半導体不足が世界的に起きている。

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 チップ不足は様々な企業に影響をもたらしている。PC、モバイル機器、ゲーム機自動車ネットワーク機器、産業用機械などのメーカーは、製品の需要が急増する中、自社製品に使用する十分な数のチップを購入するために奔走している。

 半導体は産業のコメであるといわれるように、あらゆる産業において、半導体は欠かせない部品になっている。

 半導体が不足することで、半導体を使うメーカーはもちろん、あらゆる産業が間接的な影響を受けている。

 しかし今、半導体は戦略物資になった。

 すなわち、民生用から軍事用まで広く使われる半導体は、米国と中国の技術覇権争いの中で、その安定調達が経済安全保障にも直結する「戦略物資」となったのである。

 経済安保の観点から、半導体の製造基盤を自国・地域に囲い込む国際競争が熾烈さを増している。

「死活的に重要な戦略基盤技術だ。まさに、半導体を制するものが世界を制するといっても、決して過言ではない」

 自民党有志の半導体戦略推進議員連盟は2021年6月3日菅義偉首相(当時)に手渡した決議文で、このように述べ、異次元の支援による半導体の国内製造基盤の強化を求めた。

 また、経済産業省2021年6月4日半導体の開発や生産体制の強化に向けた新戦略をまとめた。

 国際的な存在感が低下した半導体産業の再興に「国家事業」として本腰を入れるとしている。

 各国・地域が強力な政策支援を通じて半導体産業の競争力底上げに動く中、日本の出遅れ感は否めず、政官民の本気度が問われている。

 今回の経産省の戦略では、「国内の半導体製造基盤の確保・強化に向けて、先端半導体を国内で開発・製造できるよう、海外の先端ファウンドリーの誘致を通じた日本企業との共同開発・生産や、半導体の供給力を高めるための我が国半導体工場の刷新などについて、他国に匹敵する大胆な支援措置をおこなう」とする方針を明記した。

 そして、2022年6月24日に、台湾積体電路製造(TSMC)が茨城県つくば市に完成した「TSMCジャパン3DIC研究開発センター」の開所式が行われた。

 およそ370億円の事業費のうち、半分に相当するおよそ190億円は日本政府が支援する。また、TSMCが、国内初となる工場を熊本県に建設する。

 既に今年4月に着工しており、2024年12月の生産開始が見込まれている。総投資額86億ドル(約1.1兆円)のうち、政府が最大4760億円の補助金を支給する。

 さて、本稿は、なぜ世界的な半導体不足が起きたのか、なぜ台湾の半導体企業、とりわけTSMCは強いのか、なぜ、かつて世界を席巻した日の丸半導体メーカーは凋落したのかなどの筆者の興味を取りまとめたものである。

 以下、初めに世界的な半導体不足の原因について述べ、次に台湾にみる半導体産業の動向ついて述べ、次にTSMCの強みについて述べ、最後に日本の半導体産業が凋落した主要因についてのべる。

1.世界的な半導体不足の原因

 本項では、なぜ世界的な半導体不足がおきたのか、いつ解消するのかについて述べる。

(1)主な原因

コロナでPC向け需要が増大

 新型コロナウイルスの感染拡大でテレワークの普及や巣ごもり需要が急拡大し、PCや家電用の半導体の需要が増大した。

 また、企業でもDX(Digital Transformation)化を推進するなど、半導体不足に拍車をかけた。

②米国の対中制裁強化により台湾や韓国の半導体の生産ラインが逼迫

 対中制裁により世界の半導体サプライチェーンから中国の大手ファウンドリーである中芯国際集成電路製造(SMIC)が事実上シャットアウトされた。

 主要先進国の企業は米国の対中制裁違反を恐れ台湾や韓国のファウンドリーに委託を増やした結果、台湾や韓国の生産ラインが逼迫した。

自動車向け需要の急増

 コロナ禍自動車産業が停滞した際、半導体メーカーがほかの電子製品に生産能力を振り向けた。

 ところが、新型コロナウイルスの影響から脱した自動車業界からの需要が急増したため、供給が間に合わずトヨタ自動車などの生産ラインの停止を引き起こした。

④大寒波と火災

 半導体の不足のなか,次のような天災などによって不足に拍車をかけた。

 2021年2月、テキサス州の大寒波による停電などによって独・インフィニオン・テクノロジーズ(Infineon)、オランダ(蘭)NXPセミコンダクターズや韓国サムスン電子の操業が不能になった。

