ユニークな医学的知識やライフハック系のツイートが話題を呼び、SNS総フォロワー約10万人を誇る整形外科医のおるとさん(@Ortho_FL)。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定スポーツ医、リウマチ医、運動器リハビリテーション医の資格を持つフリーランス医師だ。

【画像】人はクロロホルムで簡単に昏睡するのか?

Twitterやブログ「フリドク」のほか、音声プラットフォームのVoicyで「整形外科医おるとのコミカル医療ラジオ」の配信を2021年11月からスタート。特に、医師の立場から、アニメやドラマのさまざまなシーンの妥当性を検討する「医学的アニメ考察!」が注目されている。

■「クロロホルムを嗅ぐとすぐ気を失う」は本当にできるのか

「医学的アニメ考察!」は、おるとさんのさまざまなコンテンツの中でも高評価を得ている配信が多い。「もともとアニメや漫画が好きなんですが、読んでいるうちに違和感を覚えることが多く『同様に疑問に感じている人も少なくないのでは?』と考えた」のがきっかけだという。

特に反響が大きかったのが「推理系全般『クロロホルムで昏睡』」。これはミステリーのテッパンともいえる「背後から近づき、クロロホルムを染み込ませたハンカチで口を覆うと、相手が気を失う」というシーンを考察するものだ。

実際に可能なのか、というと「無理、絶対無理」とのこと。

「成人の呼吸量や肺活量から計算すると、ハンカチに染み込ませた程度のクロロホルムを吸い込んでも、その血中濃度は一瞬で麻酔効果が得られるほどには達しません。また、麻酔で昏睡すると呼吸抑制がかかるため挿管して酸素を送らないと危険。眠らせただけのつもりなのに別な事件が起きてしまいます」

おるとさん自身が学生時代の生化学実験で吸った時は「甘いような匂いがします。そして全然寝ない!気を失わない!もし効果が出る(気を失う)まで吸ったとしたら、最初は咳や吐き気、頭痛が出たりすると思われます。もっと吸うと腎臓に影響が出るかも。肌に触れるとただれることもありますが、ドラマで(吸った人の)口の周りがボロボロになっているのは見たことないですよね」

このネタは反響が大きく、「ドラマを見る目が変わる」「同じくテッパンの、首の後ろをトン→みぞおちを殴る、はどうなのかな」などのコメントが寄せられた。「日常的な疑問に専門的な目線から回答するような、知的好奇心をくすぐる内容だったので、評判が良かったんだと思います」

名探偵コナン「キック力増強シューズ」の正しい姿は…

おるとさん会心の作というのが、「名探偵コナン『キック力増強シューズ』」。履くとキック力が劇的に強くなり、ボールを蹴って犯人を倒すおなじみのアイテムだが、これも医学的には問題がある。「蹴るためにはさまざまな筋肉を使いますが、最も影響力があるのは股関節、膝関節、体幹などの筋肉です。それらの筋肉がない足先に付けても、ほとんど効果はありません。何で足先なのか?疑問が残ります」

おるとさんは、「股関節や体幹にパワーを与えるとすれば、“キック力増強ブリーフ”なら納得できます」と指摘する。

「筋肉に電気で刺激を与えているようですが、普通そういう場合は該当する筋肉に直接針などを刺したりします。足首から股関節に、というふうに離れた箇所から電気を流すのは”通電”です」。通電した場合筋肉は収縮するため、キック力増強どころではないという。

さらに、当てたボールで人が倒せるほどの勢いで蹴った場合、コナンの足首も極めて深刻なダメージを受ける点や、パワーを増強するなら空手最強の毛利蘭に蹴らせた方が効果的と考察。コナンがアイテムを生かし切れていない、と残念がる。

ジョジョの奇妙な冒険」からは “ズームパンチ”を医学的に検討している。これは、キャラクターのジョナサンが腕の関節を外すことで、リーチを10センチほど伸ばすという特殊なパンチのこと。だが、「そもそも気軽に関節が外れすぎ。ジョナサンは反復性の肩脱臼なのでは」「関節を外したところで、パンチの威力は弱くなる」と分析。それ以前に「いきなり腕が10センチ伸びたら、皮膚が裂けます」。おるとさんは、パンチの威力は二の次で、殴ることで敵に波紋(能力の一種)を送って倒すのが本来の目的なのだろうと結論付ける。

こんな感じで、おるとさんならではの考察は興味深く、かつ楽しく聞けるものばかり。「メジャーなアニメから順に、医学的に解説できそうなものを選んで考察しています」というから、これからの配信にも期待したい。

■“肩こり”という言葉を言い出したのは夏目漱石!?

ほかにも、疾患解説・医療雑学についてユニークな発信をしている。フォロワーには特に腰痛、肩こりの痛みについて悩む人が多いようで、Voicyでは「腰痛にマッサージは効果あるのか?」「あなたの腰痛、実はストレスからかも?」「肩こりはいつだれが最初に言い出したのか」など、興味深いテーマで配信をしている。ちなみに、肩こりという表現を最初に使ったのは夏目漱石だとか。

さらに、「3秒あればできる湿布・絆創膏が剥がれにくくなるひと工夫」「冷湿布と温湿布は自分の好みで選んで構わない」ことなど、身近なライフハックはためになることばかりだ。

■違和感を感じた段階でどんどん受診しよう!遠慮は不要

医療という一般の人には難しい分野を、優しくかみ砕いて発信しているおるとさん。「Twitterでも医療やライフハックネタが定期的にバズっていますね。新型コロナを契機にして、『医療的に正しいものは何か?』ということを気にされるSNSユーザーが増えてきたように感じます」

そんな中、SNSで患者さんやフォロワーからの反響を見聞きする中で、これはよくないと感じている傾向があるという。「体の不調が起きた時に、症状をネットで検索して自分で判断してしまうことです」。つまり、気になることがあったら、まず医者に診察してもらえということだ。

症状が出ていない状態での受診を遠慮する人はかなり多いという。「家族が大したことじゃないからと言ったとか、受診しても『こんな程度の違和感ですみません』とか。まったく問題ありません。受診したときに失うものは時間とお金くらい。“違和感“の段階でもっと気軽に受診してください。『違和感だけで受診してはならない』という風潮を消し去りたいですね」

うまく症状を伝えられないからと受診を躊躇する人には、おるとさんのVoicy配信「外来受診で上手に効率よく自分の症状を伝えるコツ」が参考になる。医者が何を知りたいのか、どんなふうに伝えたらよいのか、用意したらよいものなどがわかり、診察に行くハードルが低くなるはずだ。

さらに医療への関心を広めたいとおるとさんは考えている。「積極的に医療情報を手に入れたいという層だけではなく、普段医療に関心がない層に対してアプローチし、興味を持てるような内容の発信をしていきたいと思います。最終的には若い世代のヘルスリテラシーの向上を目指しています」。今後も興味深いコンテンツをどんどん配信してくれそうだ。

取材・文=澤田佳代

キック力増強シューズは「直接犯人を蹴ったほうが早い」との話もあるが…(写真はイメージ)