アメリカ軍陸上自衛隊などが運用するAH-64D戦闘ヘリには、他のヘリコプターに見られないパーツが機体上部の目立つところに付いています。まるで大きなコブのようですが、カッパにとっての頭の皿と同じく、AH-64Dにとって必須の装備です。

最大1000個以上の目標を同時に探知OK

2006(平成18)年から陸上自衛隊への納入が始まったAH-64D戦闘ヘリコプターは、よく見ると、回転翼(メインローター)の上にコブのような円盤状の大きな部品が載っているのがわかります。もうひとつの戦闘ヘリコプター対戦車ヘリコプター)であるAH-1Sを始めとして、他のヘリコプターにはない装備ですが、これはいったいなんなのでしょうか。

これは「AN/APG-78ロングボウ・レーダー」と呼ばれるものです。このレーダーは1000個以上の目標を探知する能力を持っていて、それが敵の戦車なのか、航空機なのかを瞬時に判断して識別することができます。また、こちらに向かってきているのか、あるいは別方面の味方部隊に接近しているのか否かもわかるため、その目標が攻撃対象なのかどうかも判断できると言われています。

AH-64Dに乗るパイロット(操縦手)とガナー(射手)は、ロングボウ・レーダーから得られた情報を基に、攻撃の優先順位を決定して、必要であれば搭載しているミサイルや機関砲などで攻撃を加えることができます。

ちなみに、発見できる目標は1000個以上ですが、前述した探知・識別できるものになると、最大で256目標までであり、さらにその中から攻撃すべき優先度の高い目標16個がコクピット内に表示されます。このロングボウ・レーダーが表示した優先順位は、実際にパイロットやガナーが判断して順位を変えたり拒否したりできることから、完全自動化というワケではなく、人為的な操作も反映されるようになっています。

状況に応じて外して飛ぶことも可能

陸上自衛隊に配備されたAH-64Dはすべてこのロングボウ・レーダーが搭載されたタイプですが、その前のタイプ、初期型であるAH-64Aにはこのロングボウ・レーダーが搭載されていませんでした。

しかし、このレーダーが開発されたことによって、AH-64Dは劇的にその性能が向上し、乗員の負担軽減に繋がっているほか、ミサイルの撃ちっぱなし能力と自機周辺の索敵能力が大幅にアップしています。

ただ、2018年2月に発生したAH-64D墜落事故を受けて、陸上自衛隊は整備性と安全性を追求するため、一時的にロングボウ・レーダーを外して運用しています。また理由は不明なものの、今年の総火演AH-64Dは不参加でした。

ちなみに、陸上自衛隊AH-64Dはロングボウ・レーダーを搭載していることから「アパッチ・ロングボウ」や「ロングボウ・アパッチ」などとも呼ばれています。一見すると「皿」や「まんじゅう」のような見た目ですが、実は重要な役割をもった陸自「アパッチ」のキモといえるパーツなのです。

陸上自衛隊のAH-64D戦闘ヘリコプター。赤い矢印で指した円形のものがAN/APG-78ロングボウ・レーダー(武若雅哉撮影)。