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 ワインの原料となるブドウの品質は、気候などの栽培条件によって大きく左右される。地球温暖化はその土地ならではのワインの味を台無しにしてしまう可能性があると、生産者たちは懸念している。

 ただ味が変わるだけではない。2020年カリフォルニア州で起きた大規模な山火事では、ナパのワインに灰皿のようなニオイが付着し、生産者たちをパニックに陥らせた。

 今ワイン生産者たちは、温暖化が進む中で、これまで通りの高品質かつ個性豊かなワイン作りを続ける方法を模索しているという。

【画像】 ワインの味を科学的に変えてしまう気候変動

 異常気象は丈夫なブドウの木すら枯らしてしまうが、見えない変化をももたらす。それはブドウの実の化学的な変化だ。

 ワインの味わいは、ブドウに含まれる「糖」「酸」「第二化合物」のバランスによって生み出される。糖は光合成によって蓄積され、ブドウが熟れることで酸が分解される。

 第二化合物ブドウの代謝に必要な化学物質以外のもので、例えばブドウに赤みを与え、紫外線から守る「アントシアニン」や、ワインに苦味や渋みを与える「タンニン」(ブドウが虫や動物から身を守るためのもの)がある。

 これら3つの成分は、土壌や降水量など、いくつもの環境要因によって左右されるが、中でも最大の影響を与えるのが気温である。

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糖が蓄積され甘く干しブドウのような味わいに

 気温が大きく変化すると、3つのバランスが崩れることになる。例えば、暑くなるとブドウの熟成がうながされる。すると酸が分解され、糖が蓄積されるので、甘く干しブドウのような味わいになる。

 糖は、酵母によって発酵され、アルコールに変わる。だから甘いブドウからはアルコール度数が高いワインができる。

 実際、南仏のような温暖な地域のワインアルコール度数が高い。しかし、これは酸味によるフルーティな味わいを損なうので、好ましいことではない。

 またアルコール度数が高まることで、味が辛くなったり、香りが隠されてしまうこともある。

 これが糖と酸だけの問題なら、それほど大した問題ではない。ブドウを早めに収穫すればいいだけの話だからだ。

 だが、それではブドウに第二化合物が溜まらないことになる。これはワインに幾重もの香りをもたらす大切な成分だ。

 結果として、暑くなるとワインの味わいは、より熟したブドウのそれ(干しブドウのように加工された果物)に近くなる。干しブドウはどれも同じような味なので、ワインから産地ならではの個性が消えてしまう。

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温暖化による山火事がワインに煙のニオイが付着させる

 だがこうした味の変化は、温暖化がもたらす別の味の変化に比べれば、些細なものだ。それはワインに染みついた灰皿のような煙のニオイである。

 ワインで有名なカリフォルニア州ナパでは、温暖化の影響で収穫の時期になると山火事が頻発しており、これがワイン生産者を悩ませている。

 木が燃えると発生する揮発性フェノールは、ブドウに染み込み皮にたまる。フェノールは糖と結合して無臭のグリコシドになるが、その一部はタルや口の中で分離して、焼けた木のような独特の強い香りを放つのだ。

 これは「あと香」や「口中香」と呼ばれるタイプの香りで、ワインを口に含んだとき鼻の中に上がってくる。

 熟成されたタルから移るスモーキーさはお酒の味を引き立てることもあるが、赤ワインは皮を一緒に発酵させて作るため、この煙のニオイが大問題になる。

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温暖化に強いブドウの品種を選出、フランス政府が認可

 煙の味は素人にもわかるほど強烈だ。だが、生産者の多くは、温暖化ワインから地域ならでは個性を奪ってしまうことをより懸念し、これにうまく適応できるような方法を模索している。

 例えばフランスボルドーの赤ワインと言えば、強いフルーティな香りと、”鉛筆の芯”のような香りが楽しめるフルボディだ。

 春の到来が早まるということは、ブドウの熟成が秋ではなく、夏の盛りにズレてしまうということだ。これでは糖が増え、酸は減るため、好ましくない。

 そこでフランス国立農業・食料・環境研究所のアグネス・デストラック・アーヴィン(Agnes Destrac-Irvine)氏は、10年にわたる研究の末、温かい気候でもボルドーの味わいを生み出すブドウの候補として、52品種を選び出した。