 2021年3月、ルネサスエレクトロニクスの茨城県ひたちなか市の那珂工場で火災が発生し,操業不能になった。

(2)半導体不足はいつ解消される

 世界的な半導体不足は、半導体製造の複雑さや、自動車設計に必要なチップの高度化などの要因により、短期的には解消されないであろう。

 半導体の生産リードタイムは、すでに製造ラインに組み込まれている製品でも4か月を超えることがある。

 既存の工場であっても、製品を別の製造拠点に移して生産能力を高めると、通常はさらに6か月を要する。

 また、製造元を変更する場合(ファウンドリーの変更など)、新しい製造元の製造プロセスに合わせてチップの設計を変更する必要があるため、通常はさらに1年以上かかる。

 さらに、半導体にはメーカー固有の知的財産が含まれている場合があり、その変更やライセンスが必要になることもある。

 加えて、自動車業界では、短期的には半導体の生産能力が需要に追いつかないと考えられている。

 これは主に、先進運転支援システムや自律走行などの新技術を動かすために必要な半導体に数量と高度化が継続的に増加するためである。

 2021年5月11日にガートナージャパンが発表した予測によれば、2022年第2四半期に解消する見込みとなっている。

 しかし、世界的な半導体の需要増、コロナ禍による生産への影響を考えると、2022年以降も断続的に半導体不足が続く可能性が十分にある。

2.台湾にみる半導体産業の動向

 本項は、日本経済新聞社編集ビジネス報道ユニット担当部長山田周平氏『台湾にみる半導体産業の最新動向と日本』交流(2022.3 No.972)を参考にしている。

 台湾当局は1970年代後半から、半導体産業の育成を本格化した。

 いくつもの公的プロジェクトを始動させ、1987年設立の台湾積体電路製造(TSMC)など世界的な競争力を持つ企業群を生み出した。

 地理的には、台湾北西部の新竹地区に半導体などハイテク産業が集積する「サイエンスパーク」が整備された。

 新竹には清華大学、交通大学など理工系の名門大学があり、共同の研究開発や技術者の採用が進めやすいためである。

 TSMCなど「サイエンスパーク」の入居企業は低率の法人税や保税制度など優遇措置も生かし、台湾独自の半導体サプライチェーン(供給網)を築き上げた。

 のちに「台湾のシリコンバレー」と呼ばれるようになった新竹の成功モデルは現在、台中や台南でも「サイエンスパーク」として再現されている。

 次に、台湾メーカーが現在、世界の半導体業界のなかでどんな位置を占めているのかについて述べる。

 世界の半導体業界を20世紀末まで牛耳ってきた日本・米国・欧州企業は基本的に、「企画・提案」「回路設計」「前工程(ウエハーに電子回路を形成)」「後工程(ウエハーから半導体を切り分ける)」「販売・物流」のサプライチェーン全体を1社で完結させる総合メーカーの業態をとってきた。

