いまや世界的にも大きな社会的問題に発展している性犯罪。国内でも映画業界をはじめ、告発が相次いだ。被害状況が明らかになったことで、必要な施策の検討や相談体制の拡充などが急がれている。

 今回は、20年以上にわたり日本の性犯罪に関する取材を続けるノンフィクションライターで、『ルポ性暴力』(鉄人社)の著者である諸岡宏樹氏に、性犯罪事件を取り巻く実態などを語ってもらった。

性犯罪事件の「その後」に迫る

――2018年の『男と女の性犯罪実録調査』(鉄人文庫)は『週刊実話』(日本ジャーナル出版)の同名タイトルの連載を文庫化し、新旧の男と女の性にまつわる事件を収録した本でしたが、本書もインパクトのあるタイトルですね。

諸岡:ちょうど本書の原稿を書き終えたくらいから映画業界などの問題が噴出し、タイミングがあまりに良すぎるタイトルになりました。今回は言わば『男と女の性犯罪実録調査』スペシャル版のようなかたちで、過去に取り上げた事件の“その後”を徹底的に取材して掘り下げた内容です。

 性犯罪は再犯率も高いので、より長い時間軸でルポできないかとずっと構想していて、昨年、追加で取材した15の事件から10本を選んでまとめました。性犯罪の取材は非常に難しく、うまくいかないことも少なくありません。今回はうまくいった取材が多かったと手応えを感じています。

◆最も取材に配慮が必要、被害者は「精神の根っこから疲れる」

――性犯罪事件を取材する難しさとは?

諸岡:事件取材にもさまざまある中で、“最も配慮が必要な事件”というところですね。取材対象者の方にも希望者には予定稿をお見せしましたが、当時を思い出して(フラッシュバックして)鬱状態になる方もいて。性犯罪は“魂の殺人”と言われますが、日常生活に支障がないような方でも、「語ると精神の根っこから疲れる」とおっしゃいます。

――諸岡さんは事件取材を中心に、週刊誌などで別名義でも活動されているとのことですが、性犯罪に注力するようになったのはなぜですか。

諸岡:仕事である大きな事件の公判を傍聴した時、偶然その隣でレイプ事件の公判をやっていて、それを見たのがきっかけです。28歳のおじが姪っ子と小学校3年生の時から3年半にわたって性的関係を持った挙句、妊娠させた事件だったんです。

――小学校トイレで破水して、帝王切開で子どもを産んだ事件ですよね……。

諸岡:その公判を見て、本当に背筋が凍る思いでしたし、ひとつ屋根の下で他の家族も気がつかないような隠された世界を取材できないものかなと。それが2007年から『週刊実話』の連載を始めた動機です。

◆立件を難しくする暴行・脅迫要件

――性犯罪で立件される事件は“氷山の一角”という話もありますね。

諸岡:女性の約15人に1人が性被害に遭った経験があるという内閣府調査がありますし、そのうち7割は仕事関係者や親族、教師など知人からの加害で、警察に相談するのは被害者の5%ほど。

 立場や力関係を利用した事件は「暴行・脅迫要件」を満たす事案でなければ、強制性交等罪が成立せず、被害届も受理されない状況です。6月17日には16~24歳の若年層の約4人に1人が、被害を受けたことがあるとの調査結果も公表されました。性犯罪でパクられる事件としては、知らない人にいきなり襲われるような事件のほうが多いんですが、実際の被害の数としてはむしろ少ないということですね。

――暴行・脅迫要件とは、なんですか?

諸岡:「服を破られた」「刃物を突きつけられた」「殺すぞと脅された」など、被害者の抵抗を困難にする行為の有無です。スウェーデンでは2018年にこの要件を撤廃し、不同意性交罪ができて、同意がない性交は一応すべて犯罪になりました。

◆専門家の意見も割れている

――知人男性と一緒に飲んでいて、襲われたようなケースだと、暴行・脅迫要件の立証は難しそうです。暴行・脅迫がなくても、女性が抵抗できなくなってしまうケースは多いはずですが…。

諸岡:実際、「被害者の不同意ではあるが、暴行・脅迫要件を満たしていないので無実」といった判決は多く、日本の法務省でも議論していますが、専門家の意見も割れているところです。本書のルポ1〜3は暴行・脅迫要件が深く関係した事件です。男2人が知人女性を襲った事件で、暴言で脅迫した男は有罪なのに、もう一人の男は2回射精しているのに起訴すらされてないという不公平感もあります。

