上野耕平、宮越悠貴、都築惇、田中奏一朗の4人によるサクソフォン四重奏団「The Rev Saxophone Quartet(ザ・レヴ・サクソフォンカルテット)」が、ドイツ3大B(J.S.バッハベートーヴェンブラームス)の作品だけでリサイタルをひらく。Revの4人にそのチャレンジングなプログラムへの意気込みなどをきいた。

――まず、Revの結成の頃のお話をうかがいたいのですが。

上野:全員が東京藝術大学サクソフォン科の出身でして、2013年、僕が大学3年生、都築君と宮越君が大学2年生、田中君が大学1年生のときに結成しました。来年が結成10周年になります。お互い、大学に入る前から、コンクールや講習会で顔を合わせたりする仲でした。初めてこの4人で演奏したのは、銀座の路上でサクソフォン・クァルテットで吹くという仕事でしたね。

――今回の3大Bの作品でのリサイタルについてお話ししていただけますか?

都築ブラームスバッハは、サクソフォンでも吹く機会はありますが、3大Bで演奏会って、あまり聞いたことがないですね。とくにベートーヴェンのピアノ・ソナタサクソフォン・クァルテットで取り上げるところはなかなかないのですが、絶対サクソフォン・クァルテットに合うと思っていたので、今回、「熱情」を演奏することにしました。前回のリサイタルはバラエティに富んだプログラムでしたが、10周年を控えた今回は、硬派なプログラムを楽しんでいただきたいと思います。

上野:「シャコンヌ」は既存の伊藤康英さんの編曲版を使いますが、ブラームスベートーヴェンは旭井翔一さんにアレンジをお願いしました。

田中奏一朗、上野耕平

田中奏一朗、上野耕平

 ――最初は、バッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番」です。この作品では、特に第5曲「シャコンヌ」が有名ですね。

上野:最初に「シャコンヌ」以外の4曲を、4人それぞれアルトサクソフォンのソロで吹きます。そのあと、4人で「シャコンヌ」を演奏します。「シャコンヌ」が4人一緒に鳴らす最初の曲となるわけですが、素敵な響きがします。

都築:パルティータの最初の4曲でアルトサクソフォン4本を聴き比べるのは楽しいと思います。楽譜がシンプルなので、それぞれの個性が出やすいのです。「シャコンヌ」は4種のサクソフォンで一つのテーマを変奏して紡いでいくので、楽しんでいただけると思います。

宮越フルートバッハを吹いたりもしますが、サクソフォンはロマンティックな楽器なので、ロマンティックになりすぎないでいかにバッハを伝えるかを考えています。

田中サクソフォンは倍音の豊かな楽器なので、それらを4本、ホールで鳴らすと、パイプオルガンのような荘厳な響きがします。バッハの中でも「シャコンヌ」は特に聴きどころだと思います。

上野サクソフォンバッハの時代にはなかった楽器です。新しい楽器なので、へんに華やかになったり、チャラくなったりもしますが、うまく使えば物凄く深い世界が表現できます。それを期待していただきたいです。

 ――ブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」は、もともと2台ピアノ用に作られましたが、今では、オーケストラ曲としての方が有名ですね。

上野:原曲を生かすために、原曲と違う動きが敢えて出てきたり、変奏でどんどんカラーが変わっていくので、サクソフォン・クァルテットとよく合い、聴き応えがあると思います。

都築:大好きな曲で、演奏していると時間が短く感じられます。この主題、好きなんです。それを演奏できる喜びを感じます。オーケストラのサウンドもピアノのサウンドもする、サクソフォン版もありなんじゃないかと思います。

宮越サクソフォン・クァルテット版では、ピアノ版のフットワークの軽さとオーケストラ版の重厚さのバランスがとれている、良いとこ取りをしているという感じです。しかも音色の変化にも富んでいます。最強です。サクソフォン・クァルテットに合っていて、いいなと思います。

田中:重厚でバスラインのパワーが相当必要だと思います。僕の中では、パワフルな精神が持っていかれそうになる曲で、汗水たらして吹いています(笑)。「熱情」の重厚さとは違う、コントラバスのような深い音色が必要。バスラインをバリトンサクソフォン一本で動かさなければならないのはハードですけど、やりがいがあります。

都築惇、宮越悠貴

都築惇、宮越悠貴

――どうしてベートーヴェンのピアノ・ソナタ第23番「熱情」を取り上げようと思ったのですか? 

上野サクソフォン・クァルテットは、ピアノよりも表現できるところがあるんです。息を吹くぶん、クレッシェンドやヴィブラートが使えますから、それらを駆使してベートーヴェンの作品を再現したいと思います。逆に、サクソフォンは単音楽器なので、4人でもピアノより音の数が少なく、違うことをしなければならないところもあります。その点では、特にアルペジオ(分散和音)で旭井さんのアレンジの素晴らしさを感じていただけると思います。

田中ドビュッシーとか、ピアノの作品の演奏も増えて来ました。サクソフォン・クァルテットは、音色が調和しやすく、それでいて4人が独立しているので、オーケストラのような壮大さも出せる。ピアノ作品にもすごくマッチすると思います。

宮越:縦だけではなく、横のつながりも見てアレンジされているから、幅広い音楽になっています。4つの音しかないのに、4つの音じゃないように聞こえます。ピアノを一人で弾くのとは違う、4人一緒の熱量でインパクトのあるものになると思います。 

――Revの個性については、自分たちではどのように思いますか?

上野:4人のキャラクターが強いことでしょうか。それぞれのキャラクターがぶつかり合うのが面白い。4人のやりとりのライヴ感がお客さんにも伝わりやすいと思います。4人違った特技があって、それらが融合したときの凄まじいエネルギーを今回のプログラムで感じていただきたいと思います。

都築:10年経って、だんだん品が出てきたかな(笑)。それぞれも変化しているので、そういうなま物な感じが面白いです。

宮越:認め合えるのは当たり前で、お互いがお互いのケツを叩き合えるのがこのグループ。言葉に出さなくても、周りの3人からは影響を受け、ケツに火をつけられてきました。そういう関係です。

田中:現状維持しないで、常にチャレンジのあるクァルテットです。

 ――最後に読者のみなさまにメッセージをお願いします。

田中サクソフォン・クァルテットに、こういうプログラムはなかったし、Revとしてもこのようなプログラムは最初の試みです。その瞬間を聴きに来てください。

宮越:4人ともが20代での演奏会は最後となる、ちょっとした節目のタイミングで、過去の偉大な作曲家の作品をサクソフォン・クァルテットで吹けるのは幸せです。そういうプレミアムな演奏会。30代のRevをもっと楽しむには聴き逃せないコンサートです。

都築:注目していただきたいプログラムですが、3大Bを知らない人にも、もっとバッハベートーヴェンを聴いてみたいと思っていただければうれしいです。とても芸術的価値の高い2時間を過ごしていただける自信があります。

上野:僕はこの公演の2日後(7月10日)に30歳になりますので、僕にとっては20代最後の演奏になります。楽譜に残された3人の作曲家の生きた証を、僕たちの20代を生きた証を、我々が命を削って表現します。曲を知らない人が来ても、クラシックの凄さが体感できると思います。予備知識なくても、体で聴いてほしい。サクソフォン・クァルテットと浜離宮朝日ホールの響きによって、そういう空間になるので、ビビらず、飛び込んで来てほしいと思います。

――ありがとうございました。

取材・文=山田治生 撮影=山本れお

左から 上野耕平、宮越悠貴、田中奏一朗、都築惇