「簡単に直せるもんなのね」そんな風に私が目を丸くしていたのは火曜日、前夜にはワンダメトロポリターノ前の地面から、誰かに引きはがされ、その辺に捨てられていたクルトワアトレティコ出場100試合以上記念のプレートが早くも復活している映像をお昼のTVニュースで見た時のことでした。いやあ、実はこの事件には口の軽い複数の責任者がいて、発端はクルトア自身なんですけどね。

ええ、CL決勝前の記者会見で、2014年の決勝ではアトレティコのゴールを守っていた当人が、お隣りさんにDecima(デシマ/10回目のCL優勝のこと)を持って行かれたことを踏まえ、「レアル・マドリーが決勝に出るといつも勝つ。だから、estoy en el lado bueno de la historia/エストイ・エン・エル・ラドー・ブエノ・デ・ラ・イストリア(自分は歴史のいい方の側にいる)」と言ったのが、大いなる過ちの始まりだったのは誰にも否定できないところかと。

その言葉にアトレティコファンから、猛反発が起こったのも当然で、土曜にはペーニャ(ファンクラブ)連合から、クルトワプレートを撤去するよう、クラブに正式依頼がされるまでに。更には日曜日、CL優勝後の表敬訪問先の一つ、マドリッド市役所ではアトレティコファンを公言するアルメイダ市長から、「en el lado bueno también estamos los que lloramos contigo en Lisboa/エン・エル・ラドー・ブエノ・タンビエン・エスタモス・ロス・ケ・ジョラモス・コンティーゴ・エン・リスボア(いい方の側には我々、君と一緒にリスボン泣いた者たちもいる)」と諭されていたんですが、やはり止めはセレソ会長でしょうか。

というのも月曜にこの件についてマスコミに訊かれた際、「Si quieres quitar la placa de Courtois ve con un pico y una pala y quítala/シー・キエレス・キタール・ラ・プラカ・デ・クルトワ・ベ・コン・ウン・ピコ・イ・ウナ・パラ・イ・キターラ(クルトワプレートを撤去したいなら、ツルハシシャベルを持って行って取ればいい)」って、いや、冗談だったのはわかるんですけどね。それが最後の一押しになったか、まさか、本当に実行してしまう輩がいるとは!

まあ、こんなにプレート製造が容易なら、100試合なんて区切りは作らず、2013年のコパ・デル・レイ優勝の立役者だったファルカオ(現ラージョ)や2014年のリーガ優勝に貢献したビジャ、同昨季優勝のルイス・スアレスプレートも設置してあげてもいいんじゃないかと思いますが、その一方で騒ぎの元凶となったクルトワは祝賀行事明けの月曜には母国に戻り、弟さんの婚姻届け提出に付き合った後、ベルギー代表合宿へ。といっても今年になって、ずっと悩まされていた恥骨炎の診察を受けただけで、すぐにお役御免となったため、当分、表舞台に出ることはないはずですが…プレシーズン練習開始頃にはほとぼりも冷めているでしょうから、ここしばらくはおとなしくしていてほしいものです。

え、それで週末の夜、土日連ちゃんで私が過ごしたサンティアゴ・ベルナベウの様子はどうだったのかって?いやあ、もうCL決勝パブリックビューイングも祝賀行事もそれこそ、スタジアム周辺はCL決勝トーナメントのマッチデー並みの混雑だったんですけどね。完売となった入場チケットのreventa(レベンタ/ダブ屋)まで出ていたのにはビックリだったかと。

幸い、決勝リバプールキックオフ15分前に前代未聞の15分遅延の知らせが入った時も、それが更に長引いて、ようやく午後9時23分にセレモニーがピッチの大画面に映った時も6万人になるスタンドのファンたちはゆったり構えていたんですけどね。「リバプールファンがまだ半分しか入っていない」、「大量の偽造チケットのせいでゲートが閉鎖された」、「柵を乗り越える猛者もいて、警察が催涙スプレーで撃退している」といったラジオから届く現地情報に私など、ヤキモキするばかりだったんですが、試合は36分遅れでようやくスタート。

あとで2700人以上のリバプールファンが本物のチケットを所有しながら、スタジアムに入れなかったと聞くと、カルハバルの家族、親族、友人その他が入場を諦めざるを得なかったなんてことはあったものの、ファンのほとんどが無事に席につけたマドリーにその辺りから、ツキがあったのかもしれないんですけどね。とはいえ、「Con el retraso el más nervioso he sido yo/コン・エル・レトラソ・エル・マス・ネルビオーソ・エ・シードー・ジョ(遅延で一番、神経質になったのは自分だった)。見られないように個室に閉じこもっていたが、選手たちは全然平気なようだった」とアンチェロッティ監督は言っていたものの、序盤から、リバプールに押し込まれっぱなしだったのはその影響も少しはあった?

