6月22日メジャー8枚目のシングル「四角運命/アイビーダンス」をリリースした三月のパンタシア。そしてそのリリースに合わせて、6月24日から配信が開始される『Songful days Season2』にて、「ユアソング」の書き下ろし小説「多分、私たちひとりじゃない」とリンクした物語を展開している。それぞれが三月のパンタシアらしさが詰まった3曲への想いをみあに訊いた。


■「四角運命」は一歩踏み込んだ鋭い痛みみたいなものを歌った楽曲

――今回メジャー8枚目のシングル「四角運命/アイビーダンス」がリリースされます。この3曲(「ユアソング」)がまとまってどういう1枚になったのか。まずは簡潔に一言もらいたいと思います。

結構方々で言ってるんですけど、「三パシお得パック」になったなと思っています。

――その心は?

はい、1曲目の「四角運命」に関しては三パシの中でもロックな三パシを感じてもらえる1曲で、2曲目の「アイビーダンス」に関しては、ポップな三パシを楽しんでもらえる楽曲になりましたし、3曲目の「ユアソング」に関しては優しい三パシの肌触りを感じてもらえるかと。なのでロック・ポップ・優しさっていう三パシのいい所がそれぞれぎゅっと詰まった1枚になったなと思っていて。今感じて欲しい三パシがふんだんに詰まったシングルになっています。

――お得パックですか。では改めて1曲ずつお話をお聞きしていきます。「四角運命」はTVアニメ『カッコウの許婚』のエンディングテーマになっていますが、これは歌詞が先なんでしょうか? 曲が先なんでしょうか?

曲が先ですね。

――曲を聴いてから、『カッコウの許婚』の世界感も踏まえて歌詞を書かれたんですね。確かにロックな三パシというか、最初に聴いた印象は、歌うのも演奏も凄い難しいんじゃないかと。

バックの演奏が凄いことになってるんですけど、そういうテクニカルな部分もありつつ、色んな感情が絡まり合う、恋愛の複雑さ難解さみたいな部分もサウンドで表現されてる楽曲になったと思っています。

――「四角運命」も含め、3曲通して感じたのは、みあさんだけじゃなく、「三月のパンタシア」っていうプロジェクト自体の成長みたいなものを凄く感じました。ブルーポップという部分はあまり変わらないけど、ちょっと大人な感覚というか。

「四角運命」に関して言うと『カッコウの許婚』という高校生の王道ラブコメディーの群像劇があって、あの女の子たちの抱えている四角関係っていうのは、そのワードだけ聞くと一見ドロっとした関係性の物語みたいに感じるじゃないですか?

――確かに言葉だけ見るとそうですよね。

でもあの物語は主人公の凪君の事も、他の女の子の事もみんな同じぐらい本当に好きで、だからこそ自分の踏み出し方が分からない、というか。応援したい気持ちも本心のはずなのに、なぜか背中を押す事が出来ない、とかそういう想いが描かれていて。

――そうですね。

今回、実はアニメサイドに「四角運命」ともう一曲提案していて、もう1曲はもうちょっとテンポを落とした、ゆったりとして優しい柔らかな感情を落とし込んだような感じの曲だったんです。「どっちかな?」と思って提案させてもらったんですけど、先方から返ってきたのがエッジのあるダークなイメージの「四角運命」で。なら原作のヒロイン達の迷いや葛藤より、もう1歩踏み込んだ苦しさというか、そういう恋心を俯瞰で見た時の気持ちみたいなものが歌詞にも落とし込めるとハマってくるのかなと思ったんです。

――アプローチの仕方が変わりますよね。

歌詞の部分では「見守るだけなんて私もうできそうにない」など、原作よりも一歩踏み込んだ女の子の気持ちを書いて、鋭い痛み、みたいなものを歌った楽曲になったと思っています。

――確かにそう聞くと開放感のある曲ではないですよね。

三パシのラブコメっていうと、開放感あふれるイメージがあるかもしれませんが、今回の「四角運命」に関しては、楽曲も歌詞もかなり内面を描いていますね。

――三パシの恋愛を描いた楽曲というと、夏の匂いを感じる物が多いんですけど、これは凄く都会的ですよね。そこが凄く面白かったし、アニメタイアップとしてこれを持ってくるのは、「三月のパンタシア攻めてるな!」って印象はありました。

ありがとうございます!

