実用化が遠のいた「スペース・ジェット」と、実用化が進むエンブラエルの「E-Jet E2」。さまざまな面で比較されてきた2機種には、多くの差があります。そのひとつが貨物室の位置です。

後発も躍進続く「E-Jet E2」

2022年に「航空の用を供さない」として、3号機の国土交通省登録を抹消され、アメリカにあった飛行試験の拠点も閉鎖されたと報じられている三菱航空機の旅客機「スペース・ジェット(元MRJ)」。同機の実用化はますます遠のくばかりです。一方「スペース・ジェット」より一足遅れて開発がスタートした競合機、ブラジル・エンブラエルの「E-Jet E2」は、一部はすでに実用化。2モデルの現況は、かなり対照的になりつつあります。

「スペース・ジェット」と「E-Jet E2」はかねてから様々な面で、よく比較される存在でした。たとえば機体価格や燃費などです。見た目こそよく似ているものの、2モデルには、設計にもさまざまな違いがあります。対照的なポイントのひとつが、貨物室の位置。旅客には気づきにくいですが、「スペース・ジェット」は胴体後部、「E-Jet E2」は胴体下に設置しているのです。

2モデルを始めとする100席以下の「リージョナル機」はとくに、ボーイングエアバスといった旅客機よりもボディが小さいぶん、貨物室の面積と位置、容積は、より胴体断面の形状に左右されるといえるでしょう。

「E2」を始めとする「E-Jet」シリーズの胴体断面は、直径の異なる円を上下に重ねた「ダブル・バブル」型をしています。胴体の短い「E170」などは、そのせいか横から見るとぽっちゃり目にも見えます。対し「スペース・ジェット」の胴体断面は、ほぼ真円に近くスマートです。

「ダブル・バブル」は、客室と床下の双方とも幅を広く取ることができます。エンブラエルは床下の容積を活かして貨物室を設けています。一方、真円に近い「スペース・ジェット」は、前出の通り機体後部に貨物室があります。

2機種ともに客室幅は広めにして乗客の快適性向上を図っており、たとえば、ボンバルディアで製造され、三菱グループが保守を行うかつてのライバル機「CRJ」の客室の床幅は、100.5インチ(約2m5cm)です。「スペース・ジェット」「E-Jet 」のほうが20cmほど広くなっています。

ほぼ同じ大きさなのに貨物室の位置なぜ違う?

「スペース・ジェット」の客室幅は、同社資料によると108.5(約2m76cm)インチ。対し、「E-Jet」は108インチとほぼ同じ幅です。ちなみに、客室の天井の高さも1インチ違い。客室はほぼ同じ大きさで、貨物室は胴体下と機体後部のどちらが良いか。“タイマン”勝負が期待できたかもしれません。

ほとんど同じ胴体の大きさをもつ2モデルが、それぞれ貨物室を違う位置としたのは、どのような意味があったのでしょうか。

「E-Jet」に採用されている床下貨物室は地上から近く、積み降ろしが容易です。機体の重心近くに重い貨物を集めることができて、飛行時の重量配分(ウェイト&バランス)も有利になります。そして、胴体をストレッチして客席数を増やす派生型へも対応しやすく、機体設計の面でも柔軟性に富んでいます。

これに対し「スペース・ジェット」で採用されている後部貨物室は上に客席がないために、背の高い貨物も収容できます。

「スペース・ジェット」後部貨物室採用の背景

なお、「スペース・ジェット」当初は後部貨物室のほか、前方に床下貨物室を導入する予定でしたが、開発発表の翌年となる2009年に、一転して客席後部1か所に貨物スペースを集中するとしました。このとき、後部貨物室の方が積み降ろしの効率が良く、1か所に集中することで貨物の取り扱いが容易になるとの理由を挙げていました。

航空会社が新機種を導入する際は、巡航速度や高度、燃費といった運航コストに直接結び付く性能のほかに、明確なデータとして表れない「使い勝手」も重要な条件になります。売り込む側のメーカーは、航空会社から数えきれない要望を受けるものの、機体の容積と重量は限られており、その中で期待された性能と「使い勝手」を実現しなければなりません。

どの要望を採用し、どれをあきらめてもらうか――開発は常に、「トレードオフ」と「取捨選択」が山積みです。三菱航空機が前部床下貨物室を早々にやめたのは、航空会社にリサーチをかけたうえでの結果でしょう。

リージョナル機の王位を掴みつつあるエンブラエルの最新型「E-Jet E2」が採用したダブル・バブル構造と床下貨物室か。「ニューカマー」を目指した「スペース・ジェット」の真円胴体と後部貨物室か――2モデルはベテラン対ルーキーの対決ともなっただけに、貨物室を巡る“タイマン勝負”の結果は、ぜひ知りたいものでした。

三菱航空機「スペース・ジェット」(画像:三菱航空機)。