4月30日からJR東日本四季劇場[秋]で開幕した劇団四季ミュージカルバケモノの子」。同作は2015年公開の細田守監督による同名アニメーション映画を原作にした新作オリジナルミュージカル。この世界に存在する人間界ともう一つの世界・“バケモノ界”の渋天街。そこに迷い込んでしまった蓮とバケモノである熊徹を中心に、色鮮やかなキャラクターたちの姿を描いていく。劇団四季はこの作品で国産ミュージカルとして最大級の長期上演に挑む。

【写真】吉田智誉樹社長がミュージカル「バケモノの子」の魅力を熱弁!

WEBザテレビジョンでは「劇団四季ミュージカル 劇場から渋天街へ続く道」と題し、全7回に渡って俳優やスタッフのインタビュー、稽古場の様子などをお届け。ミュージカルバケモノの子」がどのように生まれ、劇場で観客をバケモノの世界へどう誘っていくのか…作品の魅力を余すことなく紹介していく。

第1回目の今回は劇団四季代表取締役社長の吉田智誉樹氏のインタビューをお届け。「バケモノの子」のミュージカル化に至ったまでのいきさつや、見どころを聞いた。

■「劇団四季とスタジオ地図のコラボレーションで生まれるシナジーもあるだろうなと」

――原作のアニメーション映画の印象はいかがでしたか?

オリジナル作品の創作体制強化のために2018年に新設した企画開発室から、「細田守監督の代表作を候補のひとつとして検討したい」ということで上がってきたのが、「バケモノの子」だったんです。これまで、「時をかける少女」や「未来のミライ」は見たことがあったのですが、この作品は未見でした。それですぐ映画を見たのですが、非常にスケールが大きく、さすがに細田監督の代表作と呼ばれているだけの事はあると感じたのを覚えています。

――その映画をミュージカルにしようと思ったのはどんな理由からですか?

この映画が我々の作品になり得ると思ったひとつめの理由は、まず、親子の話だということです。バケモノと人間という、種族の違う2人の間に生まれた、親子のような愛情の交流が見事に描かれているなと思いました。親子の愛情、人間の成長というテーマはミュージカルに向いているのです。2つめは、渋谷という日本人なら誰もが知っている都会のすぐ裏側に異界があるという構造。日常の中に未知なるものが存在している感覚は、古い民話や伝承にもよく見られますし、とても日本人的な感覚で、日本のお客様が理解しやすいのではないかなと思いました。そして3つめは、細田監督、そして日本有数のアニメーション制作会社である、スタジオ地図さんの代表作だということです。細田作品を愛好する方たちが、我々の新しいお客様になり得ると思いましたし、劇団四季とスタジオ地図のコラボレーションで生まれるシナジーもあるだろうなと。それで、企画開発室にゴーサインを出しました。

■「バケモノの子」創作にあたっての苦労とは

――アニメーションが原作のものに抵抗感はなかったのですか?

全くありませんでした。そもそも、我々が手がけている「ライオンキング」や「アラジン」、「アナと雪の女王」といったディズニーミュージカルも、アニメーション映画が元になっているものがほとんどですから。ただ、海外産のコンテンツを受け入れるには、日本人特有の情感に配慮した作り方をしなければならず、どの作品でも工夫が必要でした。「バケモノの子」は、細田監督という日本人が作った日本的な作品なので、感覚的にも受け入れやすいですし、異文化を乗り越えるような作業は必要なかったですね。それよりも、細田監督のアニメーション映画の世界観を、歌があり踊りがあり、台詞があるミュージカルの「文法」の中に落とし込む作業が大変だったと思います。でも、こうした仕事は、脚本と歌詞を書いてくださった高橋知伽江さんが劇団四季時代から手掛けてこられ、豊富な経験をお持ちなので、安心してお任せしました。

――ミュージカル化に当たり何か制約はありましたか?

ほとんどないですね。現場での細かいやり取りはありましたが、基本的には任せていただきました。アニメーションと生身の人間が演じるミュージカルは文法が違う世界で、それぞれ得意分野があります。任せていただいたほうが、逆に原作の良さを引き出せるのではないかと思いましたし、スタジオ地図の皆さんも信頼してくださっていたので、それを裏切らないような作品を作らなければと思いました。

――細田監督が稽古場を見学された時の様子は?

演出の青木豪さんをはじめ、その日はみんなソワソワしていましたが、細田監督は、ご自身の世界観がしっかり再現されていることに満足してくださったようで、最初の関門は突破したという思いでした。それに、映画でもこの手法を使えばよかったと思われた部分がいくつかあったとお聞きして、それも嬉しかったですね。

■「“胸の中の剣”に気づき、背中を押されて、また明日も頑張ろうと思っていただけたら」

――ミュージカルバケモノの子」の魅力は?

バケモノの熊徹と人間の蓮が、互いに気づかないうちに強く刺激し合いながら、最後にはそれぞれが大きく成長していきます。その成長と、そこに至るまでの過程を共にした人たちとの連帯が、クライマックスで歌い上げられるのですが、その浄化作用の力は、心のデトックスを促すほどだと言ってもいいかもしれません。コロナ禍など、様々な苦しい状況の中でへこたれそうになったり、悲しい思いをしている方たちがこの作品をご覧になって、自分の“胸の中の剣”はこれだと気づき、背中を押されて、また明日も頑張ろうと思っていただけたら嬉しいですね。

――見どころもそのラストシーンですか?

吉田 そうですね。この場面の感動は、これまで上演してきた四季の作品の流れの中にあります。我々の作品を良くご覧いただいている方には、とても劇団四季らしいと感じていだけるのではないでしょうか。そしてその力は、今までにないぐらい大きい。それは、富貴晴美さんの楽曲の魅力に、高橋さんの歌詞や青木さんの演出をはじめ、多くのクリエイターの方々の力が加わったからこそ、生まれたのだと思います。それから、アニメーション映画をよくご存知の方は、闘いの場面や終盤の展開がどうなるのか、気になっていらっしゃると思います。その秘密はここでは明かせませんが、いろいろと創意工夫が凝らされているので、楽しんでいただけると信じています。ぜひ劇場でお確かめください。

取材・文=原田順子

劇団四季代表取締役社長の吉田智誉樹氏/ 撮影=大川晋児