人間が社会生活を営む生き物である以上、この世には普遍的なルールがいくつも存在する。中にはもはやルールの枠を超越した「概念」とも呼ぶべき存在も少なくないが、「それが当然」と疑いもなく信じてきた存在について、根本から考えてみた経験のある人はそういないだろう。

以前ツイッター上では、そうした人間の概念を破壊し尽くす「驚きの壁時計」が話題となっていたのだ。

【話題のツイート】見ていると混乱してくる…?


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■不安がジワジワ押し寄せてくる…

件の時計が注目を集めるきっかけとなったのは、ツイッターユーザー「じーえす君」さんが投稿した一件のツイート

横浜駅では10時間制を採用してるらしい」と、目を疑うフレーズの使用された投稿には一枚の写真が添えられており、こちらには公共施設などでよく見かける、円形で真っ白なデザインの壁掛け時計が確認できる。

Spinout Hours 〜失われた2時間〜

一見すると何の変哲もない時計のはずなのだが…よく見るとこちらの時計は「9」の次が「0」と表示されているではないか。つまり「11時」や「12時」の概念が根底から抹消された「驚異の壁時計」と言えるのだ。


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■「見てると精神が不安定に…」

言うまでもない話だが、一日はAMが12時間、PMが12時間の計24時間から成り立っているもの。ひょっとして、ツイートにも名前が登場する横浜駅周辺のエリアでのみ「一日は20時間」という超絶ローカルルールが適用されているのだろうか…。

衝撃的な光景を捉えた件のツイートは、投稿からわずか数日で3,000件以上ものRTを記録。他のツイッターユーザーからは「サウナの時計かな?」「見てると、精神が凄い不安定になる…」「異世界への入り口だ」など、多数のツッコミが寄せられていたのだ。

ツイート投稿主に詳しい話を聞いてみると、こちらの時計は日頃から横浜駅を利用する際に通過している駅直結の商業施設「NEWoMan横浜」(ニュウマン横浜)にて、偶然発見したものだそう。

そこで今回は、件の時計を掲出している「The Chain Museum」の担当者に詳しい話を聞いてみることに。すると、見た者の精神を不安にさせる時計の「真の姿」が明らかになったのだ。

■考えれば考えるほど感覚が…

じつはこちらの時計は、ニュウマン横浜内の施設「Wall Street Museum」の1階に展示された『Spinout Hours 〜失われた2時間〜』という名前のアート作品で、2020年6月24日より展示開始。

Spinout Hours 〜失われた2時間〜

The Chain Museumの遠山正道氏が作家として生み出した時計作品の問いかけをテーマにアーティストが作品を創造するシリーズの第4弾に当たり、遠山氏は「テクノロジーが発達して、人間は暗算などの基本能力をいとも簡単に退化させた。あらゆるものを合理的に単純化させた結果、12進法の時計も10進法に変更した。弾き出された2時間に、非合理があった。失われた2時間にあなたは何を思いますか?」と、非常に哲学的な問いかけを寄せているのだ。

なお件の時計の風変わりな点は、本来表示される「11」と「12」の欠如だけでなく…。


■「針の位置」は同じなのがミソ

通常の時計と同じように使用できるのか尋ねたところ、担当者からは「時刻を確認する時計、として使用することはできません」という意味深な回答が。

「時刻を確認することができない時計って、それもう時計じゃないだろ」と突っ込みたくなった人もいるかと思うが、時計に表示された「数字の位置」を改めて見直してほしい。

Spinout Hours 〜失われた2時間〜

戦争映画などでしばしば目にするのが自身の正面を「12時の方角」と定め、進行方向などを的確に伝えるシーン。この法則では3時が右、6時が後ろ、9時が左を意味するのだが…例の時計を見ると3が「右後方」とでも呼ぶべき下り気味の位置に見られ、反対側で対応している「左後方」に当たる数字はどう見ても6でなく7である。

極め付けは本来なら「6」が表示されるべき場所は「5」が陣取っており、やや左にズレているのが何とも不気味。「見ていると不安になる」という声が多かったのも頷ける。

そう、本来の時計であれば文字盤は5分刻みで数字を表示している(60÷5=12)のだが、件の時計は「2時間」を葬り去るために「6分刻みで数字を表示する」(60÷6=10)という暴挙に出ていたのだ。

そのため「1時間が60分」というルールの元で、本来の時計と全く同じ位置に針が動いているのだが、針に呼応する数字やマークにズレが生じている…というのが違和感の正体。

例えば通常の時計が「12時5分」を示してる瞬間、こちらの時計は針の位置が全く同じにも関わらず、「0時(10時)5分」を指し示し、「2時間が消失した世界」の時を静かに刻み続けているのだ。

一応、表示時間に2時間をプラスして考えれば通常の時計と同様に使用することも可能なのだが…この時計の表示に慣れ切ってしまうと、これまでの自分とは異なる自分になってしまいそうで恐怖すら感じられる。

なお、そんな記者の不安とは裏腹にThe Chain Museumからは「ぜひ、ニュウマン横浜でアートを体験をしてください!」という気さくなメッセージが届いているので、決して身構えず、気軽にアートを楽しんでみてほしい。


【施設詳細】

Spinout Hours 〜失われた2時間〜

「Yokohama NEWoMan × The Chain Museum」

神奈川県横浜市西区南幸1丁目1−1

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(取材・文/Sirabee 編集部・秋山 はじめ

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