 この秩序を破壊したのが、TSMCの創業者である張忠謀(モリスチャン)前董事長(会長)である。

 中国・寧波生まれの張氏は米国に移住し、米テキサス・インスツルメンツ(TI)で上級副社長まで務めた半導体経営のプロである。

 台湾当局に請われてTSMCの経営を指揮するに当たり、張氏は 「ファウンドリー」と呼ぶ新たなビジネスモデルを掲げた。

 ファウンドリーとは、自社は半導体チップの回路設計やチップの販売・物流を行わず、「前工程」に特化した事業形態を指す。

 顧客企業が設計した半導体回路を巨大なクリーンルーム内で素材のシリコンウエハー上に焼き付け、その後チップに切り分けて封止・検査する「後工程」に送る役割を担う。

 台湾でも当初は、ファウンドリーは他社ブランド半導体チップの単なる下請け生産とみられ、 事業性への疑念が根強かった。

 しかし、実際にはウエハー上に微細回路を形成する技術は難易度が高く、製造装置やクリーンルームに巨額の設備投資が必要なため盤石な財務体質が求められる。

 現在では、半導体サプライチェーンで最も付加価値が高い工程であることが共通認識となっている。

 TSMCは米シリコンバレーで当時台頭してき た「ファブレス」と呼ばれる半導体会社を主な顧客層に定めた。

 ファブレスとは自社工場を持たず、 特徴のある半導体チップの開発に特化した業態を指す。

 21世紀に入り、半導体の用途や加工技術が一段と複雑になると、得意分野を絞り込んだ「ファブレスファウンドリー」連合が総合メーカーよりも競争力で上回る傾向が強まった。

 半導体の販売シェアを国・地域や業態別に分析すると、水平分業体制における台湾の半導体産業の特徴が浮かび上がる。

 米調査会社ICインサイツの調査(図1を参照されたい)によると、半導体メーカーの本社所在地別のシェア2020年現在)では米国が 55%と圧倒的な首位に立つ。

 韓国が22%で続き、 台湾は3位ながら7%と大きく離されている。

 TSMCなど台湾メーカー存在感からすると 7%はかなり低い印象だが、販売シェアを「総合メーカー」と「ファブレス」の業態に分けて整理すると実像が見えてくる。

 双方でシェアが5割を超える米国を別格とすると、半導体を手がける国・地域は総合メーカー比率が突出して高い韓国・日本・ 欧州と、反対にファブレス比率が高い台湾・中国の2種類に大別できる。

 一方で、台湾のファブレス比率が高いのは、スマートフォンの頭脳に当たる半導体を手がける聯発科技(メディアテック)がファブレスの世界首位を競う規模まで成長しているためである。

 メディアテックは 1997年TSMCと競合する台湾ファウンドリー大手、聯華電子(UMC)から独立して発足した。

 現在はTSMCにもチップ製造を委託し、2021年12月期は売上高が4934億台湾ドル(約2兆400億円)と前期に比べ53.2%も増えた。

 TSMCを中核としたファウンドリーの充実ぶりが、半導体サプライチェーンの上流に当たるファブレスの成長を支えている構図である。

 台湾勢では、ファウンドリーの下流に当たる「後工程」でも日月光投資控股(ASE)が世界シェア首位を競っている。

 台湾には有力な総合半導体メーカーは存在しないものの、「オール台湾」でみればかなり有力な半導体サプライチェーンが整っていることが分かる。

3.台湾積体電路製造(TSMC)の強み

 本項は、識学総研の『TSMCは台湾の半導体の会社!設備投資額は1兆円!熊本工場を建設する理由や強みを解説』(2022/05/19)を参考にしている。

 世界的な半導体不足に陥っているなか、TSMCは、世界各国から工場建設を打診されている。

 2020年5月にはドナルド・トランプ政権時代に米国からの誘致を受けて、アリゾナ州に5ナノメートル(1メートルの10億分の1)プロセスの工場建設が決まった。

 また、台湾のワイズニュース2022年6月8日付)によると、イタリアドイツでの工場建設も検討されているようである。

 そして、日本には2021年10月、熊本に月産4.5万枚の28~22ナノメートルプロセスの工場の建設が決定した。

 このために日本政府では総投資額およそ86億ドル(約1.1兆円)のうち、政府が最大4760億円の補助金を支給する。

 経済産業省は今年6月17日TSMCと、ソニーグループデンソーも出資するTSMC子会社JASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)(熊本市)の両社が申請していた計画を同日付で認可した。

