「どこかに当たってくれ!」

 DF田中隼人(柏レイソル)がそう思って伸ばした足に相手のシュートが当たって枠外に逸れたところで勝負は決まった。スコアボードの数字は1-0。フランスで行われているモーリスレベロトーナメントに臨んだU-19日本代表は、2歳年長のチームで臨んできた北アフリカの雄・アルジェリアに競り勝って初戦白星となった。

 内容的にはかなり苦しいゲームだったのは否めない。もしサッカーがシュート数を競うスポーツであれば完敗だろう。ただ、だからと言ってネガティブに総括すべき試合だったわけでもない。船越優蔵監督代行が「ブサイクだったけど勝てたのは今までになかったことで良かった」と語ったように、むしろこういう展開を味わうために来た大会だったからだ。

 序盤からピッチ上の選手たちの戸惑いは伝わってきていた。初めての海外、初めての国際試合に臨んだMF宇野禅斗(FC町田ゼルビア)のような代表経験の浅い選手が「身体能力もそうだし、間合いも違う。日本でしか試合をしたことのなかった自分は、そこでズレを感じながらやっていた」と振り返ったのはもちろん、コロナ禍のなかった時期ならば国際試合に関して百戦錬磨になっているような中学時代から代表に入ってきた選手たちまで久々の感覚に戸惑っていた。

「海外のチームと試合をするのは3年ぶり。(相手FWの)9番の選手との間合いは違った。Jリーグにも大きくてでかい選手はいるけど、あそこまでリーチは長い選手はいない。自分の間合いで一発で行ったら入れ替わられてしまった」(田中)

 サッカー選手は本人が思っている以上に経験で培った感覚を使ってプレーの判断を下している部分がある。日本で戦う相手とのギャップがそれを狂わすわけだ。取れそうなボールが取れず、通ると思ったパスが通らず、抜けると思ったドリブルが思った抜け出せない。結果、思うような試合運びにはならなかった。

 ただ、「『これが世界やな!』と思っていた」と逆に燃えたと笑うMF北野颯太(セレッソ大阪)が強気のプレーを見せれば、宇野も「段々と修正できた」と語るように徐々に日本とは異なる感覚を求められる相手に適応。試合の中で自分たちの引き出しを整理しつつ、ピッチ上でコミュニケーションを取りながら対応していった。

 また現地入りしてからのトレーニングを通じてゴール前の攻防にフォーカスしていた成果もしっかり発揮。冒頭で紹介した終了間際の田中のシュートブロックは象徴的なシーンだが、それ以外にもギリギリの攻防で相手のシュート精度を削りながら体を張って守り、GK木村凌也(日本大)の活躍もあって無失点で切り抜けた。

「ラフにどんどん入れてくる、年齢もフィジカルも上の相手に俺らはどうやって戦うのか。いくら口で言っても伝わらないところもあるので、それを体験できたことはよかったと思います」(船越監督代行)

 攻撃では少ないチャンスながらも、北野がこぼれ球に鋭く反応する形で57分に先制点を獲得。久々に迎えた国際試合で、後半から内容が改善していきながら、決定機を決め切った上で逃げ切った意味は決して小さなものではない。

「前半は(宇野)禅斗なんか『おい、どうしたんだ?』と思ったんですけど、持ち直して最後は活動量を活かしてプレーしてくれていた。こうやって単に(海外での試合を)経験するだけではなく、経験値に変えていかないといけない。勝って少しでも多くの試合、(準決勝に残って)5試合やろうという話をしています」(船越監督代行)

 船越監督はそう言って笑顔を見せた。また初の国際試合で苦闘しながら、最後まで足を止めずに劣勢の展開で存在感を出した宇野も「もっとこういうところで試合をしたいと思いました」と充実の表情を浮かべていたが、こうやって乗り越えていく姿こそ、若い選手が国際大会を体験していく意味を象徴しているとも言えそうだ。

 日本は3日にコモロ諸島、6日にコロンビアと対戦する。まず目指すのは、グループステージを突破しての準決勝進出となる。

取材・文=川端暁彦

決勝点を決めた北野 [写真]=川端暁彦