まあ、「hemos dado el juego vertical, atrás lo hemos hecho muy bien/エモス・ダードー・エル・フエゴ・ベルティカル、アトレアス・ロ・ヘモス・エッチョー・ムイ・ビエン(相手に縦にプレーさせて、ウチは後ろの守備がとても良かった)」(アンチェロッティ監督)という作戦通りだったのかもしれませんが、それもクルトワサラーやマネのシュートを弾きまくってくれたからこそ。ハーフタイムが近づくまで、GKアリソンを脅かすこともなかったマドリーだったんですが、それが42分、いきなりチャンスがやって来ます。ええ、ベンゼマがゴール右前で撃てずに後ろに出したパスが、そこへ突っ込んできたバルベルデと激突したファビーニョのヒザに当たり、戻って来たボールをベンゼマがゴールにしてくれたから、スタンドは一転して歓喜の渦に。

残念ながら、この得点は主審とVAR(ビデオ審判)の協議でファビーニョにはクリアの意志はなかったと判断され、ベンゼマオフサイドを取られて認められなかったんですが、大丈夫。これで目を覚ましたマドリーは後半13分、バルベルデのラストパスをビニシウスが決めて、先制点を奪うことに成功したんです!うーん、この後もクルトワにはサラーや途中出場のジオゴ・ジョタからゴールを守るという重労働があったんですけどね。今季の決勝トーナメントは奇跡のremontada(レモンターダ/逆転突破)を後押しするため、イケイケの応援ばかりしていたベルナベウのファンたちが息を詰めて見守る中、「1回、枠内シュートがあっただけで、それがゴールになった」(クロップ監督)マドリーリバプールに得点を許さず、0-1で逃げ切ってしまいましたっけ。

え、これはどう見ても9回ものparadon(パラドン/スーパーセーブ)を披露し、決勝MVPにも選ばれたクルトワあってのDecimocuarta(デシモクアルタ/14回目のCL優勝のこと)だろうって?そうですね、惜しむらくはそれこそ2014年、ダ・ルスでの後半ロスタイムセルヒオ・ラモスのヘッドを止めてくれていたら、今頃は当人も自身2度目のCL優勝を祝っていたはずですが、その頃の彼は弱冠22才。

ヤブヘビをつつく癖は変わらずとも、30才の今とは成熟度が格段に違うんでしょうけどね。これで指揮官として最多となる4回目のCL戴冠をしたアンチェロッティ監督が、「Es más fácil ganar una Champions con el Real Madrid/エス・マス・ファシル・ガナール・ウナ・チャンピオンズ・コン・エル・レアル・マドリー(CL優勝をレアル・マドリーで遂げるのは他より易しい)」と言うのも頷けるかと。

実際、選手の9人、カルバハル、ナチョ、マルセロ、カセミロ、クロースモドリッチベンゼマイスコベイルマドリーで5度目のCL優勝ですし、勝ったそばから、もうDecimoquinta/デシモキンタ(15回目のCL優勝のこと)の話をしている辺り、やはり並みのチームではないことがわかりますが、まあそれはそれ。大画面でマルセロがトロフィーを掲げる表彰式まで楽しんだベルナベウの観衆はその後、多くがシベレス広場まで移動。他の場所で決勝を見ていたファンたちも加わり、選手たちがお祝いに来るのは翌日とわかっていたにも関わらず、明け方近くまで盛り上がっていたようです。

そして日曜日、午後6時にスーツ姿でバスに乗り、祝賀行事のはしごにベルナベウを出発したマドリーは、リーガとCL2つのトロフィーと一緒にまずは大聖堂へ。続いて向かったマドリッド州庁舎では、私も最近、行ってなくて知らなかったんですが、選手たちが挨拶に出るバルコニーが面したプエルタ・デ・ソルが全面工事中だったせいですかね。ファンも広場に入る放射線状の道に留まって、互いに遠目にしか、見えなかったからか、割とすぐに次のマドリッド市庁舎に移動。そしてまさにその市庁舎のすぐ目の前がシベレス広場なんですが…。

ええ、もちろんこの一部始終、私はテレマドリッド(ローカルTV局)の追っかけ番組で見ていたんですけどね。そろそろかとベルナベウに向かったところ、やっぱりこういう行事は予定通りにはいきません。いやあ、シベレス広場の噴水の周りに設けられたキャットウォークでアザールマイクを握り、実際、チェルシーから移籍して、この3シーズンはケガでいないことが多く、話せるようになったのかも知らなかったスペイン語で、「イロイロあったけど、el año que viene lo voy a dar todo por vosotros/エル・アーニョ・ケ・ビエネ・ロ・ボイ・ア・ダール・トードー・ポル・ボソトロス(来季は君たちのために全てを出す)」と誓い、ファンに大喝采を浴びていた頃でしょうか。

