結婚するほどの2人ならば、「愛がゼロ」ということはないでしょう。しかし、情熱的に燃え上がって結婚した2人の場合、「お金がゼロ」のまま結婚…というケースは考えられます。

 愛もお金も両方あると万事が丸く収まりますが、もし、そうではないとしたら…。「愛のない結婚生活」と「お金のない結婚生活」は、どちらがつらいのか――。愛とお金にまつわる興味深い事例をご紹介します。

「デートの延長生活」からの産休突入

 幸雄さん(32歳、仮名)と恭子さん(34歳、同)は街コンで出会い、意気投合。「好き」の感情が高まり、3カ月足らずでスピード結婚しました。

 恭子さんは、好きなものや楽しいことにお金を惜しまず使うタイプ。一方、幸雄さんは毎月の生活費を決めてその中でやりくりし、しっかり貯金をするタイプです。新居のための敷金、礼金などは全て幸雄さんが負担し、お互いに1人暮らしのときの家具を持ち寄ったつつましい暮らしが始まりました。

 しかし、2人は結婚後も、独身時代とあまり変わらない生活をしていました。自炊はせず、お互いに好きなものを食べて帰ったり、テークアウトしたり。まだまだ新婚で、「一緒にいる時間が楽しければそれでいい」というデートの延長スタイルです。

 状況が変化し始めたのは、恭子さんが妊娠してからでした。恭子さんが産休と育休を取ったので、その間、幸雄さんの収入のみでやりくりしなければいけません。しかし、恭子さんには“やりくり”という概念がありません。これいいな、と思う物があったら、時間を置かずに購入してしまうのです。最初のうちは、自分の少ない貯金と、産休・育休手当などで賄っていましたが、それもどんどんなくなっていきました。

 すると恭子さんは、幸雄さんのファミリーカードを使い、少し高めの育児用品やママ向けファッションの洋服を買うようになりました。最初は目立つような金額ではありませんでしたが、そのうち自分の貯金が底をつくと、恭子さんは当たり前のように、幸雄さんの口座から引き落とされるファミリーカードを使うようになります。

 この頃から、幸雄さんと口論が始まりました。恭子さんの言い分はこうです。

「ブランド品を買うわけでもなく、毎日の生活の中でおいしいものを食べるくらいだったり、子どものために必要なものを買っていたりするんだから、何でそんなに怒るのか分からない」

 しかし幸雄さんにしてみれば、「毎月入ってくるお金は決まっていて、その中で生活して貯金もしなければいけないのだから、計画的に使ってほしい。特に、育休中は収入減なのだから」と。

 客観的に聞くと、幸雄さんの言う通り。恭子さんも、幸雄さんの言うことが頭では分かるのですが、身に付いた金銭感覚が変えられず、過剰な生活費が幸雄さんの口座から引き落とされる日々が続きました。

浮気ではなく、本気の恋が始まった

 そんな中、幸雄さんは「仕事が忙しい」という理由で毎日深夜に帰宅し、土日も「会社に行く」と言って出かけるようになります。

 幸雄さんは、同僚の女性とかなり本気の恋を始めていました。共通の知り合いが会社にいたことから、恭子さんはその事実を知ることになります。幸雄さんを問い詰めると、「慰謝料もしっかり払うし、養育費も法定以上のものを約束するから、離婚したい」と。

 これに対し、恭子さんは意外な反応を見せます。今の生活に窮屈さを感じていたこともあり、あっさりと同意したのです。私は、同意した心境を聞き出しました。普通、浮気された妻たちは夫に激怒して、相手の女性をおとしめようとするものですが…。

「『他に好きな女ができた』って言われたときは絶望しましたが、生活が担保できるなら、むしろその方が自由に暮らせるからいいなって思ったんです。お金のことで文句を言われるの、すごく嫌なんで。結婚して分かりましたが、他人と暮らすのって面倒くさい。私には向いていませんでした」

 育休から復職していたから自分一人の暮らしには困らないし、子どもの養育費がしっかり確保できれば、連れ合いにくどくど言われず、すっきり暮らせる――。それが、恭子さんにとってはよかったのです。彼女は今、お子さんと2人暮らし。決してつらそうではありません。

 その後、幸雄さんも、本気になった同僚と結婚しました。毎月の養育費と、分割で支払っている慰謝料のために、毎日の生活はゆとりのあるものではないけれど、幸せだと教えてくれました。

「今の妻とは、金銭感覚と、趣味のゲームが一緒なんです。節約がこんなにもストレスなく楽しいと気が付いたのは、1回目の結婚があったからですね。何事も経験しないと分かりませんね」

 幸雄さんと恭子さんは、お互いを決定的に嫌いになったわけではありません。毎日の生活の中で欠かすことのできないお金の価値観が違い過ぎて、窮屈になってしまっただけなのです。

今こそ「お金会議」をするとき

 幸雄さん・恭子さん夫婦は、お金がゼロではなかったけれど、限りある額の中での「金銭感覚の差」が亀裂を生みました。

 他にも、経済的に裕福だけれど、夫は会社の近くにワンルームを借りて自宅には月1回しか戻らず、寂しさを感じる妻。2人とも貯金がゼロの状態で結婚したけれど、節約やポイ活をしながら楽しく暮らしているカップル。FIRE(経済的自立と早期リタイア)を目指す夫に無茶な節約を強いられ、あきれ果てている妻。夫の、結婚前の大きな借金が結婚後に発覚し、「愛がゼロ」に変換された妻――。お金にまつわるエピソードは限りなく聞いています。

 お金がゼロでも、愛や思いやりが100なら、協力しながら楽しく暮らせることでしょう。「2人で資産をつくっていこう」と目標設定することで、愛も強固になります。しかし、結婚前に「相手がお金とどんな向き合い方をしているか」を知るのはかなり難しいもの。恋愛中は、相手のいいところしか見えなくなるからです。

 私は、短期共同生活で、「“金銭感覚お試し月間”を設けよ」と未婚女性にアドバイスしています。結婚前に価値観の確認と擦り合わせをするのが一番ですが、「もう結婚しているよ」という場合は、膝を交えた“夫婦間資産形成会議”なるものを、どちらかが提案してください。

 今、30代なら、あと70年ストレスなく生きるためには、いくらあれば安心か。「僕は、田舎で農業をやりながらのんびり老後を過ごしたいから、貯金しなくていいよ。今のうちに買いたいものを買おうよ」という夫なら、さて、どうしますか。「彼のことを愛しているから、まあいいか」と思えるなら、最高に価値観が合っている夫婦です。

 愛とお金の「ゼロヒャク感覚」を確かめるいい機会です。会議をしましょう。今すぐに。

「恋人・夫婦仲相談所」所長 三松真由美

愛とお金、どちらもあればよいけれど…