 同氏はさらにワイン生産者の協力を得て、赤ワイン用に4種、白ワイン用に2種のブドウを選定した。

 驚いたことに、これまでわずか14種のブドウ(赤ワイン用6種、白ワイン用8種)しか認めてこなかったフランス当局が、2021年にこれら6種の栽培を正式に許可したのである(ただし10%未満の使用に限られる)。

 アーヴィンによれば、新しいブドウは、ボルドーのワイン生産者にとって温暖化の影響のバランスをとるツールになるだろうという。

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異なる品種の台木を使う方法も模索

 だがフランス当局が許可したのは、あくまで試験的な使用に限ってのみだ。ボルドーのワイン生産は2000年前から続いてきた伝統だ。

 それゆえに、新たなブドウ品種を加えることに反対する人もいる。

 ボルドー農業科学のグレゴリー・ガンベッタ(Gregory Gambetta)氏は、ワイン作りは歴史や文化と密接に結びついているので、他の方法で温暖化に適応する方法を考案するべきだと述べる。

 そのためにガンベッタ氏が研究しているのが、異なる品種の台木(根になる部分。ここに実がなる部分を接木する)を使う方法だ。

 台木は植物の成長と水の消費をコントロールできる。だから暑さに強いブドウの木を台木にすれば、温暖化が進んだ世界でも、ワインの味わいを決めるブドウがなる部分をそのまま成長させることができる。

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様々な方法で温暖化に対応しようとするワイン生産者

 世界のワイン生産者は、他にもさまざまな方法で温暖化に対応しようとしている。収穫の時期を早めて熟れ過ぎを防いだり、山火事が起こりやすい時期を避けたりすることもある。

 またボルドーの生産者は、酸が一番多くなる早朝にブドウを収穫したり、糖の生産を抑えるために藪を刈ったりしている。

 日光をコントロールする方法もある。近赤外線は木と実を熱してダメにしてしまう。そこで日傘のようなもので、日差しをカットするのだ。こうすると熱に弱いアントシアニンが蓄積され、まろやかな味になる。

 こうしたサンシェードを使う栽培法は、かつてはオーストラリア、南米、イスラエルスペインといったワインの産地に限られてきたが、今ではブルゴーニュ、ボジョレー、ドイツ、ナパ、ソノマなどでも有効になっている。

 ハイテクを利用して温暖化と戦うワイン関係者もいる。

 モンペリエ大学の微生物学者ファビエンヌ・ルミーズ(Fabienne Remize)氏らは、糖度の高いブドウに対応するため、発酵してもあまりアルコールが作られない酵母を研究している。

 また電気透析でイオンを取り除き、ワインの酸度を上げる方法も開発されている。

 面白いことに、干しブドウのようなワインが増えたのは、温暖化だけが原因ではないとする研究もある。

 それによると、味が濃く甘いワインを好む消費者もおり、そうした需要の増加もまた背景にあると考えられるのだそうだ。

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ワインの未来

 温暖化に直面するワイン生産者が抱える最大の疑問は、今後も人々はワインを求めるだろうか? ということだ。

 これについて、消費者調査から意外な事実が明らかになっている。

 味が強く、雑味の多いワインを人々が受け入れており、温暖化にも関わらず、ナパやボルドーといった地域では過去60年の間にワインの品質への評価が高まっているのだ。

 これはブドウの成長シーズンの気温が17.3度を超えるとワインの質は落ちるだろうという以前の予測をくつがえすものだ。

 一方で、気温の上昇に生産者の適応が追いつかず、ワインの豊かな風味には欠かせない第二化合物は減るだろうとの予測もある。

 だが、専門家ですら本当のところはわかっていない。「率直に言うと、何が最適なのかわからない」と、ガンベッタ氏は語っている。

References:Climate change is altering the chemistry of wine | Ars Technica / written by hiroching / edited by / parumo

 
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地球温暖化でワインの味が化学的に変わりつつある