丁度、その日、最終節をプレーしていたリーガ2部の同時刻一斉開催試合が終わったんですが、実はマドリッド南部ではドラマが起きていたんですよ。ええ、私が行き損ねたブタルケで2位だったアルメリアがレガネスと2-2で引分けている間に、3位のバジャドリーがウエスカに3-0で爆勝して、1位に上昇。お隣りのサントドミンゴエイバルも0-0で引分けていたため、そのままだと、アルメリアは3位でプレーオフに回ることになったんですが、後半ロスタイム、すでに何節も前にダントツ最下位での降格が決定していたアルコルコンがゴールを挙げて、1-0で勝ってしまったから、さあ大変!

最後は1位アルメリア、2位バジャドリーの2チームが1部昇格決定となり、2週間前のレガネス戦同様、大勢のファンが応援に駆けつけながら、最終節前には1位だったエイバルは3位となって、6位のジローナと木曜にプレーオフ準決勝1stレグを戦うことに。もう1つの準決勝は4位のテネリフェと5位のラス・パルマスという、カナリア諸島仲間の対戦で、何か昨季のレガネスとラージョの弟分ダービープレーオフを思い出させますが、まあ、そんな時間ですよ。本来だったら、ベルナベウでの祝賀フィエスタ開始時刻だった午後10時、ようやくマドリーのオープンデッキバスがシベレス広場を出発したのは。

結局、スタジアムでのCL祝勝イベントが始まったのは10時50分頃でした。ここ8年で5回もあればもう、いつも通りと言っていいと思いますが、レーザー光線の煌めくなか、一人ひとり、名前を呼ばれた選手が登場。前日のパブリックビューイング用大画面の四方はそのままで、新たに屋根に設けられた舞台に上がり、そこではアンチェロッティ監督がHimno de Decima/イムノー・デ・デシマ(CL10回目の優勝のクラブ歌)をカラオケで歌ったり、クラブ史最多の25タイトルを獲得して、16年間プレーしたマドリーを退団するマルセロが胴上げされたり、盛大な花火が撃ち上げられたりといった感じですが、あ、大丈夫ですよ。9年間勤めあげて、やはりこの6月で契約が終わるイスコも舞台を下りて、チームが場内一周している時にちゃんと胴上げされていますって。

それだけに、リーガ優勝祝いには参加せず、この日いたことだけでも驚きだったベイルには何もなかったのがちょっと、気の毒に思えましたが、まあ彼にはこの日曜、水曜のスコットランドvsウクライナ戦で勝ったチームと当たる、W杯予選プレーオフ決勝がありますからね。ウェールズが本大会に行けるかどうかで、来季の移籍先を探すか、そのまま引退するかを決めるようですが、そんなこんなでようやく、ベルナベウのフィエスタがお開きとなったのは午後11時30分。どうやら、決勝トーナメントの2ndレグ3連続延長戦から、CL絡みでマドリーと付き合うと、帰りが午前様になるのが定番になってしまったようです。

え、それでも翌日、カルバハルもアセンシオも午後1時の集合時刻にラス・ロサス(マドリッド郊外)のサッカー協会施設に姿を見せ、休みも取らずにスペイン代表合宿に駆けつけていたのは感心じゃないかって?そうですね、パリからイギリスに戻り、日曜にはリバプールの2冠優勝(FAカップとカラバオカップ)市内パレードに参加していたチアゴ・アルカンタラはどうやら、CL決勝にもギリギリの状態で先発していたらしく、練習はせずに検査を受けていたんですけどね。すでに集合前にラポール(マンチェスター・シティ)がケガでディエゴ・ジョレンテ(リーズ)と入れ替わっていたのに続いて、メンバーチェンジがあるかはまだわからず。

ちなみに今回の代表戦はネーションズリーグ、そのグループリーグ4試合を11日間で消化するというものなんですが、スペインは木曜午後8時45分(日本時間翌午前3時45分)から、セビージャのベニト・ビジャマリン(ベティスのホーム)で開催されるポルトガル戦でスタート。日曜にはプラハでのチェコ戦、来週木曜にはジュネーブでスイス戦、そして12日の日曜にマラガでまたチェコ戦というスケジュールになっているため、ラス・ロサスでは火曜までしか練習しないんですが、いやまったく。11月のW杯前に別の大会を挟むのも、CL決勝に参加した3人以外、1週間、バケーションを取った後に選手たちが参加というのも何か、中途半端な感じがしますよね。



【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。
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