Eバイク、日本では「モペット」の呼称が一般的なペダル付き電動バイクが、現代戦の繰り広げられるウクライナで重宝されているそうです。しかも市販品がほぼそのまま使われているとか。そこには戦況および現代戦ゆえの理由がありました。

武器は機動力! Eバイクがウクライナの戦場を駆ける

クルマに乗車中、道路が渋滞しているなかでもすり抜けるように前進するバイクの姿は羨ましいものです。バイクの最大の特長は小さく機敏なことにあるといえるでしょう。

このメリットはミリタリーの分野でもいかんなく発揮されます。バイクは偵察任務に適しており、陸上自衛隊も「偵察用オートバイ」を配備しています。アメリカ陸軍は特殊作戦用のバギー車こそ装備しているものの、偵察用オートバイは持っておらず、陸自と合同演習を行うと偵察用オートバイの威力に驚くといいます。

ロシア軍の侵攻を受けるウクライナでもバイクが活用されていますが、その中には「Eバイク」と称されるペダル付き電動バイク、いわゆるモペットもあります。物資輸送や連絡、偵察監視任務だけでなく、これに携帯対戦車火器を組み合わせてロシア軍の戦車狩りにも使われているそうです。

Eバイクのメリットは高速機敏であることに加えて、内燃機関搭載車両に比べ静粛性に優れ発熱も少ないため、ステルス性に優れることです。おもにエンジンが発する熱は、多くの戦車も装備するサーマルセンサーで感知され、真っ暗闇でも林の中でも居場所を露呈してしまいます。ちなみに「ジャベリン対戦車ミサイルも、エンジンや排気ガスなど車体の熱線画像イメージ(熱を発する物体を画像化する)をミサイルが記憶する誘導方式です。Eバイクは内燃機関ほどの熱を発しないので、そのサーマルセンサーにも捉えられにくいのです。

Eバイクのこのステルス性の高さが、秘かにロシア軍戦車に忍び寄り対戦車ミサイルで一撃し高速で離脱する、いわば「現代戦の忍者」のような戦法を可能にしているというわけです。

Eバイクの戦場での活用 手放しで評価できない側面も…?

ウクライナ軍で使われているEバイクは、おもに同国のエリーク社やデルファスト社製の市販車がベースです。路上での最高速度は80km/hから90km/h、一度の充電で100kmから300km程度の電動走行が可能とされます。市販価格は40万円前後で、ガソリンエンジンのモトクロスバイクより安価です。エリーク社によれば、モトクロスタイプのEバイクの在庫は全て軍に提供したそうです。

ウクライナ軍には、イギリスから供与されたNLAW対戦車ミサイルを搭載できるよう、後部を改造したEバイクもあるといいます。

NLAWはひとりで扱うことができ、重さは12.5kg、ただし同じ対戦車ミサイルで昨今、一気にその名を知られるようになった「ジャベリン」よりも構造は簡単なものです。慣性航法装置とジャイロの組み合せで目標の未来位置に弾着する方式で、発射後の誘導はできず、命中精度は「ジャベリン」より劣ります。有効射程距離も800mと、ジャベリンの2000mから2500mに比べると短いものです。

こうして見ると、「ジャベリン対戦車ミサイルをEバイクに積めば「最強忍者」の誕生となりそうなものですが、「ジャベリン」は全体の重さが20kg以上あり、操作要員も基本ふたり必要なため、Eバイクで運用するには無理がありそうです。

神出鬼没のEバイク+対戦車ミサイルの組み合せはウクライナ軍でも評価する声があるようですが、一撃離脱の忍者だけでは戦に勝てません。Eバイクは全く防御力がなく、戦車に見つかったらひたすら逃げるしかなくなります。そもそも市販車であり、軍用としての使用に応える耐久性も保証されていません。NLAWミサイル使い捨てですが、Eバイクも使い捨てに近い使い方をされているのかもしれません。

そしてその戦い方も、バイクのモトクロス運転技術とミサイルを扱える技能をもった少数精鋭による不意急襲であり、特攻作戦にも近い危険なものです。防戦を強いられるウクライナ軍による、やむなく実施せざるをえない苦肉の策である、ともいえるでしょう。

より有用なEバイクの使い方は? オーストラリア陸軍の場合

ステルス性に優れたEバイクの活用は、各国陸軍が10年ほど前から研究をしています。軍用では偵察監視に使えると評価されていましたが、バッテリー性能の向上など技術革新により、戦力化の目途が立つようになってきました。

オーストラリア陸軍は装備近代化計画のなかで、偵察用に装輪8×8の「ボクサー」偵察戦闘車を採用しており、これにEバイクを搭載して運用することが考えられています。バッテリー性能が向上したとはいっても航続距離の短さは電動車両全般の弱点でしたが、作戦地域まで「ボクサー」に載せて運ぶことで補完するというわけです。これにより、大型の「ボクサー」より目立たないEバイクによって偵察員の行動範囲は大きく広がり、Eバイクからセンサーや通信、航法装備に電力供給できるということで、その偵察能力は大幅に向上します。

市販車にも、モトクロス仕様のEバイクが出回り始め、従来のガソリンエンジンとは違った乗り味を楽しむ向きも増えているようです。操作法も異なり、経験者によれば全く別の乗りものといってもよい感覚だそうです。

乗りものの電動化は急速に進んでいますが、スポーツカーオフロードバイクなど「趣味性」の高い乗りものでは、ガソリンエンジンにこだわる向きもあります。ミリタリーでは、趣味性や嗜好は考慮されません。「使える」乗りものだけが生き残ります。

Eバイクはオフロードバイクの新たなイノベーションになるのでしょうか。ウクライナでの実戦が、その試験場になってしまっているのは残念なことです。

デルファストのダニエル・トンコピCEOがFacebookで公開した、同社製Eバイク+NLAWを装備するウクライナ兵(画像:ウクライナ軍/ダニエル・トンコピ/一部加工)。