映画『トップガン』の劇中において、F-14「トムキャット」の敵役として登場したMiG-28戦闘機。ただ、同機はミグの名を名乗っているものの、旧ソ連で生まれた飛行機ではありませんでした。いったいどんな機体なのでしょうか?

「世界で最もメジャーなミグ」の詳細

MiG(ミグ)といえば旧ソ連(現ロシア)を代表する航空機設計局の名門です。アメリカとソ連が敵対関係にあった冷戦時代、いくつもの著名な戦闘機を生み出しており、たとえばMiG-25は1976(昭和51)年に函館空港へ強行着陸して、日本でも話題になりました。

ゆえに、1986(昭和61)年に公開されたトム・クルーズ主演の傑作スカイ・アクション映画『トップガン』においても、F-14「トムキャット」の敵役として「ミグ一族」のMiG-28が登場しています。

このMiG-28、おそらく「世界で最も有名なミグ戦闘機」と言っても過言ではない機体ですが、当のMiG設計局は一切関与していません。それはどういうことなのか、ひも解いてみましょう。

映画『トップガン』によれば、そもそもMiG-281980年代中頃に旧ソ連の同盟国にも供給されていた当時最新鋭のMiG戦闘機で、少なくとも単座型と複座型の2モデルがあったようです。ただ同機は、燃料供給系の不具合でマイナスG機動ができないため背面飛行や背面旋回が無理という点や、旧ソ連製の戦闘機ながら、フランス製の空対艦ミサイル「エグゾセ」の運用能力をなぜか備える戦闘機でした。

ところがF-14「トムキャット」との敵対的示威飛行の結果、マイナスG機動ができないという情報は間違っているということが、西側でMiG-28との最初の空中での接触者となった同機のパイロット「マーヴェリック」らによって確認されます。

ハリウッド生まれのMiG戦闘機

ただ、旧ソ連MiG設計局は、そもそも戦闘機には奇数番号を付けるのが伝統的な決まりでした。対してMiG-28は明らかに偶数。実はこのMiG-28、なんとアメリカ・ハリウッド生まれの「ミグ戦闘機」に与えられた型式だったからです。

旧ソ連の設計局名なのにアメリカ製とはどういうことかというと、なんのことはない、このMiG-28なる戦闘機、映画『トップガン』のために考えられた架空機だったから。そのため、前出の性能説明も映画のために作られた「なんちゃって設定」でした。

MiG-28のベースに用いられたのは、アメリカ製のF-5E/F「タイガーII」戦闘機です。単座型がF-5E、複座型がF-5F、どちらも海軍第13混成飛行中隊(VFC-13)の所属機で、「かたき役」を演じるためにオリジナル塗装が施されています。

しかし、F-5E/F「タイガーII」は空母では運用できない戦闘機のため、本来ならアメリカ海軍で使用されることはありません。なぜ海軍の飛行中隊がそのような戦闘機を運用していたのかといえば、それは旧ソ連製のMiG-21MiG-23といった戦闘機と、性能や機動性が似ていたからです。VFC-13はアドヴァーザリー・スコードロン、つまり訓練時に仮想敵国の戦術や機動をシミュレートして「敵機役」を演じるエリート部隊であり、その役割に「タイガーII」はうってつけだったのです。

MiG-28のベース機の出自

F-5E/F「タイガーII」の原型F-5A/B「フリーダムファイター」は、そもそもアメリカが同盟国へ供与することを目的に開発した機体で、その改良発展型が「タイガーII」になります。そのため、F-5シリーズはF-4「ファントムII」やF-16「ファイティング・ファルコン」のように、アメリカ空・海軍に大量配備されることはありませんでした。

しかし、超音速飛行が可能で堅牢、かつ操縦が容易なだけでなく、メンテナンスも楽で運用コストも安い戦闘機でした。また、F-5A/B「フリーダムファイター」の原型となったT-38「タロン」練習機は、アメリカ空軍で大量に使用されていたことから、空軍や海軍が「フリーダムファイター」と「タイガーII」を運用するのに大きな障害はないというメリットを有しており、結果、どちらも補助的任務で用いるのには最適だったのです。

このような理由から、敵機をシミュレートするVFC-13所属のF-5E/F「タイガーII」が、MiG-28として『トップガン』にも「出演」することになったのです。

架空のソ連機という位置付けでしたが、『トップガン』という作品の主旨を考えれば、まさにぴったりの配役であり、結果としてF-5E/F「タイガーII」は「世界一有名なミグ戦闘機」となることができたのでした。

MiG-28役を務めたアメリカ海軍のF-5(同型機)。劇中のMiG-28は黒の機体色で、黄色い円の枠線のなかに赤星という架空の国籍マークが描かれた(画像:アメリカ海軍)。