アメリカ大統領専用機、通称「エアフォースワン」のデザインが元に戻るかもしれません。新モデルはトランプ前大統領時代に調達が決まり、大胆な塗装が施される予定でしたが取り止めに。その理由を見てみます。

再び覆ったVC-25Bのカラーリング

次期「エアフォースワン」として採用が決まっているVC-25Bの塗装が、現行のVC-25Aと同じ水色と白を基調としたデザインになるかもしれません。複数のアメリカメディアは2022年6月、トランプ前大統領が提案していたエアフォースワンのデザイン案をバイデン大統領が破棄したことを報じました。

アメリカ空軍は、コールサイン「エアフォースワン」で知られる大統領専用機を、ボーイング747-200Bをベースにした現行型「VC-25A」から、ボーイング747-8をベースにした新型「VC-25B」へ置き換えるべく、2018年にボーイングと39億ドル(約5300億円)で契約を結びました。

なお、これは新造ではなく、元々はトランスアエロ航空向けに製造した機体とのこと。同社の破綻に伴って引き渡されずに保管されていた2機の747-8を改修する、いわば中古機流用の形を採っています。

この契約の際、当時のトランプ大統領は塗色を変更するとしていました。

現在の「エアフォースワン」の塗装は、ケネディ大統領の任期中にデビューしたVC-137C(ベース機はボーイング707)で初めて採用されたもので、工業デザイナーとして知られるレイモンド・ローウィがデザインを手掛けたそう。その後、約60年にわたって使用され続けた伝統あるカラーリングは、アメリカ大統領専用機「エアフォースワン」のイメージを決定づけたといえるでしょう。

そのようななかで、トランプ前大統領は新型の「エアフォースワン」について伝統カラーを変更し、アメリカ国旗と同じ白、赤、青で彩られたデザインにすることを明言していました。

ほかの要人輸送機とのデザイン統一性も

バイデン大統領がトランプ氏の案を破棄した理由としては、これまでと全く違う塗装の導入によるコスト上昇などが挙げられています。機体下部を全て濃い青色で塗るトランプ氏の塗装案は、機体の過熱問題や納入時期のさらなる遅延を招くことが指摘されました。

前出の報道が事実であれば、VC-25Bのデビューが予定されている2026年以降も、私たちがよく知るエアフォースワンの塗装を見ることができそうです。

また、随行機として使われている要人輸送機C-32Aは、エアフォースワンとセットで運航されることも多いため、VC-25Bが現行のデザインのままとなった場合、塗装の統一性を維持できるでしょう。

VC-25Bのベースとなる747-8は、ボーイングを代表するロングセラー機747シリーズの最新モデルとして開発されたものです。VC-25Bの全長は76.2mと、現行のエアフォースワンとして活躍しているVC-25Aに比べて全長が5.6mほど長くなっており、機内容積が大幅に広がっています。このため、大統領専用機として求められている通信設備や機体のセキュリティ機能を余裕をもって機内各所に配置することができます。

エンジンは747-8用に最適化されたゼネラル・エレクトリック製の最新ターボファン・エンジン「GEnx-2B」を4基搭載。主翼を新たに設計したことでフライ・バイ・ワイヤの採用が可能にしました。コックピットは多機能ディスプレイや電子フライトバッグ(EFB)、飛行管理コンピューター(FMC)、電子チェックリストなどの新機能が組み込まれています。

飛行性能が向上したことで、巡航速度はVC-25Aのマッハ0.84からVC-25Bではマッハ0.86にアップしたほか、航続距離も同じく約1万2550kmから約1万4300kmに伸びています。

近い将来、超音速エアフォースワンも登場?

旅客型の747-8は政府要人を輸送する特別機として、韓国、ブルネイカタールトルコなどで使用されています。しかし受注そのものは振るわず、導入した航空会社はルフトハンザ、大韓航空、中国国際航空の3社に限られました。

さらに新型コロナ感染拡大の影響による航空需要の縮小と747シリーズの退役が加速したことで、ボーイングは2022年に747-8の生産を終了することを決定。半世紀にわたるジャンボジェット製造は幕を閉じることになりました。

なぜ、ベストセラーのボーイング747シリーズの最新型なのに旅客型は広まらなかったのか、その理由は長距離国際線の主力が大型の4発機より、運用に柔軟性を持たせることができる経済的な機体が求められるようになったというのが挙げられます。

より経済的で柔軟に運用できる機体として、2発エンジン機であるボーイング777や同787、エアバスA330、同A350などの性能が向上し、サイズや席数、航続距離などのバリエーションが増えていたことなどが影響を与えたからだといえるでしょう。実際、747-400を使用していた日本やインドは、777-300ERの運航に切り替えています。

ちなみにアメリカ空軍はVC-25Bに続く大統領専用機として、マッハ1.8で飛行する超音速機の開発をExosonic社と提携して進めています。同機は2030年代に導入される予定で、Exosonicは静粛性と高速性を兼ね備えた機体として、従来の半分の時間で世界のどこへでも大統領を運ぶことができるとしています。

従来のVC-25Aと同じデザイン、カラーリングをまとったVC-25B「エアフォースワン」のイメージCG(画像:ボーイング)。