 新工場は2022年4月に着工しており、2024年12月の出荷開始を目指している。

 10~20ナノメートル台の半導体を月に5万5000枚生産する計画である(筆者注:当初の計画より半導体の精度も量も増えている)。

 さて、次にTSMCがなぜ世界最大手の半導体受託生産会社(ファウンドリー)になれたのか、その理由について見ていく。

 TSMCとは「Taiwan Semiconductor Manufacturing Company」の頭文字をとった社名である。台湾名は「台湾積体電路製造」である。

 台湾で創業され、世界の半導体受託生産の半分以上を占める「バケモノ」のような企業である(図2を参照されたい)。
          

 時価総額はおよそ63兆円で世界で9番目に価値ある企業となっており、半導体を手掛けるインテルサムスン電子よりも上に位置している。

 日本企業のなかで時価総額トップトヨタ自動車がおよそ23兆円であるため、トヨタの2倍以上の時価総額である。

 2021年8月にTSMCは製品の値上げをすると、世界中にその影響が及ぶほどの存在感となった。

 なぜなら、最先端技術を用いた半導体の製造技術と供給力をもつTSMCは、半導体の価格決定力があるからである。

 さて、TSMCの強みには、「世界最高水準の技術力」「世界とつながるネットワーク」「40%もの営業利益率を誇る収益性の高いビジネスモデル」の3つがある。

 次にそれぞれの強みについて述べる。

①世界最高水準の技術力

 ファウンドリーのTSMCは、NVIDIAAMD、クアルコムといった世界のトップクラスのファブレス企業の製造を請け負い続けてきたことで、世界最高水準の製造技術の蓄積に成功した。

 これにより、高度な技術を要する半導体が必要なメーカーは、TSMCに頼らざるを得なくなった。

 実際、現時点で線幅5ナノメートル半導体の量産を可能にしているのは、世界でもTSMCだけであり、最先端のハイテクデバイスを製造するにはTSMCの協力が欠かせない。

 ここで、半導体回路の微細加工技術について簡単に述べる。

 回路は一般に、線幅が細ければ細いほどチップが小さくなり、消費電力は少なくなる。

 端末のサイズや電池容量に制約があるスマホに欠かせない性能なので、特に5G対応の新型スマホの頭脳には量産ベースの最先端である線幅5ナノメートル半導体が搭載されている。

 線幅5ナノメートルの量産では現在、TSMCが最も先行し、サムスンがやや遅れて追っている(図3を参照されたい)。

 3位以下のファウンドリーは生産能力、回路技術の両面から、量産のめどが立っていない。

 つまり、TSMCからチップを調達できないスマホメーカーは事実上、競争からの脱落を余儀なくされる。ファーウェイも同様である。ファーウェイの件は後述する。

②世界とつながるネットワーク

 もう一つのTSMCの強みは、世界中の半導体企業とつながるネットワークである。

 TSMC半導体の製造を委託する会社は世界でおよそ500社に上り、TSMCはこれらの会社からの依頼を受けながら、世界の需要を把握できる。

 TSMCは市場で調査などをせずとも、工場にいながら市場の流れを分析できるポジションにいる。このポジション自体がTSMCの大きな強みとなっている。

③40%もの営業利益率を誇る収益性の高いビジネスモデル

 TSMCが発表した2021年7~9月期の決算では、売上高は前年同期と比較して16%増のおよそ4000億台湾ドル、営業利益は14%増えておよそ1700億台湾ドルとなる。第3四半期の売上高営業利益率は41.24%となっている。

 この秘密は、やはり上記で述べたような高水準な技術にあると考えられる。

 TSMCの主力顧客は、アップルをはじめとするクアルコムやNVIDIAなどの米国のファブレスメーカーである。

 さらにTSMCは最先端の技術開発だけをするのではなく、品質や出荷量においても安定しているため、どのメーカーも「TSMCなら対応してくれる」という信頼感が生まれ、TSMCに注文が殺到しているのである。

