バラエティー番組で、大食い企画とともによく見かけるのが、激辛料理を食べる企画です。芸能人が激辛料理を口の中にかき込み、苦しむリアクションを面白おかしく放映するものですが、中には、人間が食べられるとは思えない量の唐辛子を加えるケースもあります。刺激の強い激辛料理を食べることで、食道や胃など消化器がダメージを受けることはないのでしょうか。医師の市原由美江さんに聞きました。

胃炎や胃潰瘍、食道がんのリスク上昇

Q.唐辛子などの香辛料を大量に入れた激辛料理を食べると、食道や胃に何らかの影響が出ますか。

市原さん「唐辛子の辛味成分であるカプサイシンは、少量の場合は胃酸の分泌を抑え、胃粘膜の血流を増加させる働きがあります。そのため、胃粘膜保護作用により、胃炎や胃潰瘍になりにくくなります。

逆に大量に摂取すると、胃酸の分泌が増加して胃粘膜障害を起こし、胃炎や胃潰瘍になりやすくなります。食道がんのリスクも上がります」

Q.小腸や大腸などにも、何らかのダメージを与えますか。

市原さん「小腸や大腸にもカプサイシン受容体が存在し、特に肛門側に多い傾向にあるので、痔(じ)の人は悪化しやすくなります。小腸や大腸の粘膜を傷付ける可能性があるとの報告があり、潰瘍性大腸炎など炎症性腸疾患の人は摂取を控えたほうがよいでしょう」

Q.激辛料理を食べて体調を崩し、診察を受ける人はいるのでしょうか。

市原さん「胃の痛みや痔の痛み、下痢で受診することが多いと思います。胃粘膜にダメージを与えるため、胃炎や胃潰瘍がある人は胃痛を訴えやすくなります。カプサイシンは全身の粘膜に影響するため、もともと痔がある人は症状が悪化して痛みを訴えやすくなります。

また、腸の粘膜を刺激するため下痢になることがあります。カプサイシンが気管支を刺激して咳や息切れを生じさせるので、ぜんそくが悪化する可能性もあります」

Q.逆に、激辛料理が体に良い影響を与えることもあるのでしょうか。

市原さん「先述したように、適度な辛さで、適量であれば、胃粘膜保護作用や食欲増進作用、代謝の促進によるダイエット効果があります」

Q.激辛料理が好きな人が、食べる前にすべきことがあれば教えてください。

市原さん「吸収されたカプサイシンは消化管などの粘膜にダメージを与えますが、カプサイシン自体の吸収を抑える方法はありません。ただ、食べる前に牛乳などの乳製品を摂取すると、のどや食道、胃への直接的な刺激を和らげることはできます」

Q.「激辛料理を食べても平気だ」という人は、胃腸が丈夫など、体質的に違いがあるのでしょうか。

市原さん「味覚は甘味、うま味、塩味、苦味、酸味に分けられ、これらは舌の味覚受容器の『味蕾(みらい)』という細胞で認識し、脳に伝わります。しかし、辛味は味覚の一種ではなく、味蕾では認識しません。痛みの感覚として脳に伝わります。この痛みの感じ方の違いで激辛料理の得意、不得意が生まれます。

痛みの刺激は繰り返すと慣れるため、辛いものを食べ続けると辛さに強くなります。激辛料理が好きで得意な人は、痛みの感じ方が鈍く、さらに胃腸も丈夫であるといえるでしょう」

オトナンサー編集部

激辛料理、体への影響は?