「ドローン戦略の優劣が戦いの雌雄を決する…」宮嶋茂樹カメラマンが“ウクライナ・ドローン小隊”従軍で見た「新たな戦争の形」 から続く

 数々のスクープ写真で知られる報道カメラマンの宮嶋茂樹さん(61)こと不肖・宮嶋がウクライナドローン小隊を従軍取材することに。不肖・宮嶋はウクライナ軍第93旅団長だったエフゲン大佐、通称「アダム」が指揮を執る第10大隊を基幹に新編された、戦車、砲兵、歩兵部隊を統合した部隊隷下のドローン情報小隊の司令部へ。隊員たちへの自己紹介が済んだ後、彼らとともに宿舎へと向かい、従軍取材1日目を終えた―ー。(全2回の2回目。前編から読む)

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本降りの雨...最も頼りになる戦友カラシニコフの手入れを

 午前6時。夜明けとともに目覚めた。ぼちぼち皆もお目覚めのようで、寝袋をかたずけだしたり、横になったままスマホを見つめる者もいる。ホントすごい。前線までWiFi電波が飛んでいるのは。 1階に降り、半長靴の紐を結び直し、外の新鮮な空気を吸いにでる。

「え?」

 雨が降っとる。しかも結構本降り。何やったんや? 昨夜の満天の星は?

 こりゃあ初の前線取材は苦労するわ。雨と雨無しでは撮影の苦労は段違いである。防弾チョッキに加え雨具も必要になる。

 小隊長のユルゲンも起きてきた。雨音を察するや、「しばらく待機」の命令を下した。

 揚力を軽量な回転翼で得ているドローンにとって雨は敵以上の大敵である。肝心の目となるレンズが濡れると充分な解像度も得られない。

 朝食も夕食と同じ指令部まで出かけ、パンと作り置きされていたスクランブルエッグとハムでサンドイッチをつくり、ほおばり、コーヒーでのどの奥に流し込む。

 宿舎に戻っても雨がふっても、やることはある。射撃訓練に武器の手入れや装備の確認である。特にドローン情報小隊の唯一の武器となるAK-47小銃、通称カラシニコフは最も頼りになる戦友である。皆食後の腹ごなしとばかりに、手慣れた手つきでカラシニコフを分解してはオイルを差し、銃身にウエスを通し、火薬カスや汚れをふき取っては組み上げる。最後はボルトを引き、地面に向け引き金を引き、ドライファイアー(空撃ち)する。

 バチン! という撃鉄が落ちる音で作動が正常なのを確認する。銃の手入れのしかた、その状態を見ただけで、その部隊の精強さや練度が計れる。銃に錆が浮いていたり、やたら引き金に指をかけ撃ちまくる軍隊は碌なもんでない。

 そしてかれらドローン小隊が愛用するカラシニコフこそ人類史上最高の小銃(アサルトライフル)と言われる。1949年、ソ連の元戦車兵ミハイル・カラシニコフによって開発され、ソ連軍に正式採用されて以来、70年以上世界の戦場で使われ、ギネスブックにも最も大量に生産された軍用銃として掲載されているぐらいである。

 まさにジャングルから砂漠まで少々泥に濡れても、砂を噛んでもちゃんと作動する。構造も単純で安価、掃除も楽とまあ世界のテロリストにも愛用されてきたぐらいである。ユルゲン小隊も隊長のユルゲンだけはサープレッサー消音器)付きだが、全員がカラシニコフである。

「装備をつけろ! 準備できしだい出動する!」

 正午になってやっと小ぶりになったが未だ出動の機会はなかった。銃の手入れが終わり、手持無沙汰になった一番若いジェイナが皿がうずたかく積みあがったせまいキッチンで目玉焼きを作ってくれた。皆が各々パンを片手にこれが昼食となった。

 13時過ぎ、ユルゲンが転げるように2階から駆け降りてきた。

「装備をつけろ!準備できしだい出動する!」

 ええ? まだ降ってるやん!

 全員が命令になんの疑いもなく防弾チョッキを背負いだし、機材や武器をいれたスーツケースクルマに運びいれた。ユルゲンはこの日初めて使うのか新品のキャメルバック(背負い水筒)を背負う。カメラ2台しか機材のない不肖・宮嶋のナリを見てマックスが怒鳴る。

それなら森で目立ち危険だ! 黒いチョッキしかないのか?」

ポンチョ(雨具)も黒いんだが……」

「それじゃあチョッキの上からこれを着ていろ」

 わたされたのは濃緑のポンチョだった。

 命令がでてから20分足らずで全装備を搭載し、全員が装甲車数台とニッサンのRV車に乗車完了した。敵もこの雨で油断していると、指揮官アダムが判断したのであろう。

 コンボイは数十分、ロシア軍の砲撃で穴だらけになった舗装道路を進んだあと、なんの目標物もないせまい交差点から脇道にはいった。

 そこから先は森林地帯を進む。道らしい道もない。真っ黒な土地は肥沃で平時なら多くの農作物に恵まれることであろう。

 途中打ち捨てられたロシア軍T-72戦車や軍用車両の横を通り過ぎる。ハリキウ州に侵攻したロシア軍は首都キーウに侵攻した部隊と違い、白い文字で「V」でなく、おなじみ「Z」の文字を敵味方識別のため描いていた。