 これにより、TSMCの価格決定力は毎年強くなっている。

 話は変わって、次にTSMCが米中ハイテク戦争の勝敗のカギを握っている状況について簡単に述べる。

 米国政府は2018年春に米中ハイテク摩擦が始まって以降、中国通信機器大手の華為技術ファーウェイ)を安全保障上の脅威として目の敵にしてきた。

 段階的に制裁をかけ、2020年5月15日には、米商務省の産業安全保障局(BIS :Bureau of Industry and Security)は対ファーウェイへの輸出規制措置を強化するため米国輸出管理規則(EAR)を改正すると発表した。

 米社製の製造装置やソフトウエアを少しでも使って生産した半導体ファーウェイに売ることを禁じるまで強化した。

 当時の米国のファーウェイに対する制裁の詳細は、拙稿『米国のファーウェイ潰しは日本のチャンス半導体規制の歴史と背景、今後の展開を詳解する』(2020.7.15、https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/61288)を参照されたい。

 当時のTSMCにとって、ファーウェイは売上高の十数%を占める大口顧客だった。

 この制裁強化は TSMCにハイテク摩擦で米国を選ぶのか、40%もの営業利益率を誇る収益性の高い中国を選ぶのか「踏み絵」を迫る格好だった。

 TSMCは、米国を選んだ。

 中国は2000年頃から半導体産業の振興を本格化し、同じ中華圏である台湾の成功モデルを持ち込んだ。

 ファーウェイも自社工場は持たず、スマホなどに載る高性能半導体は全額出資のファブレス子会社、海思半導体(ハイシリコン)に開発させる体制をとった。

 海思半導体(ハイシリコン)は半導体チップの製造について、ファウンドリーに委託しなければならない。

 中国には政府が全面支援する中芯国際集成電路製造(SMIC)というファウンドリーが存在するが、現時点では会社の規模は TSMC の10分の1程度にとどまる。

 会社全体の生産能力をフル回転しても、世界有数の通信機器メーカーであるファーウェイ半導体需要には応え切れない。

 そこで、ファーウェイは米国の技術を使わない自社の半導体工場を上海に建設するとみられていた。

 ところが、2022年4月26日、本社を置く広東省深圳市でアナリスト向けの年次イベントで基調講演を行った輪番董事長(交代制の会長職)の胡厚崑氏は、この問題に関するアナリストの質問に対し、「半導体業界の分業体制を信じており、自社の半導体工場を建設する計画はない」と明言した(出典:財新 Biz&Tech2022年5月18日)。

 ところで、ファーウェイの現状であるが、TSMCから5ナノの半導体供給が受けられず高級機種の開発に大きな制約を受けることになり、5G対応のスマートホン生産を断念し、4G対応のスマートホンを生産している。

 その結果、かつて中国のスマホの高級機種市場は、iPhoneに加え、サムソンファーウェイの3ブランドで構成されていたが、現在はサムソンファーウェイは市場から退出し、残ったのはiPhoneだけになった。

4.日本の半導体産業が凋落した主要因

 本項は、経済産業省の「半導体戦略(概略)」(2021年6月)を参考にしている。

 日本の半導体産業は、1988年に世界の売上高のシェア50.3%を占めていたが、それ以降、徐々にその地位を低下し、2019年には世界の売上高のシェア10.0%となった。

 将来的に日本のシェアはほぼ0%になるという予測もある(図4を参照されたい)。
         

日本の半導体産業凋落の主要因

 なぜ、日本の半導体産業は凋落したのか。その主要因としては次の7つのことが考えられる。①から⑤は上記経産省の資料によるが、⑥と⑦は筆者の意見である。

①日米貿易摩擦によるメモリー敗戦

 1980年代、世界を席巻した日の丸半導体メーカーは、日米半導体協定による貿易規制が強まる中で衰退した。

 その後、1990年代半導体の中心が、メモリーDRAM)から、ロジック(CPU)へと変わる潮流をとらえられなかった。

②設計と製造の水平分離の失敗

 1990年代後半以降、ロジックの設計・製造が垂直統合型から、ファブレス企業/ファウンダリー企業の水平分離型の新潮流へと移行したが、日の丸半導体メーカーは電機・情報通信機器の親会社が競争力を失う中で、半導体製造部門の分離・統合が難航した。

