もくじ
ー スポーツカーとは、何だろうか?
ー 自信を抱いてコーナーに進入する
ー オーバーステアという「選択肢」
ー 「スポーツカー」もう1つの定義
スポーツカーとは、何だろうか?
早いものでポルシェ カイエンがデビューして20年の歳月が過ぎた。
ポルシェが「スポーツカー」と標榜する歴代カイエンは、SUVスタイルのボディを与えられていながら、並みいるスポーツカーさえ凌駕するパフォーマンスを発揮。
最新のポルシェ カイエン E-ハイブリッド クーペもまた、最高出力340 psのV型6気筒3.0 Lターボエンジンに136 psの電気モーターと17.9 kWhのリチウムイオンバッテリーを組み合わせたプラグインハイブリッドタイプのスポーツカーとの位置づけで、そのシステム出力/トルクは462 ps/700 Nmにも達する。
そう聞いて「SUVのカイエンがスポーツカー?」と訝しがる読者もいるはず。
しかし、ポルシェ自身がカイエンをスポーツカーと主張する理由が私には理解できる。
なぜなら、カイエンはスポーツカーに求められる要件を立派に満たしているからだ。
これについて説明する前に、「スポーツカーとはなにか?」という定義を明確にする必要があるだろう。
スポーツカーとは、ドライバーが思いどおりに操れるクルマのことだと私は考える。
そのためには、クルマを機敏に加速させるための適切な動力性能が必要なほか、ドライバーの操作に的確に応えるシャシー性能が求められる。
しかし、これだけではスポーツカーとは呼べない。なぜなら、クルマを思いどおり操るのに必要なインフォメーションがドライバーに与えられなければいけないからだ。
木更津市に建つポルシェ・エクスペリエンスセンター東京にカイエン E-ハイブリッド クーペで向かっているとき、私は、舗装の状態やタイヤが路面を捉えている様子を、ステアリングを通じて克明に感じ取っていた。
なぜなら、カイエンはポルシェの他のモデルと同じように、ステアリングインフォメーションが実に豊潤で、表現力が豊かだからだ。
この感触を味わっているだけで、「ああ、私はいまポルシェを操っているのだ」と実感できる。
その意味でカイエンは紛れもなくポルシェファミリーの一員であり、スポーツカーに求められる重要な要件のひとつを満たしていると確信できたのである。
では、カイエンの動力性能とシャシー性能はスポーツカーに求められる基準に達しているのだろうか?
▶ ポルシェ・カイエン全モデル 公式サイトをみる自信を抱いてコーナーに進入する
カイエンの動力性能とシャシー性能はスポーツカーに求められる基準に達しているのだろうか?
この日、ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京を目指していた理由は、まさにこの点にあった。
スポーツドライビングの醍醐味とポルシェというブランドを体験する場として、昨年10月にオープンしたこの施設は、東京ドーム約9個分という広大な敷地に2.1 kmのハンドリングトラック、ローフリクションサークル、ローフリクションハンドリングトラック、ダイナミックエリア、そしてキックプレートなどを備えており、ポルシェの優れた動力性能やシャシー性能を確認するのにうってつけの場所。
カイエン E-ハイブリッド クーペのステアリングを握りながら、私がいかに心躍るような気分を味わっていたか、ポルシェ好きの皆さんであればきっとご理解いただけることだろう。
目的地に到着した私は、ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京が所有するカイエン GTSに乗り換えると、まずはハンドリングトラックを走り始めた。
ステアリングから伝わるインフォメーションの豊富さはカイエン E-ハイブリッド クーペと基本的に同じだが、微妙なニュアンスまで伝えるという意味では、GTSのほうが一枚上手かもしれない。
おかげで、ニュルブルクリンクのカルーセル・ヘアピンやラグナセカのコークスクリューなどを模したチャレンジングなコースレイアウトにも関わらず、私は1周目から明確な自信を抱いてコーナーに進入することができたのである。
