北朝鮮の国営メディアは、金正恩総書記が、自宅に備置していた医薬品を新型コロナウイルス感染者や黄海南道(ファンヘナムド)で発生している急性腸内性伝染病の患者のもとに送ったと、美談として大きく宣伝している。

現地からの報告では、西洋医学の医薬品ではなく、漢方薬が届いたとのことだ。漢方薬は、北朝鮮政府推奨のコロナ治療薬で、朝鮮労働党機関紙・労働新聞は先月14日、コロナ治療法の紹介する記事で、敗毒散、安宮牛黄丸、牛黄清心丸が症状の軽い患者に効果的だとしている。

ところが、現場では非常に不評だ。咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

政府は、咸興(ハムン)市内の薬局に対して、敗毒散、安宮牛黄丸、牛黄清心丸などの漢方薬を供給するように指示を下した。4日から、市内の薬局を通じて、入院患者や隔離患者に漢方薬の供給を始め、「薬まで無料でくれる国はわが国(北朝鮮)しかない」「党は住民の健康のために気をもんでいる、なんと素晴らしい国だろうか」などと言った宣伝を行った。

だが、実際に受け取った人からは、非常に評判が悪い。

「一度に2〜3袋を飲んだが、全く熱が下がらず、咳や痰も止まらない。これは本当に薬なのか。単なる麦芽の粉ではないか」

患者からそんなクレームを受けた医師は「基礎疾患があったり、体力が弱ければ、薬があまり効かない」「解熱剤だが、人によって合う合わないがある」などと釈明した。

そんな悪評が届いたのだろう。咸鏡南道非常防疫指揮部は、漢方薬には全く効果がなく、これでは意味がないとして、これ以上の供給を中止させた。もちろん、最高指導者の権威を傷つけないよう、細心の注意を払いながらだ。この動きが体制批判と受け止められれば、文字通り「血の雨」が降りかねない。

ちなみに敗毒散、安宮牛黄丸、牛黄清心丸にはいずれも解熱、消炎の効果があるとされているが、誰にでも効果があるものではなく、漢方医の診察を受けて、薬が合うかどうかを見極めなければならない。

それ以前に、北朝鮮の国内産の漢方薬は、質が低くて効果がないとの話もあり、ニセ薬も多く流通していると言われている。

コロナ対策も自力更生にこだわろうとするお上のやり方に、咸興市民からはこんな不満が聞かれるという。

「最大非常防疫体制とか言って伝染病を遮断するために苦労するよりは、国境の封鎖を解いて密輸でもして中国から薬を取り寄せた方がマシだ」

金正恩氏が李雪主とともに家庭に備蓄してあった医薬品をコロナ対策の現場に送った(2022年6月16日付朝鮮中央通信)