 それにしてもほんとにこの方向なのか? グーグルマップを必死にのぞくもまわりに目標となる物は森林しかないのである。それに人影が全く見えない。

マインフィールド(地雷原)だ」

 我々のクルマハンドルを握るスラバがつぶやく。そうである。人影が見えないのはロシア軍の仕掛けた地雷だけでなく、再度のロシア軍の侵攻に備え、このあたりにはウクライナ軍も地雷を埋めているのである。

 ちなみに日本も批准したオタワ条約(対人地雷禁止条約)には大型の対戦車地雷は含まれておらず、我が自衛隊も当然大量に保有している。

敵味方双方の大小様々な砲弾が絶えず頭上を飛び交う

 途中スラバがウインドーを開け、森に向かって手を挙げ、挨拶しているように見えた。

 眼をこらすと、森の中に巧妙に隠された戦車の一部が何両も見えた。どれも森林の西側、ロシア国境側と反対側をバラクーダ(迷彩網)や木の枝で覆い、肉眼ではほとんど判別できなかった。 とりあえずクルマは最前線にたどり着いたのか素早く深い森の木々の下や塹壕に潜り込んだ。 小隊は車両から機材を降ろすとこれまた森の中に巧妙に掘られた塹壕の中に運び入れた。

「我々の偉大な友人、ミスターイーロン・マスクに感謝する」

 小隊長ユルゲンの作戦開始宣言なのか、掛け声とともに、アンテナ群や電源類をこれまた巧妙に擬装(カモフラージュ)しながら、展開し、国境と反対側の森の隙間から直ちに数機のドローンを次々発進させていく。

「テイクオフ!」「テイクオフ!」

 コントローラーから流れる英語のアナウンスの直後ドローンは低音の羽音ごとあっという間に上空に消えた。

 あとはひたすら衛星経由でドローンが撮影しているのと同じ画像をデータリンクして解析している指令部と連絡とりながら、モニターに目をこらし索敵(敵の捜索)していく。敵車両や人員または疑わしき目標を発見したら、指令部が戦車、砲兵、歩兵部隊等のうち最適な攻撃方法を選択し、射撃していく。

 ドローン情報小隊はドローンの位置、画像などから、着弾観測、つまり、「もっと左に、ちょい右に、次は100mまっすぐむこうに」などと指示しながら、射撃効果を判定していく。つまり、目標命中、目標無力化などと判定するのである。

 簡単に言えばこうなんだが、当然敵も衛星やドローンを使ってこっちを血まなこになって捜している。敵の妨害電波を察知すると、直ちに森の下の塹壕に身を隠す。その間も敵味方双方の大小様々な砲弾が絶えず頭上を飛び交う。

「ヒュー、ヒュー」という低音の口笛のような砲弾が風を切る音の直後の爆発の衝撃で塹壕の天井から土が崩れ落ちてくる。映画で見たシーンそのままやが、この間が堪らず怖い。1秒でも早く攻撃が終わることを震えながら祈るしかできない。

ここでは殺さなければ殺されるのである

 事実ユルゲン小隊は2度敵ドローンに発見され集中砲火を浴びたことがあるのである。その間もひたすら塹壕の中で直撃弾が落ちないことを神に祈り続けたという。そんな隊員には今日の砲撃はまだまだ遠いらしく、この間を利用しハムの缶詰を開けナイフ切り出し回し食いしては腹ごしらえする余裕ぶりであった。

 作戦は日がとっぷり暮れる時間まで続けられる。撤収も速やかにである。機材をどんどん車両につみ、暗視ゴーグルも着けずに出発していく。この夜も降り注ぐような星空を頼りにどうやって地雷原をかきわけているかも分らず、宿舎にたどりついたとたん、防弾チョッキを脱ぎ捨てた。

 たった8時間最前線にいただけで体力的、精神的にこの消耗である。なんとか小隊全員が無事帰投できたのが何よりである。

 しかしこの日、アダム統合部隊ではロシア軍の砲撃と触雷(地雷)で2名が戦死、4名が負傷した。またユルゲン小隊だけでこの4週間で15機ものドローンを失っている。

 この後また星空の下歩いて指令部に出頭、報告のあと、遅い夕食をとり、再び宿舎に戻った頃には日付が変わり、不肖・宮嶋61歳の誕生日を迎えた。前線宿舎で誕生日を迎えるとは報道写真家冥利に尽きるというもんやが、奇しくも「不肖・宮嶋の上官」を名乗られた橋田信介氏が2004年5月末イラクで反米武装勢力の凶弾に倒れた時の年齢も61歳であった。

 ロシア軍の侵攻が始まって早100日、部隊が発足して4週間、小隊の指示通り目標に命中すると、小隊長のユルゲンはあくまで冷静だったが、陽気なマックスは単純に喜び、はしゃいでいた。その下では敵、侵略者とはいえ、人が死んでいるかもしれんのである。そんな態度を非難する資格は日本人にはあるか? 非難する相手はロシア大統領のほうであろう。ここでは殺さなければ殺されるのである。日本のメディアの間ではまかり通っている愛だの平和だの話し合いなどきれいごとはここでも国際社会でももはや誰も耳を貸さない。理性なんぞ一発の砲弾が簡単に吹き飛ばしてくれる。

 それでも願う。これが最後の戦場であってほしい。いまはつくづく思う、不肖・宮嶋のためにも人類にとっても。

(宮嶋 茂樹/Webオリジナル(特集班))

銃の手入れも兵の重要な仕事である。いざという時、撃てなければ、自分や仲間が殺されるのである 撮影・宮嶋茂樹