しかし、私が本当の意味でカイエン GTSの実力に打ちのめされたのは、ローフリクションハンドリングトラックに足を踏み入れてからのことだった。
▶ ポルシェ・カイエン全モデル 公式サイトをみるオーバーステアという「選択肢」
ローフリクションハンドリングトラック。その名のとおり路面の摩擦係数が低いこのコースでは、極限状況におけるハンドリングの特性を浮かび上がらせることができるが、ここでカイエン GTSは優れたグリップ力によりバツグンのスタビリティを発揮したうえで、最終的にはフロントよりもリアが流れ始めるオーバーステアの傾向を示したのである。
もっとも、これはもともと摩擦係数の低い路面で、故意にテールを滑らせるドライビングをした結果だが、最終的にオーバーステアに持ち込めるSUVが世の中にどれだけあるかといえば、ほとんど皆無としかいいようがない。
しかも、ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京の腕利きインストラクターの手にかかると、それこそすべてのコーナーでカイエン GTSはオーバーステアを示したのである。
いや、私は単純にオーバーステアを引き出せたからカイエンは素晴らしいと言っているのではない。限界に到達するまでは徹底的に安定した姿勢を示しながら、最後の最後でドライバーにオーバーステアという選択肢を与えているそのハンドリング特性を賞賛しているのである。
また、全力加速に続いてフルブレーキングを試せるダイナミックエリアでは、0-100 km/h加速4.5秒(スポーツクロノパッケージ装着車)という圧倒的なダッシュ力を堪能するいっぽうで、フルブレーキング時にはABSがタイヤをロックさせるかどうかの状態を保つ絶妙のコントロール性を体験できた。
これはタイヤの能力を最大限に引き出す制御であるとともに、最後の最後までドライバーにコントロールの余地を残しているという意味で、理想的なブレーキといえる。
カイエン GTSのスタビリティの高さは、新設となったキックプレートでも体験できた。
▶ ポルシェ・カイエン全モデル 公式サイトをみる「スポーツカー」もう1つの定義
キックプレートは、コースの入り口に路面が瞬時にして左右に動く仕掛けを備えたコースで、後輪がこの仕掛けに乗った瞬間に路面を左右にスライドさせることにより、リアグリップが強制的に失われた状態をシミュレーションするもの。
クルマのスタビリティが低ければ、当然のようにここでスピンモードに陥ることになる。
しかし、カイエン GTSは何度試してもキックプレートでスピンすることはなかった。
しかも、このときはスタビリティ・コントロールをオフにしていたのである。この安定性の高さは驚嘆すべきものといっていいだろう。
こうして、私はカイエンが伝えてくれるインフォメーションの豊富さ、刺激的な動力性能、コントロール性と安定性を兼ね備えたシャシー性能などを再確認したのだが、最後に付け加えておきたいのが、その環境性能の高さである。
たとえば、この日、試乗したカイエン E-ハイブリッド クーペであればCO2排出量は70 g/km台に過ぎない(ヨーロッパ発表値)。内燃機関の場合、エミッションの多寡と効率の良否はほぼ1対1の関係にある。
つまり、CO2排出量が低く抑えられているのは、なによりもカイエンのエネルギー効率が高いことの証明といえるわけだ。
ちなみに、都内から木更津までを往復したこの日、カイエン E-ハイブリッド クーペは約11 km/Lという好燃費を記録した。
そしてこの効率の高さも、ポルシェの伝統にほかならない。
なにしろ、自動車メーカーとしてのポルシェが最初に送り出した356は、排気量が1.1 L前後であるにもかかわらず、1951年のルマン24時間では平均速度140 km/hでレースを走りきり、初出場にしてクラス優勝を成し遂げたのである。
つまり、効率の点でも優れているスポーツカーこそが、ポルシェの伝統的価値といって差し支えないのである。
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