デジタル産業化の遅れ

 21世紀に入り、PC、インターネットスマホデータセンタの普及など、世界的にデジタル市場が進展する中で、国内のデジタル投資が遅れ、半導体の顧客となる国内デジタル市場が低迷する中、必要な半導体の国内設計体制を整えられず、先端半導体は海外からの輸入に依存するようになった。

日の丸自前主義の陥穽

 1990年代後半以降、多額の研究開発・技術開発予算を投じてきたものの、日の丸自前主義に陥り、供給側(設計・製造・装置・素材)の担い手はもとより、需要側(デジタル産業)も含め世界とつながるオープンイノベーションのエコシステム(自社以外の組織や機関などとの連携)や国際アライアンスを築けなかった。

⑤国内企業の投資縮小と韓台中の国家的企業育成

 バブル経済崩壊後の平成の長期不況により将来に向けた思い切った投資ができず、国内企業のビジネスが縮小した。

 一方で、韓国・台湾・中国は、研究開発のみならず、大規模な補助金・減税などで長期にわたって国内企業の設備投資を支援して育成してきた。

⑥過剰品質へのこだわり

 マーケットが通信機器と大型コンピューターからパソコンに変わり、必要とされたのは品質より安さだった。

 パソコンは数年もてばよかった。よく言われるが、「技術・品質へのこだわり」という日本企業の根深い病がある。

 当時、富士通半導体の断面は神様が切ったようにきれいだったが、韓国メーカー製はガタガタだったが、でも動く。何より安かった。

半導体を知らない本社主導の弊害

 上図の1992年の売上ランキングに登場するNECや東芝、日立、富士通などは総合電機メーカーで、半導体は企業の1部門でしかなかった。

 投資などを決めるのは本社で、半導体のマーケットを分かっている人間はいなかった。

 欧米では1990年代半導体事業が総合電機メーカーからスピンアウトした。日本でそれが起こったのは2000年になってからである。

 そうしてできたのがエルピーダメモリ(設立1999年)とルネサスエレクトロニクス(設立2010年)の2社だが、意思決定が10年以上遅かった。

おわりに

 台湾の半導体産業が成功したのは、政府の政策(サンエンスパーク構想)があったことと優秀な経営者(ファウンドリーと呼ぶ事業形態を編み出しモリスチャン氏)がいたからである。

 一方、日本の半導体が凋落したのは、政府に政策がなく、経営者にも先見性のある経営者がいなかったからであろう。

 筆者は、なぜ日本にはシリコンバレーが生まれなかったのかと不思議に思っている。

 日本の追い付き型経済成長が終わりに近づき、イノベーションの重要性が認識され始めた1980年代以来、シリコンバレーは繰り返し話題に上り、日本版シリコンバレーの開発といったことも論じられたが、シリコンバレーのようなイノベーション型の経済システムが日本に定着することはなかった。

 同様なことは首都機能移転にも言える。

 首都機能移転は、東京一極集中が問題になった1970年代から議論されるようになり、1992年には移転先候補地の選定体制などについて定めた「国会等の移転に関する法律」が制定された。

 近年は、首都直下型地震のリスクから、首都機能移転の緊急性が高まっている。にもかかわらず、首都機能移転は近年すっかり停滞してしまった。

 これらの原因は、日本には真にリーダーシップのある政治家がいないからだと筆者は思う。

 正しいことをやり抜く道徳的勇気のない政治家は、反対勢力から独裁者と呼ばれることを恐れ、政策を断行できない。

 筆者は国のリーダーは少々独裁者であってもよいと思う。ただし「独裁者の善政」を行うことが前提である。

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