北朝鮮朝鮮労働党咸鏡北道(ハムギョンブクト)委員会(道党)が、工場や企業所、行政機関などが、従業員に配給するための作物や、原材料となる作物を栽培するための農地である「副業地」に対して没収命令を出したのは先月のこと。

また、個人が自家消費、または市場に卸すための野菜などを栽培する「トゥエギバッ」と呼ばれる小規模農地に対しても、没収命令が出された。

ところが、それから1ヶ月も経たないうちに、命令を保留する決定が下された。関係者は一様に「呆れた」との反応を見せている。

現地のデイリーNK内部情報筋によると、道党は、先月初旬に出した副業地やトゥエギバッを国に返還せよとの要求を、先月末になって保留にし、来年までそのままにすることにした。

当局は、これらの土地を「収穫が少ない土地」と一方的に決めつけ、穀物増産を名目に没収命令を出した。これらの土地が企業や個人、さらには地域全体に利益をもたらしていることには目を向けず、国の決めた計画のことしか考慮しないという、北朝鮮の経済システムがいかに硬直しているかを示す事例だった。

当初は、没収した土地に麦などを植える予定だったのだが、コロナ対策としての移動制限などで人手が足りず、種まきはおろか土地の管理すらできないために、決定を覆したとのことだ。

「道党は、従業員が多い工場、企業所ごとに出勤率の調査を行い、食べ物が得られずに出勤できない従業員の多い単位(職場)に対して規制を解いた。その代わり、トウモロコシ、小麦、大豆など無条件で(収穫量の)25%を上納させることにした」(情報筋)

結局、没収したところで何の収穫も得られない、つまり国から求められた農業増産に役に立たない、むしろ任せておいた方が増産になるという現実的な判断が働いたようだ。

しかし、一時的であっても土地を奪われた側からは恨みの声が上がっている。その理由はこうだ。

「管理が面倒だからと、種まき(の季節)がほぼ終わるこの時期になって土地を返してきた」(情報筋)

一時的な没収に伴い、種まきに適した時期を逃してしまい、今から始めても、当初予想していた収穫量は期待できなくなったということだ。また、「25%を納めろ」という指示に対しても、「呆れた」という声が上がっている。

これに対し「25%を納める自信がない」として、土地返還を拒否する事例まで現れているとのことだ。

かくして、本来なら得られたであろう収穫が減少、または消滅してしまう結果を生むことになった。これが「農業第一主義」を掲げる北朝鮮の現場で起きている、お寒い現実だ。

三池淵群中興農場を現地指導した金正恩氏(2018年7月10日付朝鮮中央通信より)