今後の鉄道貨物のあり方について、国土交通省の主催で検討会が行われています。そこでは各種業界からの「不満」も。どんな問題が生まれているのでしょうか。

馴染みの企業からも不満が百出

経営不振のJR貨物を何とかしようと、国交省が音頭を取る「今後の鉄道貨物物流のあり方に関する検討会」が2022年3月24日にスタート、本腰を入れて需要アップを考え国の支援策の道筋を立てるのがねらいで、7回ほど会合が持たれるようです。

その配布資料の中身が“官製会合”としては珍しく、かなりスパイスの効いた内容だったことから、関係者の間でちょっとした話題となっています。

その中身とは、JR貨物に馴染みのある省庁・企業に意見を求めた結果、歯に衣着せない意見・批判が多数寄せられ、「だからJR貨物のサービスはダメなんだ」と言わんばかりの、かなり辛口の味付けとなっているのです。

意見に応じたのは、防衛省やJR旅客3社(東日本・東海・西日本)、日本通運、ヤマト運輸、日本オイルターミナル、日本石油輸送、ホクレン北海道に拠点を置くJA系組織)、三菱商事、F-LINE(味の素やハウス食品、カゴメなどによる合弁食品物流企業)といった面々で、まずは各社とも異口同音に、「多頻度化する自然災害への脆弱性」や「復旧の長期化」「振替輸送体制の貧弱さ」を批判している点が象徴的です。

各社の個別意見の中で特に興味深いものをピックアップすると、まず宅配便大手のヤマト運輸は「(貨物列車の)ダイヤとニーズのアンマッチ」を挙げています。同社は東京~札幌など拠点間の長距離輸送に鉄道貨物を利用しており、宅配便の性質上日中に集めた荷物は21時ごろから一斉に発送されるのですが、ライバル各社の宅配荷物も同時刻にJR貨物のターミナルに集中します。しかしこれに対しジャスト・イン・タイムのコンテナ列車便が足りないようで、さらなる増発を求めています。これなどはまさに「増収機会の損失」と言えるでしょう。

F-LINEは鉄道貨物に持つ印象として、単刀直入に「どこに依頼するのか分かりにくい」「料金体系が分かりにくい」「貨物列車ダイヤが分かりにくい」「鉄道輸送の仕組みが分かりにくい」と“不満タラタラ”のようです。

本領発揮は"本当の緊急事態"に

またホクレンは現在、北海道の農畜産物の道外出荷では重量ベースで約3割をJR貨物に頼っていますが、「3割しか利用していない」理由として「輸送ロット(単位)の不一致」だと結論付けています。JR貨物では旧国鉄時代から続く、いわゆる「ゴトコン」(5tコンテナ)が主軸で、これはこれで農家から支持されているものの、一方でトラック輸送ではいわゆる「20tロット」(大型トレーラー)の規格がメジャーで、これに応じたサービスも充実すべきと訴えます。

このように叩かれ続けているイメージの強い鉄道貨物ですが、実はこう言えるのは、「代替の輸送手段が動いている」平時だからであって、まさにどうにもならないような緊急事態、つまり「有事」の際は、むしろ「鉄路」は強靭さが俄然発揮されます。

これを如実に見せつけたのが2011(平成23)年3月の東日本大震災における石油の大量輸送です。当時東北地方太平洋側は大被害を受け、特に交通インフラの損害は酷く、首都圏と東北をつなぐ道路や鉄道は全て不通で、港湾も大津波で破壊された状態でした。3月の東北地方はまだまだ厳寒というなか、この地方の石油需要の大半を担っていた仙台の製油所も被災して操業中止に。こうなると復興支援に必要な重機やトラックの燃料不足以前に、住民が暖を取るためのストーブの灯油が底をつきかねず、生命の危険に直結する状態でした。

そこで白羽の矢が立ったのがJR貨物による鉄道輸送で、横浜港の製油所から武蔵野線高崎線上越線羽越本線奥羽本線→青森→東北本線→盛岡という“日本海周りルート”を数日で調整し、わずか1週間後の3月18日に1番列車が走りだしました。同様に新潟から磐越西線福島県会津地方に入り郡山を結ぶルートも3月25日に開設。磐越西線は当時、その10年ほど前に貨物輸送が終了していたため、同線で貨物列車を運転したことのある機関士を、JRグループが一丸となって全国からかき集めたとのことです。

閣僚にJR貨物の存在が知られていない?

この東日本大震災における“裏ワザ”輸送は東北本線が復旧した同年4月下旬まで続き、この間に輸送した石油類はタンクローリー換算で合計3000台近くに達したといいますから、その輸送力には驚きです。

余談ですが、JR貨物の首脳は「対策本部に詰めた総理を始め主要閣僚は誰一人、大量輸送が可能な鉄道貨物の存在を知らず、ある官僚からそれを知った時、一斉に『おお!』という声が上がるとともに、大臣の1人が『まだ“JR東日本”は貨物列車を走らせているのか』と驚いたそうだ」と、苦笑いしながら小生(深川孝行)に語ってくれたことがあります。

このように自然災害などで交通インフラが全滅、「ゲームオーバー」状態にならないように多重化や余裕を持たせることを、業界用語で「リダンダンシー」(冗長性)と言います。

また、各種輸送手段の中でもCO2排出量が極めて少なく、また少子高齢化によるトラック・ドライバー不足の代替策として、さらには物流業界の「2024年問題」(ドライバーの長時間労働防止と罰則適用)への対応など、JR貨物とっての「追い風」は吹いているのですが……。

同検討会は今年7月に中間報告を発表予定。その中身に、業界内外の注目が集まっています。

コンテナ貨車をけん引するJR貨物のEF200形電気機関車(画像:photolibrary)。