――印象を変えるとは言わないでも、違う一面を見せて行こうっていうのは意識されているのでしょうか?

そうですね。ずっと変わらないまま、生まれ変わり続ける、っていう事を言い続けていて、“ブルーポップ”という三パシ独自の音楽性みたいなものが軸として立っていているんですけど、それに縛られるんじゃなくて、この独自性があるからこそ、より豊かさを求めて行きたいなと思うんです。今回はこういうテクニカルでロックな楽曲になりましたけど、また新しい一面を見せられたんじゃないかなと。

――ライブも含めてここ最近の三パシにはその思いを凄く感じます。メインビジュアルにもルービックキューブが出てますけど、そういう多面性みたいなのを凄く意識してると思いました。それにこの歌ってかなり難しい曲ですよね。

難しいですね(笑)。大体三パシの曲って難しいんですよ。言いたくても言えない切なさみたいなものを表現するために、畳み掛けるようなメロディラインとか、言葉を沢山詰めたりすることが多いんです。「四角運命」も言えない葛藤だったり、明らかに出来ない胸の内を歌っているので、歌うのも大変だし、演奏するバンドも大変なんですけど、その必死さが結構伝わる楽曲になってるんじゃないかな。

■大事な3月という季節にライブでファンのみんなに何かプレゼントがしたかった

――では2曲目「アイビーダンス」ですが、これは先日ライブでも発表された楽曲で、フレデリックからの提供楽曲です。

ライブで初披露したんですけど、ライブ終わってからSNSとかのメッセージで「イントロ聴いた時点でおや? と思いました」とか「やっぱりフレデリックだったんだ!」って、みんなイントロで気付いてたみたいですね。

――そうですね、改めてフレデリックは凄いなと思いました。

ファンのみんなの反応も含めて、イントロ一音目で自分達の音楽を感じさせる凄さというか、リスペクトする部分が沢山あります。今回ご一緒出来て学ぶ部分も沢山あったし、ありがたかったですね。

――あらためてこの曲に関しては、三パシ側からのラブコールで実現したんですか?

そうなんです。最初の取っ掛かりとして、3月という季節は私にもファンにとっても特別なものなので、ライブでファンのみんなに何かプレゼントが出来たらいいなと思っていたんです。ライブでステージもフロアも一体になって、一緒になって遊べる楽曲を作りたいというところから構想が始まったんです。

――なるほど。

もっと具体的に意味合いとして、コロナ禍っていう状況で、まだ皆さんに発声を遠慮してもらってるので、声が出せないなら、一緒に踊り明かしたいって思ったんです。だから三パシ初となる「春のダンスチューン」を作ってみたくて。

――そこでフレデリックなんですね。

三月のパンタシアってこれまでボカロPと呼ばれてる、ネット上を中心に楽曲を発信してるミュージシャンの方々と楽曲制作をすることが多いんですけど、でも今回自分が三パシとして遊べる曲を作りたいと考えた時に、よりバンドサウンドが立ち表れてくる楽曲にしたいと思ったんです。自分がリスナーとして好きだというのもあるんですけど、フレデリックの凄い独自性の高いダンスチューンがイメージとして思い浮かんで、お声がけをさせていただきました

――確かにここまでのダンスチューンって実は無かったですね。

曲が出来る前から、MVも一緒に踊れるようなものにしよう、っていう絵まで浮かんでいて、こういうものを作りたいっていうのは最初からはっきりしてました。

――MVもちょっと雰囲気を変えて、可愛いパンダとみあさんのアニメーションが踊るものになっています。

MVとかアートワークに関しても、いい意味で凄くシュールな三パシの表現が見せられたんじゃないかなと思って、個人的には凄く嬉しいコラボでした。

――フレデリックの「オドループ」や「オンリーワンダー」を聴いたときの衝撃を思い出しました。三パシと混ざるとこうなるんだっていうのは凄く面白かったです。作詞はみあさんですが、フレデリックのメロディに歌詞を載せるっていうのはいかがでしたか?

