さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。

6月17日より全国公開予定の映画『PLAN 75』に出演している俳優の磯村勇斗(いそむら・はやと)さんが影響を受けた作品について語ります!

【画像】磯村勇斗の人生を動かした映画

■ホラー映画と松田優作を敬愛

――子供の頃に見て印象的だった作品は?

磯村 最初に見たのは『スター・ウォーズ』(1978年~)で、確かエピソード4だったと思います。家にあったレーザーディスクで見ました。昔も今も大好きな作品です。

――磯村さん、日本版ルークやってほしいです!

磯村 やりたいですね! でも、ずっと出られるのはオビ=ワンとかですけど(笑)。

――確かに(笑)。

磯村 中学、高校時代にはとにかくホラー映画にハマっていましたね。ジョージ・A・ロメロ(監督作品)から始まって、ゾンビだったり、スプラッターだったり。毎週土日にビデオをレンタルしてきて兄貴と一緒に見るのがルーティンでした。

――日本のホラーも見ました?

磯村 "和"だけは通らなかったです。個人的にジャンルがまた違うというか、日本のホラーは精神崩壊映画じゃないか?と思っていて(笑)。

――その表現わかります(笑)。では、俳優になった経緯は?

磯村 俳優を強く志そうと思ったきっかけは松田優作さんです。『野獣死すべし』(1980年)や『ブラック・レイン』(1989年)を見て、「この人、何!?」としびれたあの感覚は今でも忘れられません。

生きざまや、役柄に対するアプローチの仕方とかも本当にカッコよくて、どうしたらあんな俳優になれるんだろう、と俳優を目指し始めた18歳ぐらいの頃に感じていました。

――好きな作品に出会ったとき、磯村さんは「作りたい」「出たい」なら後者だったんですね。

磯村 そうですね。最初のほうは「出たい」が強かったです。「ゾンビ作品がやりたいなあ」とか「出ても食べられずに生き延びたいなあ」とか考えて(笑)。でも、今は「作りたい」のほうが強いですね。監督にすごく興味があります。

――それはゾンビ作品で?

磯村 日本でゾンビ映画を作ろうと思うと、ちょっとまだ難しいんじゃないかと思っていて。特殊メイクに時間がかかるし、お金もかかるので。ゾンビ映画を作るなら、本気で作りたいですね。

――そうなると、やっぱりハリウッド映画に出たい?

磯村 昔はハリウッド映画に出たいと言っていた自分もいたし、もちろん出ている先輩たちをものすごくリスペクトしていますけど、今はそれよりも、日本映画で勝負したい気持ちが強いですね。

せっかく日本でやるなら日本映画を海外で広めたいし、もっと邦画が盛り上がるんじゃないかって。そういうふうになれるように、今は役者としてもっと力をつけたいです。

――では、俳優として出演して印象的だった作品は?

磯村 『ヤクザと家族 TheFamily』(2021年)の藤井道人(みちひと)監督との出会いは大きかったですね。

――この連載にも出ていただきました。柔らかいのに強い、不思議な方ですよね。

磯村 藤井さんの俳優に対する寄り添い方がすてきで、細かくちゃんと丁寧に説明してくれるし、絶対に人を否定しないんです。「それもいいけど、ここをこうしたらもっと良くなる」って、僕たちの気持ちを上げるのがうまい。何回もテイクを撮る人なんですけど僕たちは逆に「よし、やろう!」って気持ちになりますから。藤井さんが持っている魅力だと思います。

■社会派作品を愛する理由もゾンビにあり?

――『PLAN 75』について伺います。満75歳から生死の選択権を与える制度「プラン75」が施行された未来の日本を舞台にした作品ですが、いかがでしたか?

磯村 台本を読んだときに「これは今すぐやらなきゃいけない作品だ!」って思いました。難しいけどシンプルなテーマだし、自分はこういった社会的なテーマを扱う作品が大好きなんです。高齢化社会について自分なりに考えていたタイミングでこの台本がきたので、運命的なものも感じましたね。

ただ、僕が演じたヒロムは、市役所の申請窓口で働いていて、プラン75を推奨しなければいけない立場。ストレートに直訳すると「あなた、死にませんか?」と問う役柄です。仕事としてやってはいるものの、「本音としてはどうなんだ?」という背景までしっかり作った上で演じました。

――『ヤクザと家族』も社会派の作品ですが、そういうものがお好きなのはもともと?

磯村 強く感じ始めたのは俳優になってからだと思います。でも、俳優になる前から好きで見ていたゾンビ映画も、例えばジョージ・A・ロメロが作品で伝えたかったのは社会風刺だったり、人間のエゴだったりするはず。

ゾンビ映画から、社会性というものを多少なりとも学んできたと思うんです。だからこそ、俳優の仕事をやっていくなかでだんだんと社会的なテーマがないと物足りなくなってきて。

特に今って映画を見て考える時間がなくなってきている時代ですよね。でも、こういう作品があることで、社会について考えるきっかけが生まれる。生きていく上でとても重要なことだと思うし、同じ世代の若い人に知ってもらいたいし、役者としてはそういう作品に参加していたいですね。

――話は変わりますが、磯村さんが2年前に配信して話題になったインスタライブを、この連載の担当編集が生で見ていて、「コロナ第1波のステイホーム期間に、SNSで作品を発表する俳優さんや監督さんは多かったけど、磯村さんの配信が群を抜いて画期的でした。まんまとダマされたし、感動しました」と言っていて。

磯村 えっ、うれしいです! リアルタイムで見た人の話を聞くのは初めてですよ!(笑)

――配信後にカメラを切り忘れてしまう放送事故的なアクシデントかと思ったら、実際は近藤啓介監督と組んだ短編映画で、台本もあって演技をしていたと。この作品はその後、『コロッケを泣きながら』というタイトルでYouTubeにもアップされています。

磯村 僕としては、真っすぐ生きたくないんですよね。いろいろ寄り道したり、遠回りしていくほうが、死ぬときに「俺の人生楽しかったなあ」って言える気がしていて。だから、ほかの人がやっていない道を通っていきたい気持ちがあって。

俳優としてなのか監督としてなのかはわからないけど、実験的なことは今後もやっていきたいですし、変な面白さを追求して、「何やってんの?」って思われる俳優でいたいですね。

■磯村勇斗(いそむら・はやと)
1992年生まれ、静岡県出身。『仮面ライダーゴースト』『ひよっこ』『覆面系ノイズ』『今日から俺は!!』など、さまざまな作品に出演。今年、『ヤクザと家族 The Family』と『劇場版 きのう何食べた?』で第45回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。趣味は都市伝説の研究、サウナ。「エレガンス磯村」という熱波師ネームを持っている

■『PLAN 75』6月17日(金)より全国公開予定
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee
©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee

構成/テクモトテク 撮影/苅部太郎

『PLAN 75』に出演する俳優・磯村勇斗さんの人生を動かした映画とは――?