――乱交パーティーの報道も目立ちますが、関西地方などで“パンコ”と呼ばれる、複数の男性を一度に相手にする女性が被害者となった事件も取り上げていますね。

諸岡:昔から輪姦は悪質な性犯罪とされ、親告罪でなくても罰せられていました。もしも女性とモメたら強制性交等罪でもっていかれますが、同意の輪姦が法的にどういう位置づけなのか、これも答えが出ないようなところがありますね。

◆相手と“性的同意”の認識にズレがある可能性も

――凶悪な性犯罪を多く取材されていますが、ごく普通の倫理観を備えつつ恋愛がしたいという一般男性は、今の時代どんな意識を持つことが大切でしょうか。相手との間で“性的同意”の認識がズレている可能性もあると思います。こちらだけが「合意のうえ」だと思い込んでいるケースも多そうです…。

諸岡:どんな据え膳な状況(相手から言い寄られた場合)でも1回デートしただけで関係を結ぶのはリスクがあるかもしれないですね。例えば3回目のデート(かつ相手から言い寄られた場合)なら、犯罪を成立させる構成要件も一般的には考えにくいかなと思います。

――3回目のデートというのは、要するに裁判官が客観的に認めてくれそうな信頼関係などを証明できるかといった考え方ですかね。実際問題、いろいろ議論はあるかと思いますが、“性的同意”とは、どういう状況なのでしょうか。

諸岡:相手(女性)から家に招かれたなら、(現在の裁判では)ほぼ同意と見なされます。恋愛の慣習的に女性から家に招かれることって、中々ないと思いますので。一方、自分(男性)の自宅に招いた場合は、まだ同意がとれているとは言い難い状況です。

――でも、女性が部屋に招こうがラブホテルに入ろうが、性行為の場面でYESでなければ「合意ではない」という見方が広がっていますよね。なのに、裁判では、ラブホテルに行くとその時点で“肉体関係を持った”と見なされると聞いたことがあります。

諸岡:普通に会話ができる状態でラブホに入れば、(裁判では)“その気があった”という推認を受けて同意していたと認められるでしょう。もちろん、睡眠薬などを飲ませて連れ込む輩もいるので、意識のない健忘状態の女性を担いで行くなどの特殊な状況は別ですが。あとは、2人きりのプライベート旅行も(裁判では)同意と見なされるかと思います。

――「立場が上の相手だから断れなかった」という被害者の実情が、裁判では反映されていないんですね。当事者同士の関係性もありますが、まずはパワハラなどと同じく相手との力関係を自覚することが第一歩かもしれませんね。

諸岡:ちなみに力関係を利用した最たるものが親族間の性的虐待で、今は監護者性交等罪があるので、これに限っては暴行・脅迫要件なしで罪が成立します。

◆見たことも聞いたこともない事件が定期的に出てくる

――最後に、諸岡さんが最近追っている性犯罪事件について少し教えてください。

諸岡氏:加害者弁護士の強制性交事件ですね。被害者が2人いて、どちらもキャバ嬢なんですが、弁護士が食事に誘って酔い潰した後、自宅で襲ったという。女性が抵抗すると骨折するほど顔面を殴ったらしいです。2人目の被害者は髪を掴まれながら髪の毛が何百本と引き抜かれても脱出し、通行人に助けを求めたので発覚したそうです。

――必死で抵抗すれば立件しやすくなるということでしょうか。

諸岡:とくに夜道などでいきなり襲われると、被害者は固まってしまい、抵抗なんてできないと言います。また、抵抗すれば相手が逆上して命の危険に晒される恐れもあるでしょう。にもかかわらず、裁判で加害者から「抵抗しなかった」と主張されてしまうこともあるので難しいところです。

 この弁護士の場合、肩書きを使って女性を言いなりにする、一種の性癖もある気がしています。その意味では、また新しいタイプの事件だなと。性犯罪ってこれだけ取材しても見たことも聞いたこともない事件が定期的に出てくるので、今後もそうした事件を掘り起こしていきたいです。

<取材・文/伊藤綾>

【伊藤綾】
1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュースマイナビニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催。Twitter@tsuitachiii

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