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 タコは、無脊椎動物であるにもかかわらず、極めて複雑な脳と認知能力を持つ生物として知られているが、その理由の一部がわかったかもしれない。

 タコの脳には、人間の脳にある動く遺伝子「トランスポゾン」が存在することがわかったという。人間とタコの脳には共通の遺伝子があったのだ。

 『BMC Biology』(2022年5月18日付)に掲載された研究では、タコの神経・認知機能の複雑さは、人間との分子的な類似に由来するらしいことを明らかにしている。

【画像】 動く遺伝子「トランソポゾン」とは?

 人間のゲノムの45%は、「動く遺伝子」や「転移因子」とも呼ばれる「トランスポゾン」で占められている。

 その名の通り、コピー&ペーストでゲノム上のある場所からある場所へと移動することができる特殊な遺伝子だ。

 大抵の場合、遺伝子が転移してもはっきりそれとわかるような影響はなく、それによって移動能力も失われてしまう。また転移先で何世代もかけて突然変異を重ね、活動をやめてしまうものもある。あるいは無傷のまま残るが、細胞の防衛機能によって活動しないものもある。

 こうした遺伝子の断片や壊れたコピーは活動しないかもしれないが、進化の視点で見てみれば、それでも素材として役に立つことがある。

 トランスポゾンのうち、もっとも影響があるものは、「長鎖散在反復配列」(英語の頭文字をとって”LINE"という)と呼ばれるものだ。

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 ヒトゲノムには100ほど存在し、現在でも何か機能を果たしている可能性がある。これまでLINEの活動は過去の名残でしかないと考えられてきた。

 ところが近年では、脳内ではその活動がこまかく調整されていることが明らかになっている。そのため、LINEは学習や記憶といった認知機能に関連していると考えられるようになってきた。特に活発なLINEは、学習や記憶を司る「海馬」にあるのだ。

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タコの脳にも認知機能と関連するトランスポゾンがある

 じつはタコのゲノムにもこうした動く遺伝子「トランスポゾン」がたくさんある(ただし、ほとんどは活動していない)。

 今回の国際的な研究グループは、まだコピー&ペースト機能が残っているトランスポゾンに着目し、タコ脳の認知機能の中枢にもLINEがあることを発見した。

 研究グループのレモ・サングス氏(SISSA)は、タコ2種の脳で活発なLINEが発見されたのは、「こうした遺伝子の機能がコピー&ペーストだけではないという仮説を裏付ける」ために重要である説明する。

 ジョバンナ・ポンテ氏(アントン・ドールン動物学研究所)は、「顕微鏡で、垂直葉のLINEが活動している強いサインを見つけた時、文字通り椅子から飛び上がった」と語る。垂直葉は、タコの学習・認知機能の中枢で、人間の海馬のような働きをしているところだ。

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photo by iStock

人間とタコの脳の類似は、驚くべき収斂進化

 遠く離れた種であっても、同じ問題を解決するために同じ機能を進化させることがある。これを「収斂進化しゅうれんしんか)」というが、認知機能の中枢でLINEが活発であるという人間とタコの類似もまた、その格好の例であるとのこと。

 グラツィアーノ・フィオリート氏(アントン・ドールン動物学研究所)は、「タコの脳の機能はさまざまな点で哺乳類と似ている」と話す。脳内のLINEは、知能の進化を解明するうえで興味深い研究対象なのだそうだ。

References:Octopus brain and human brain share the same 'jumping genes' / written by hiroching / edited by / parumo

 
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タコの賢さの理由の一部が解明。人間の脳と同じ「動く遺伝子」をもっていた