
「おいおいおい」
同じ会社に勤める男たちが集まった飲み会で、1人がスマホに映した画像に周囲は色めきだった。
今年3月、神戸市内の居酒屋でのことだ。画面に現れた裸の女性を、のぞき込んだ誰もが知っていた。
それもそのはずだ。女性は彼らが職場を共にする、まだ当時20歳の同僚だった。そして、明らかに盗撮されたものだった。
女友達との小旅行を楽しんでいたはずが…写真が撮影されたのは飲み会から1年前の昨年4月。場所は、金沢だった。加賀百万石の歴史と風情を残す町並みが若い女性たちの「女子旅」に人気の観光地。近代アートを楽しめ、豊かな海と山の幸があり、関西からのアクセスも良い。
Aさん(当時20歳)もまた、気の置けない女友達との小旅行を楽しんでいたはずだった。まさかホテルの脱衣所で、その友人から裸姿を盗撮されているとは夢にも思わなかっただろう。しかも、その写真は盗撮されただけでは済まず、勤務先の男性社員に流出していたのだから。
容疑者の男女は、2人とも某鉄道会社勤務の車掌事件が報じられたのは6月27日、兵庫県警須磨警察署が2人の男女を石川県迷惑防止条例違反(盗撮)などの疑いで逮捕していたと公表したのがきっかけだった。容疑者はB子(21)とC男(21)。2人とも、某鉄道会社の車掌で、同期入社だった。
捜査関係者が背景を説明する。
「2人の逮捕は6月9日で、容疑が金沢での盗撮や。実際にカメラで撮る行為をしたのがB子で、彼女にその依頼をしたのがC男やね。ようは共謀したちゅうこと。Aさんも2人の同僚で、つまり加害者と被害者の全員が同じ会社の社員という関係になる」
何の気兼ねもなく服を脱いだAさんに、こっそりとスマホを向けたAさんを誘って金沢旅行に出かけたB子は昨年4月15日、ホテルにチェックインを済ませて夕食も終えた午後11時前に連れだって浴場へ行った。そして何の気兼ねもなく服を脱いだAさんに、こっそりとスマホを向けた。Aさんは、全く気づかなかった。
だが、冒頭の飲み会で披露された画像はAさんのものだけではない。やはり同僚だったDさん(当時21歳)の写真もあったという。B子による盗撮は、金沢の1度で済まなかった。
Dさんが隠し撮りされたのは、大分の名湯・湯布院だ。金沢旅行から半年後の昨年10月、B子はDさんを誘って湯布院に行き、旅館に宿泊する。今度は温泉の脱衣所でDさんの裸を狙ったのだ。
「B子とAさん、Dさんは仲良し3人組だったようです。その2人が別々に被害に遭ったわけですが、友達と思っていた相手に盗撮されて彼女たちは二重の衝撃を受けたでしょう。心中は察するに余りあります」(地元社会部記者)
なぜ、B子は心を通わせたはずの同僚2人の裸を隠し撮りしたのか。逮捕後、彼女はこう供述した。
「C男のことが好きだった。彼に『AとDの裸が見たいから、一緒に旅行に行って撮ってきて』と言われ、断れなかった。盗撮した画像はすぐに彼に送った」
「ダメ元で頼んだら、まさかと思ったが実際に撮ってくれた」これを聞いた前出の捜査関係者は絶句する。
「自分以外の女性の裸を見たがる男を好きであり続けるいうのも何とも言えんが、その要求に応じて2度も盗撮を繰り返してしまうのはほんまに理解に苦しむ。恋は盲目と言うが、どういうことなんやろな……」
C男も警察の調べに対して自分が依頼したことを認め、こう話している。
「同僚の裸が見たいと言ってダメ元で(B子に)頼んだら、まさかと思ったが実際に撮ってくれた。盗撮相手は誰でも良かったわけでなく、AとDについては自分が指名した。その2人を旅行に誘って、そこで撮ってくれと」
十分に浅はかな2人の容疑者だが、ダメ元がうまくいったことで気が大きくなったのか男の方がその後にさらにやってはいけない行為に足を踏み入れる。それが冒頭の飲み会だ。
調子に乗ったC男が同僚たちに画像をシェア「見てみ。こんな画像あんねん」
今年3月13日夜、男性社員同士で飲んでいたC男は、調子に乗って口をすべらしてしまう。
スマホに保存していたAさんとDさんの裸の画像を同僚たちに見せると、「送ったるわ」と言ってLINEのグループにその画像を送信したのだ。そうなると、秘密裏に行われた盗撮は周囲の知るところになり、秘密でなくなる。たちまち画像は拡散され、鉄道会社のほかの社員も目にすることになった。そうして画像の流出から1カ月半ほど経った5月上旬、1人の社員から兵庫県警に情報が寄せられる。
「女性社員の裸の画像を持っている男性社員がいる。どうも盗撮されたものらしい」
警察官から隠し撮りを知らされた被害者の心中は情報提供を受けて捜査を始めたのが、2人の容疑者が所属した部署を管轄する須磨警察署だった。気の毒なAさんとDさんは、警察官から連絡を受けるまで自分たちが隠し撮りされていたことを知らなかったという。
結局2人の容疑者は金沢の事件で逮捕された後、湯布院の事件についても大分県迷惑防止条例違反で送検された。さらにC男は、同僚たちにLINEで画像を送った行為についてリベンジポルノ防止法違反でも立件された。そして事件は公表された。
警察の発表から2日後の6月29日、神戸簡裁はC男に罰金70万円、B子に罰金40万円の略式命令を下し、事件は終結した。だが一度流出し拡散した画像は、たとえ仲間内で共有された限りであっても容易に消えない。被害者たちが負った傷も、数十万円の罰金刑で癒えるものではないだろう。

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