旅客機の操縦に、季節の差はどのような影響をおよぼすのでしょうか。パイロットによると、外の気温は実運航にさまざまな影響を及ぼすそうです。どのような違いがあるのでしょうか。

各所の性能に影響を及ぼす「気温の高さ」

旅客機の操縦に、季節の差はどのような影響をおよぼすのでしょうか。ANA(全日空)のとあるパイロットによると、操縦の方法や感覚それ自体に大きな変化はないものの、外気温は運航にさまざまな影響を及ぼすそうです。

たとえば、滑走路の長さや状態、風速や気圧などの条件によって離着陸が可能な機体重量が何ポンドまでかを示す「離陸性能・着陸性能」という指標がありますが、高い気温はこれを低下させるといいます。加えて空気が薄くなることから、エンジンの性能も低温時に比べて低下、上昇性能も影響をうけ、上昇率も変わってくるとのこと。そのため、パイロットはフライトのたびに入念な性能計算を行うなどして安全性を確保するほか、ベルトサインを点灯するタイミングや長さなども工夫するそうです。

また特に夏の日中は市街地上空で上昇気流が強く、市街地に近い空港では着陸前のアップダウンが冬よりも大きくなるそうで、着陸のパス(降下角度)キープと速度コントロールに気を払うといいます。

着陸後に機体を減速させることも、気温による影響を受けます。同氏によると、近年は燃料節減のために、必要滑走路長に余裕があり天候も良い場合は、着陸後の減速時に、逆噴射装置(エンジンの噴射方向を変えることで速度を落とす装置)の使用をアイドリングに留める「リバース・アイドル(Reverse Idle)」という手段を用いるそうですが、この使い方も気温の影響を受けるといいます。

高い気温で「リバース・アイドル」の使い方、なぜ変わる?

「リバース・アイドル」で減速する場合は、有効な減速手段のひとつである「逆噴射」を平時より使用を控えるぶん、タイヤのブレーキへかかる負担が増えます。先出のパイロットによると、とくに高温の状況下の場合は、ブレーキ装置の温度が非常に高くなってしまうことも。この温度が下がるにはある程度の時間が必要で、気温が高い日は、当該機が次の便として出発するまでの時間にブレーキが十分に冷えきらないケースがあるといいます。この状態では、次便の離陸時にトラブルでブレーキをかけなければならない場合などに、影響を及ぼす可能性が考えられるそうです。

そのため、気温が高い日の着陸時は、次便までの時間や機体重量(ブレーキにかかる負荷に関係する)、滑走路から誘導路までの距離を踏まえた自動ブレーキセッティング(強いブレーキほど温度が上がる)などを総合的に考慮して、「リバース・アイドル」の実施を判断しているといいます。

このほか、日本~北米線といった長距離国際線の飛行ルートも季節で変わります。夏場は冬よりもジェット気流が弱まるほか、積乱雲が高い高度まで発達することもあり、揺れを避けるために回避が必要になる場合も。一方で冬は、降雪時特有のオペレーションや、飛行時の雪雲と雷の対応などもあるそうで、パイロットは四季それぞれの状況に対応しながら、安全運航を続けているようです。

ANAの旅客機(乗りものニュース編集部撮影)。