「めちゃくちゃフレデリックだ!」ってデモをもらった瞬間に思ったし、サビが特に好きなんですけど「ゆけ!ゆけ!」って繰り返すところとか書いていて楽しかったですね。

――歌詞を読み解いていくと「退屈のトンネル抜けて」とか「真っ暗闇な夜だって 君が呼んだら 走るよ」とか、みあさんなりにライブが出来なかったり、ライブをしても騒げないっていう、ご自身の中でも鬱屈したものがあったのかなって感じました。

有観客ライブが1年10ヶ月程出来なかった期間があって、その時期は凄く不安もあったし。私はずっとライブが一番好きだって話してきたんですけど、なかなかそれを実現出来ないことで、どこか抑圧されてるものを感じたりはしていたんだと思います。それを歌詞にしたいっていうのが最初からテーマとしてあったので、最初に三原さんにお伝えしてたかな。先程言ったサビの「ゆけ!ゆけ!」っていう部分から書き出して、その勢いのまま「今夜だけは一緒に踊り明かそうよ!」っていう想いを歌詞にぶつけて。比較的すぐ書けましたね。

――今回のシングルで言うと先程の「四角運命」「アイビーダンス」は先行配信されていますが、反応はどうですか?

「四角運命」に関しては、比較的新規で聴いてくれた人の意見が印象に残ってます。「三月のパンタシアってこういう楽曲もいけるんだ!」みたいな。ちょっと意表をつくような楽曲を発表出来た気がして、それは凄く嬉しかったです。ずっと聴いてくれてるファンのみんなも「久々にロックな三パシを聴けて凄い興奮した」とか、ライブでも気持ちよさそうに体動かしてついてきてくれて、それも嬉しかったですね。

――なるほど「アイビーダンス」はいかがでしたか?

大阪のライブではファンの子達が、自主的に開場前に外で「みんなで練習しました!」って振り付けをやってる動画を送ってくれたりしましたし、SNS上で踊ってみた動画を投稿する企画もやってみたんですけど、みんな一緒にこのダンスチューンを楽しんでくれていて、想いが伝わったのかなって思いましたね。ありがたかったし嬉しかったです。

――三パシってファンとの距離を凄く大事にしてる印象があるんです。みあさんがみんなの意見をちゃんと聞きたがってる気がするんですよね。

めちゃくちゃ私は聞きたい人ですね。もらった意見をクリエティブに反映できるかはもちろん精査していますけど、リアクションっていうのは凄く気になるし、基本的に人が喜んでるのを見るのって嬉しいことじゃないですか。

――「人が喜んでるのは嬉しい」って凄くいい言葉ですね。

自分が音楽を続けていく理由の大きな1つとして、待っててくれるっていうファンの存在が凄く大きくて。今までは結構自分の存在に対してあまり肯定的じゃなかった部分もあったけど、それを肯定してくれる人達が凄くありがたいなと思えるんです。みなさんに返せるものがあるのなら、音楽と言うかたちで返したいっていう気持ちはありますね。

■「ユアソング」は出逢って、別れて、それぞれの未来を進んでいくふたりの話

――そして3曲目の「ユアソング」はここまでの2曲を得て、比較的王道三パシ感を感じるというか。

そうですね。やっぱり新しいロック、新しいポップ、王道っていう三パシお得パックですね(笑)。これはイメージしてる季節があって、4月の曲なんです。新しい環境に身を置いて一歩踏み出す、今から頑張るぞっていうそういう状況にいる人達をイメージしています。新しい環境にいる人はもちろん夢とか未来とかに対する大きな希望を抱えながら、でも一方でどこかにひとかけらの不安を抱えてるんじゃないかなって。

――確かに新生活にはただ希望だけじゃなくて、不安は少なからずあると思います。

例えば凄く充実した毎日を送っていて、周りに大事な友人とか家族とかパートナーとかがいるっていう状況でも、人って結局どこか孤独を抱えているものなんじゃないかなと思っていて。人は誰かと完全に分かり合えないと思ってるし。でも孤独だけど、私達はひとりじゃないっていうのをこの曲で伝えられたらいいなと思っているんです。そういう想いを元に制作した楽曲ですね。

――「孤独だけどひとりじゃない」っていいですよね。誰かと一緒にいるけど孤独な時もあるし、逆もあるじゃないですか。ひとりだけど繋がってる感を感じる瞬間もあるし。

そうそうそう。

――これに関しては書き下ろし小説「多分、私たちひとりじゃない」が付いて来ますが、これもちょっと順番が知りたくて。この曲はやいりさんが作曲編曲じゃないですか。順番的にはどういう感じで小説と曲ができたんでしょうか?

