米グーグル検索エンジンや傘下の動画共有サイト「YouTube(ユーチューブ)」、米マイクロソフト検索エンジン「Bing(ビング)」などでは最近、中国政府系メディアのコンテンツが検索結果の上位に表示されるようになったという。米ウォール・ストリート・ジャーナルは、「中国の政治姿勢を世界に広げようとする同国政府の取り組みがうまくいっているもようだ」と報じている

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中国政府発コンテンツ、西側の報道内容を否定

 米シンクタンクのブルッキングス研究所とアライアンス・フォー・セキュアリング・デモクラシー(ASD)のリポートによると、中国の人権に関する問題や、新型コロナの起源についての同国の立場を反映するコンテンツが、グーグルやYouTube、Bingの検索結果の上位に日常的に表示されている。

 調査は2021年11月1日~22年2月28日(120日間)に行われた。この期間にYouTubeで「新疆」を検索すると、ほぼ毎日、中国政府系メディアの関連動画が上位に表示された。グーグルとBingのニュースサイトでもほぼ9割、同様の結果だったという。

 国家の統制下にあるメディアのこうしたコンテンツは新疆ウイグル自治区における人権侵害について、「西側メディアが報じたり、学術的報告書が指摘したりする内容を否定し、中国を中傷する西側諸国による組織的企てと主張するものが多い」とウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。

 このほか、米軍の生物医学研究施設「フォート・デトリック」をYouTubeで検索した結果、上位10本のうち半数が中国政府系メディアの動画だった。中国は証拠も示さず、この施設が新型コロナ発生源の可能性があると主張しているという。

多額を投じ、影響工作の国際ネットワーク構築

 グーグル検索エンジンとYouTubeは世界中で人気だが、中国内ではアクセスが禁止されている。Bingの利用者規模はこれらよりもはるかに少ないが、中国の検閲を受け入れており、同国で利用可能となっている。ではなぜ、中国政府は国外で提供されるこれらのサービスで情報操作ができるのか。

 ウォール・ストリート・ジャーナルは「国境を越えて検索結果に影響を与えるという中国政府の能力は、多額の投資によってもたらされている」と報じている。ウェブサイトや通信社、放送チャンネルの国際ネットワークを構築しているという。

 中国政府はかつて、同国についてポジティブな話題を広めるという比較的穏やかなアプローチを取っていた。しかし最近は、攻撃的なスタイルに移行し、西側諸国の批判に迅速に対抗するようになった。インフルエンサーを雇ったり、新規に数百もの政府系ツイッターアカウントを取得したりして、組織化したメディアキャンペーンを展開しているという。

 グーグルの広報担当者は、「当社は情報へのアクセスと言論の自由を保護しながらも、組織的な影響工作や検閲活動に対抗している」と述べた。

 だが、中国の活動はいっこうに止まらないようだ。22年5月24日、中国当局から流出した新疆ウイグル自治区に関する数万点の内部資料が公開された。報道によると、資料は匿名の人物が新疆のデータベースハッキングして入手し、米NPO「共産主義犠牲者記念財団」に所属するドイツ人研究者アドリアン・ツェンツ氏に提供した。

 その直後に米国内で「アドリアン・ツェンツ」を検索したところ、グーグルの検索結果の最初のページに、ツェンツ氏の学者としての資質を非難する内容の中国政府系メディアのコンテンツが表示された。YouTubeでも上位10本のうち4本が同様の内容の動画だったと、ウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。

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(写真:ロイター/アフロ)