子どもの習い事として、空手などの格闘技が流行しています。武術から学ぶ教訓はたくさんあるので、多くのお子さんのチャレンジはとても喜ばしいことです。

 ただし、格闘技を習ったからといって、子どもが犯罪者(大人)に遭遇しても、撃退することは、まず不可能です。犯罪の被害者にならないためには、護身術で抵抗するよりも、犯罪者を遠ざける方法を知る方が、はるかに簡単で効果的です。しかし、犯罪と一言でいっても、「殺人」「暴行」「誘拐」「通り魔」など多くの種類があり、それぞれに応じた対処方法を学ぶことは、大人でも簡単ではありません。
 
 ボディーガードである筆者が、お子さんに防犯指導をする際に伝えている、ほとんどの犯罪に共通する「2つの重要ポイント」を紹介します。

「犯罪が起きやすい場所」を知る

 子どもの防犯教室などで、「怪しい人に気を付けよう」という言葉をよく聞きます。確かに、“誰が犯罪者か”を見分けることができれば、被害に遭う可能性はぐんと減るでしょう。

 ただし問題は、いわゆる「不審者」には外見的な目印がないことです。多くの人は、見た目やファッションが奇抜な人、または見慣れない相手を「不審者」と判断します。しかし大抵の場合、それらは先入観から来る偏見であり、的外れなことが少なくありません。

 不審者を見極める力は、訓練次第で精度を上げられます。ただし、それは一種の専門技能であり、子どもはもちろん、大人でも簡単には身に付かないのです。つまり、「不審者に気を付けよう」という大ざっぱな指導は意味がないだけでなく、外国人や特定の病気の人への偏見を生む恐れがあります。もちろん、見知らぬ相手への警戒は必要ですが、子どもが判断できるはずのない「不審者」への注意喚起は、防犯指導として無責任といえます。

 まずは子どもに理解できる、具体的な内容を教えなければ意味がありません。そこで、ポイントの1つ目となるのが、「犯罪が起こりやすい場所は分かりやすい」ということです。犯罪者を見分けることはできませんが、犯罪者が犯行に選ぶ場所は、目で見て判断できるからです。

 2枚の写真を比較してください。もしも、あなたがポイ捨てをする場合、どちらが抵抗感を覚えにくいでしょうか。多くの人が、右の汚い場所を選ぶと思います。では、きれいな場所と汚い場所の違いは、どこにあるのでしょう。

 花壇など、きれいに造成された場所の周りには、人が集まります。そして、きれいに手入れがされていることで、そこを管理する人物がいると連想できます。逆に、多くの人はわざわざ汚い場所に近づきません。ほとんどの場合、そこを管理する人すらいないでしょう。つまり、きれいな場所での犯行は人に見られる危険があり、反対に、汚い場所では誰にも見られない可能性が高くなるということです。

 犯罪者にとって目撃者の有無は、犯行現場を選ぶ上での最重要ポイントです。通り魔のように、凶行のアピールと、逮捕されること自体が目的の者を除き、多くの犯罪者にとって、「人の目が届きにくい空間」こそ、犯行に最適な場所といえます。もちろん、その空間は密室とは限りません。樹木が生い茂って周囲から見えにくい公園はもちろん、近くに民家がない農道なども、犯罪者の感覚では「隔離された空間」と同じでしょう。

 また逆に、大きなショッピングモールなど、あまりに人の目が多い場所も安心できません。人が多い分、他人への関心が薄れるため、一人一人の行動が目立たなくなるのです。連れ去りが起きても情報が集まらない可能性が高く、実際に目撃者がゼロの事案も発生しています。つまり人混みは、犯行の獲物選びや、誘拐には格好の場所なのです。しかも、そこで犯罪者にアプローチされた場合、子どもが抵抗することはできないでしょう。責任は周囲の大人にかかっています。

犯罪者に狙われにくい人」になる

 犯罪者が嫌う場所は分かりました。しかし生活をする上で、危険な場所を避けてばかりもいられません。だからこそ、さらに危険を寄せつけない工夫が必要になります。そこで、「犯罪者に狙われにくい人」になることが、2つ目のポイントとなります。

 通り魔などの無差別犯が決まって言うのが、「誰でもよかった」の一言。しかし、これには「自分より弱そうな相手なら」という重要な言葉が抜けています。犯罪者ターゲット選びには、性別や年齢など、努力では変えようのない条件があります。ただ、「狙われにくい人」になることは十分可能です。

 犯罪者が狙うのは「自分よりも弱そうな人」ですが、さらにその中から、より犯行が楽な相手に絞ります。それは「隙だらけの人」です。スマホを見ながら歩く人と、前を向いて歩く人、どちらが襲いやすいでしょうか。不意打ちは、ボディーガードでも防ぐのが困難です。ましてや、下を向いているときに襲われたら、防ぎようがありません。

 そもそも「歩きスマホ」という行為は、その人の危機意識の低さを如実に表しています。これほど分かりやすいサインを、犯罪者は見逃しません。逆に、「歩きスマホは怖い!」と意識すると、危機感を持つきっかけになります。歩きスマホという行為そのものよりも、歩きスマホを平然とする意識に問題があるのです。

 ただし、現代社会で「外でスマホを見るな!」という指導は現実的ではありません。電車に乗れば画面を見るでしょうし、道に迷えばアプリを開くでしょう。要は、めりはりです。見てはいけないタイミングと場所さえ守れば、問題ないのです。

 最近はスマホを持つお子さんも増えましたが、スマホから目を離して、周りを確認する回数が増えるだけで、安全度は上がります。そのことを子どもが知っているか否かで、いち早く危険に気付くことができるかどうかが変わります。

 筆者はボディーガードですが、護身術だけで火の粉は払えません。「危うきに近づかない」のは当然として、「危うきを近づけない」ように、悪い習慣を一つでも減らすことが安全への近道です。

 防犯指導で考えるべきは、「子どもに理解できる内容かどうか」です。まずは、「汚い場所や、人が見ていない場所は犯罪が起こりやすい」こと、そして「外でスマホを見ながら歩くのは危険である」ことについて教えるのをお勧めします。実際に、生活圏にある危険な場所を、親子で一緒に探してみるのもよいでしょう。犯罪者を見分けるのは難しいですが、危険な場所や、狙われやすくなる行為は、子どもにも教えることができるのです。

一般社団法人暴犯被害相談センター代表理事 加藤一統

防犯のこと、子どもにどう伝える?