最初に曲があって、その曲を元に小説を書いて。その小説を軸に歌詞を書いていくっていう順番ですね。これまでは最初に小説があって、曲が出来て歌詞っていう流れが割りと多かったんですけど、今回は曲が最初にあって、デモの段階でめちゃくちゃ心惹かれる部分があったんです、だから「この曲ください!」ってお願いして(笑)。 そこから小説を書き出しました。サビを聴いて、気持ちいい風が吹く中を走り抜けているような情景が思い浮かんだので、そのイメージを元に物語と歌詞で書いていった感じです。

――小説を読ませてもらいましたが、今回印象的だったのは、主人公と少年の邂逅が人の人生を変えていく出会いになっている部分でした。濃密な出逢いが一瞬だけど人生を変えるみたいな事が描かれていて。

そうですね。出逢って、別れて、それぞれの未来を進んでいくふたりの話ではあるんですけど、最終的にはもう1度未来で出逢うのか、出逢わないのか、っていうのを読んでみて欲しいなって思うし。空想を楽しんでもらえたら嬉しいなと思います。

――今回の物語は結構が読んでる人に、主人公の結末を委ねてるなって感じはあったんです。そこは意識した部分なんでしょうか?

そうですね。そういう結末にしようと思って書いたわけじゃないんですけど、書いてるうちに結びはこれだなって思って。

――歌詞にもその想いが凄く詰められている印象でした。今まで小説と共に展開された曲以上に、主人公の心情がこの曲の中に込められてるというか。本当にセットでひとつというか。

嬉しい。もしかしたら小説の主人公がミュージシャンを目指してるっていう、割と自分と近しいシチュエーションっていうのも、密接性を高めた要因なのかなって思ったりもしますね。より小説と楽曲の関係性を楽しんでもらえるような作品になったのかなと思うと嬉しいです。

――お話を聞いていて、今回の3曲は全部形は違えどどこか駆け抜けていくような楽曲たちだと思いました。

そういう気持ちなのかもしれないですね。今はもう突っ走って行きたいって(笑)。

――加速したい気持ちはある。

ありますね。もうすぐ三パシとして活動を初めて7年近くになるんですけど、日に日に年々そういう気持ちは増しています。これまでで得た自信とか経験値がそういうマインドにしてくれてるのかもしれないけど、今はとにかく止まらずに走っていたい気持ちが強いですね。

――そして今回、我がSPICE主催の配信ライブ『Songful days Season2』にご出演いただきます。

ありがとうございます。お話いただいて純粋に凄く嬉しくて。これまでのSongful daysも拝見したんですけど、物語というものを凄く大事にされてる配信ライブイベントだと感じました。三月のパンタシアもずっと物語性というものを大事に扱ってきたので、そういう所も踏まえて三パシを選んでもらえたという事が凄く光栄だなと思いましたし、だからこそ三パシにしか出来ない物語世界をSongful daysでお見せできたらいいなと思って準備をしているところです。

――物語の部分は先日、声優の西山宏太朗さんに担当していただいて、収録を終えたんですが、今回の「ユアソング」の小説「多分、私たちひとりじゃない」に紐づいたストーリーを、SPICEチームで書かせていただきました。勿論みあさんに監修してもらったんですが、いかがでしたか?

監修という程でもなく、原稿を受け取った時点で最高!ってなったので(笑)。 三パシとSongful daysの森の融合の世界を楽しんでもらいたいですね。

――ご自身が曲に対して小説を書いてらしゃいますが、ご自身の小説と曲に対してのアナザーストーリーを誰か別の作家が書くって、あんまり無かったような気がしていて。

そうなんです、凄く新鮮な気持ちで楽しませていただきました。SPICEさんにはこれまでライブレポートや取材で沢山お話させてもらってるし、その信頼関係があるからか、私の中の人物造形とか、思い描いていたシーンの情景みたいなものを凄く鮮明な筆致で書き表していただいて、それは凄く嬉しかったです。楽しみに配信を待っていてもらいたいし、何度も楽しんでもらいたいですね。

――では、最後に読者にメッセージを頂ければ。

アルバムを出したばかりではあるんですけど、更にもう1歩踏み込んだ新しい三月のパンタシアの表情を見せられるシングルになっていますので、ロックな三パシ、ポップな三パシ、王道の爽やかな三パシ、「三パシお得パック」をそれぞれ楽しんでもらえたらと思います。ぜひSongful daysも合わせてご覧いただけるとうれしいです。

インタビュー・文=加東岳史 撮影=大塚正明

三月のパンタシア みあ