「懲役刑」と「禁錮刑」を一本化した「拘禁刑」を創設する改正刑法が6月13日参議院本会議で可決、成立した。

刑の種類の見直しがおこなわれるのは1907年の刑法制定以来はじめて。改正法では、受刑者の年齢や事情に応じて、再犯防止に向けた指導や更生に向けた教育などができるようになる。

「懲役刑」と「禁錮刑」を一本化することで、どのような意義があるのだろうか。神尾尊礼弁護士に聞いた。

●どうしてこのような法案が提出された?

改正法では「刑事施設における受刑者の処遇・・・のより一層の充実を図るため、懲役及び禁錮を廃止して拘禁刑を創設し、その処遇内容等を定める」とともに、「罪を犯した者に対する刑事施設その他の施設内・・・における処遇の充実を図るため」とされています(https://www.moj.go.jp/houan1/keiji14_00021.html)。

そもそも、受刑者の処遇にどのような問題があったか、今までの経緯を含めてみていきましょう。

2002年以降刑法犯の減少が続いています(令和3年版犯罪白書)。再犯者も2006年以降減少傾向が続いてきましたが、刑法犯全体と比べ減少幅が小さく、再犯率の上昇が問題とされてきました。

このような中、東京オリンピックパラリンピックの開催も見据え、2016年には再犯防止推進法が制定されました。そして、法制審に少年の処遇を中心とした諮問がされたのをきっかけに、自由刑に関する議論が始まりました。

●懲役と禁錮の違いは?

この「自由刑」とは、犯罪者の自由を奪うことで刑罰とするもので、日本では主に懲役と禁錮が定められていました(自由刑のほかには、例えば罰金などの財産刑があります)。

懲役と禁錮の違いについては、以前池袋暴走事故に関する記事で答えていますが、簡単にいえば、以下のように説明できます。

禁錮=作業をおこなわせず、ただ刑務所に入れること。主に政治犯と過失犯に適用される。
懲役=刑務所に入れたうえで、刑務作業をおこなわせること。政治犯と過失犯以外の、大多数の犯罪に適用される。

法制審では、(1)懲役と禁錮を一本化すべきか、(2)一本化するならば処遇の内容はどうするかが議論されました。

●(1)一本化に関する議論

いくつかの理由で懲役と禁錮は一本化されることになりましたが、大きな理由の1つが「分ける実益がない」という点です。

法制審に出されたデータによれば、懲役受刑者が約4万9000人、禁錮受刑者が約120人であって(2016年末時点)、禁錮受刑者は1%にも満たないことになります。

さらに、禁錮受刑者は作業をおこなわないことが懲役との違いでしたが、禁錮受刑者は作業をしたいと申し出ることができます(刑事収容施設法93条)。そして、禁錮受刑者の90%近くが作業をおこなっています(2017年7月末日現在で禁錮受刑者134人中117人が作業)。

これには様々な理由が挙げられていますが、結局は「何もしない方が苦痛」という理由で、作業を申し出るケースが多いと聞いています。

このように、受刑者の大半が懲役受刑者で、数少ない禁錮受刑者も同じような作業をおこなっていることから、わざわざ禁錮を定めておく必要がないと思われるようになりました。

また、懲役と禁錮はいうなれば刑の「入口」の話に過ぎず、再犯防止のためには刑の「中身」あるいは出所に至る「出口」が大切なのではないかという議論もありました。そこで、次に刑の中身の議論に移ります。

●(2)処遇の内容に関する議論

禁錮があまり使われていないからといって懲役に一本化しようにも、懲役についても多くの問題を抱えていました。

懲役受刑者には、刑務作業のほか、各種の指導が用意されてきました。指導というのは更生に向けたプログラムなどであり、若い受刑者には教科指導(勉強のことです)、薬物依存や性犯罪受刑者には離脱指導や再犯防止指導がおこなわれてきました。

ただ、この作業や指導には問題が多く、以下のような問題が指摘されていました。

(1)作業の時間が長すぎて指導の時間が十分ではない
(2)プログラムに参加できる人数が限られている
(3)プログラム自体の回数等が十分ではない場合がある
(4)高齢受刑者が増え、作業をおこなえない者も増えた

性犯罪の再犯者に話を聞くと、「更生プログラムに参加できなかった」という話を聞くことがあります。

刑務所の問題点は、少年事件に端的に現れます。我々少年事件を扱う弁護士は、特に重大事件の場合、「少年院か少年刑務所か」といったテーマで意見書を書くことがあります。少年院は更生を主とし、少年刑務所は作業が中心となります。少年の更生のためには、少年刑務所よりも少年院の方が適切であると意見することがあります。それだけ、刑務所は更生を阻害してしまう場合があるのです。

このような懲役刑の問題点を踏まえ、処遇の内容として、受刑者の年齢や特性などに合わせて作業や指導を組み合わせる重要性が指摘されました。

●改正法の内容は?

以上の法制審の議論を踏まえ、以下のように刑法は改正されました。

(1)懲役と禁錮は「拘禁刑」に一元化 (2)拘禁刑受刑者には、改善更生を図るために必要な作業や指導をおこなう

●改正の本質はその処遇の中身にある

「刑法始まって以来の刑の種類の変更」などと報道されていますが、私は、「刑種の変更」などというのはあくまで「名前の変更」に過ぎず、改正の本質はその処遇の中身にあると考えています。

つまり、結局作業いっぺんとうだった刑罰を、受刑者に合わせて指導も柔軟に組み合わせることができるようになった点に意義があると思います。これによって、再犯のいっそうの減少に繋がればよいと考えます。

ただ、性犯罪者処遇プログラムも効果はあるとされているものの、対象者が限定されるなど運用面での問題点が指摘されています。拘禁刑も、制定するだけでなく、実際の運用が再犯防止に繋がるかまで注視する必要があろうかと思います。

なお、再犯防止に関しては出所後の受け入れも重要になると考えています。ただ、コロナの影響で受け入れ企業が減っているとも聞いています。私も元受刑者の相談に乗ったり行政に繋いだりしているのですが、個人でできることには限界を感じています。

昨年、日本で犯罪防止・刑事司法分野の大きな国際会議が行われましたが(京都コングレス)、そこでも再犯防止が大きなトピックになっていました。今回の拘禁刑の動きもそうですが、再犯防止に向けては仕組み作りが大事なのだろうと思います。

【取材協力弁護士】
神尾 尊礼(かみお・たかひろ)弁護士
東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。刑事事件から家事事件、一般民事事件や企業法務まで幅広く担当し、「何かあったら何でもとりあえず相談できる」弁護士を目指している。
事務所名:弁護士法人ルミナス法律事務所
事務所URL:https://www.sainomachi-lo.com

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