世田谷区で子どもを抱える身になり痛切に感じるのが、区内の縦方向、つまり南北移動のしづらさです。公共交通機関の縦移動の脆弱さは、実際に住んでみてジワジワと効いてきます。この不便さは、どうにかならないものなのでしょうか。

世田谷区長年の課題“縦移動”

東京23区内で最大の人口94万人を誇る世田谷区。総面積でも23区内で2番目に広く(1番目は大田区)、いくつかの政令指定都市や8つの県よりも人口が多いことでも知られています。そんな“大国”である世田谷区の住民を長年悩ませているのが、区内の“縦移動”です。

世田谷区には、京王線小田急線・東急線といった東西を走る私鉄が充実しており、都心部へのアクセスは容易ですが、問題は“縦”、つまり南北間の移動です。

例えば、世田谷北部の「千歳烏山駅」から南部の景勝地「等々力渓谷」へ行く計画を立てるとします。直線距離は9.1kmで、クルマなら環状8号線(環八通り)を南下して30分弱といったところですが、電車を使うなら、他区を経由しての2~3回の乗り換えは必須で、1時間近くかかります。路線バスも直行便はなく、京王バス東急バスを乗り継いでだいたい1時間弱です。

南北方向の鉄道として、区の東部には京王井の頭線東急世田谷線が、南部には東急大井町線がありますが、環八通りを軸とした区の西部は、東西方向に走る鉄道路線間の距離が広がります。このため、バス停から200m以上、鉄道駅から500m以上離れている「交通不便地域」も、区の西部に集中しています。

この地域で縦移動の公共交通機関は、ほぼ路線バス一択となるものの、上記の例にもあるように、区内の主要路線を担う京王バス小田急バス東急バスはそれぞれの管轄地域内の運行が基本で、区内を縦断するような移動はしづらいのです。

主要路線バスとは別に、交通不便地域の解消のため区のコミュニティバスもあります。現在は上記3社が運行を担う10路線がありますが、交通不便地域と最寄りの駅とを結ぶような短い系統が多く、その地域の人以外には分かりづらいのが現状です。

マイカーでも自転車でも難

仮にバス路線が充実し、南北間が乗り換えなしに移動できたとしても、そこには「道路渋滞」という重大な問題が横たわります。世田谷区を縦に貫く主要道路の環八は、周知の通り区内で渋滞が常態化しており、路線バスもしばしば巻き込まれます。

それならばと、マイカーで環八を通らずに抜け道で移動しようものなら悲惨です。カーナビは泣きたくなるような細い路地に誘い、ストレスのかかる運転をする羽目になります。

よって、消去法で考えると、自転車で移動するのが一番タイムコストが良いわけですが、武蔵野台地や国分寺崖線からなる地形で地味に坂が多い世田谷区。電動アシスト付き自転車でない限り、相当きつい地域も少なくありません。

抜本的かつ壮大な計画が存在した!

2022年4月、国土交通省東京メトロ有楽町線の支線となる豊洲~住吉間の建設に事業許可を出しました。江東区を南北に貫くような線形であり、世田谷と同じ課題を抱えている江東区で、縦移動の改善が期待されることを羨ましく思ったものです。

世田谷区として、江東区のような抜本的な解決策はないのでしょうか。実は、一筋の光があります。

その名も「エイトライナー構想」。環八沿線の6区(大田・世田谷・杉並・練馬・板橋・北区)を結ぶ、新たな公共交通の実現を目指す計画があるのです。この計画が実現されれば、環八沿線地域の移動がスムーズになり、羽田空港へのアクセスにも資するとされています。

昭和の時代から構想はあり、2016年の交通政策審議会答申でも、「地域の成長に応じた鉄道ネットワークの充実に資するプロジェクト」に位置付けられました。エイトライナーと一体となり羽田空港へアクセスする新空港線(いわゆる蒲蒲線)も、大田区が6月に整備の意向を表明したばかり。エイトライナーも早期の実現に向けて期待したいものです。

小田急バスが運行する成06系統。世田谷区コミュニティバスの「南北路線」として、京王線の千歳烏山駅と小田急線の成城学園前駅を結ぶ(乗りものニュース編集部撮影)。