないがゆえに思いっきり振れていた部分があったんですけど、今は知識が増えた分、いろいろと考えてしまうんです。そこが、今の私の課題です。型をきれいに見せたいという欲も出てきてしまって。でも、きれいすぎるとリチャードの感情とは違うなとか。

そういった課題を乗り越えていったら、自信を持って「私、殺陣出来ます!」と言えると思うので、剣士の役がいつ来ても大丈夫なように練習し続けていきたいです。女剣士とか。あんまりなさそうですけど(笑)。

――では、最後に本作の見どころをお願いします。

若月佑美】アクションも見どころではありますが、人間ドラマという部分にも注目していただけたらと思っています。原作の長い巻数をぎゅっと数時間で収めているので、シーン一つ一つがとてもいい意味で重いというか、しっかりと実の詰まったものになっています。今回は2幕ものなんですが、演出の松崎さんから1幕が終わった時点で「『1本分の舞台を観た』というような充実感を持ってもらえるように。そして、『このあとも続くんでしょ?どうなるの?』というワクワク感を出せるように」というお話をいただいたので、そういう作品になるよう頑張りたいです。1幕終わりでどんな気持ちになるのか。最後まで見どころがたくさんありますので、期待していただけたら嬉しいです。

――1度に2作品観るような感覚になりそうですね。

若月佑美】そうなんです。私たちも2作品分くらいの体力と気力で向き合っています。リチャードとして生きられることを光栄に思いながら、とても大変な役でもあるので身体全てを使ってエネルギーを出し尽くして演じていきたいです。

撮影・取材=野木原晃一 文=yoshimi 

(C)菅野文(秋田書店)/舞台「薔薇王の葬列」製作委員会

舞台『薔薇王の葬列』にてWキャストでリチャードを演じる女優の若月佑美