アメリカ軍の代名詞的存在である軍用車両「ハンヴィー」は採用から30年以上が経過し、後継車両「JLTV」の導入が進んでいます。なぜ新型が必要になったのか、その理由と導入の経緯を見てみます。

ベストセラー車「ハンヴィー」の弱点

アメリカ陸軍および同海兵隊は、それまで使用していた汎用的な軍用車両「ハンヴィー」の後継として、新たに「JLTV」と呼ばれる軍用4駆の運用を2018年に開始しました。米軍車両の代名詞存在にもなっていたハンヴィーから、さらにワイルドさが増したJLTVですが、いったいどんな車両なのでしょうか。

そもそもJLTVの前代にあたるハンヴィーは、第2次世界大戦期から使用していたジープ系の軍用4WDに替わる車両として、1985(昭和60)年から配備が始まった車両です。シンプルな車体構造ながら頑丈な造りのハンヴィーは様々な戦場に投入され、多くの派生型も誕生しました。

ただ、ハンヴィーにも多くの弱点がありました。代表的なもののひとつが乗員の保護性能です。ハンヴィーの基本型には装甲板が取り付けられておらず、部隊からの要望によって装甲板を取り付けた車両も誕生しましたが、地雷などから車体下部を守るには車体の基本設計自体を見直す必要があり、乗員の保護性能を向上させるには限界がありました。特に、アフガニスタンイラクでの戦闘時にはハンヴィーの脆弱性が露呈し、多くのアメリカ軍将兵が危険な状態に晒されています。

そこで、アメリカ国防総省は、より高い防御力と生残性を持つ車両の調達に関して2005(平成17)年から検討を開始。翌2006(平成18)年になると、いよいよ本格的なJLTV計画がスタートしたのです。

計画名にもなったJLTVとは「Joint Light Tactical Vehicle」の略です。日本語で「統合軽戦術車両」と表わされるこのプロジェクトに名乗りを上げたのは、ボーイングとテキストロンによる共同提案、ゼネラル・ダイナミクスとAMゼネラルとの共同提案、ロッキード・マーチンとBAEシステムズ・ランド・アンドアーマメンツによる共同提案など、いずれも複数の企業による共同提案でした。

落選から見事復活、本採用へ

その後、各社の試作車はトライアル(選考試験)を受けたものの、プロジェクトの予算が増大し、またスケジュールの遅延を問題視されたことなどから、計画はなかなかうまく進まなかったそうです。

ちなみに、採用に至ったのはオシュコシュ社の案でしたが、同社のプランはこの初期段階の選定で一度却下されています。直接の原因は不明ですが、オシュコシュは共同提案していたノースロップ・グラマンとの提携を解消して、後にJLTVとして採用されるL-ATVを単独で発表。結果的にはこのオシュコシュの試作車が採用されました。

なぜ、いったんは選定初期で落選したオシュコシュのL-ATVが、採用に至ったのでしょうか。

実は、オシュコシュはその前に、JLTV計画とは別に行われていたM-ATV(MRAP All Terrain Vehicle)計画向けの車両を設計・開発していました。この計画で生まれた車両は先んじてアメリカ軍に採用されており、オシュコシュはこのM-ATVをさらに改良することで再度JLTVの審査に手を挙げます。

M-ATVで採用実績を有するオシュコシュ案は、車体性能や入札価格などで他社よりも良い条件を提示したため、2015(平成27)年にオシュコシュのL-ATVがJLTVとして採用されるに至ったのです。

沖縄では意外とポピュラー? 本州で見かけることも

ハンヴィーの後継として誕生したJLTVですが、その車体は全長6.2m、幅2.5m、全高2.6m、車体重量は約6.4tと、ハンヴィーと比べて非常に大きく重いものとなっています。一説によると燃費は極めて悪いと言われることもありますが、イベントで現場の海兵隊員に聞いたところ満タンで約500km走れるそうです。

また、車体後部は仕様によって様々なバリエーションが存在します。オーソドックスなのはハンヴィーの後部のような荷物を積める空間がある通常仕様ですが、この他にも幌を掛けたカーゴタイプなどもあります。

天井部分には機関銃対戦車ミサイルを乗せることも可能で、ハンヴィーと遜色ない程度の使い勝手を確保しているようです。

一時はJLTVの調達中止などという噂も聞こえたことがありましたが、その後、アメリカ軍が実際に導入を取りやめたということはなかったようなので、特段、大きな問題はなかったのでしょう。

JLTVは日本では未だレア装甲車であるものの、沖縄県では比較的よく走っています。また本州でも、神奈川県横浜市から静岡県御殿場市を結ぶ東名高速道路や国道などで、移動中のJLTVを見かけることもあります。

加えて、東富士演習場に隣接して設けられている海兵隊キャンプ富士のイベントなどでは展示されることもあるため、そういった際に見学して、ハンヴィーとは異なる「ゴツさ」に触れてみても良いでしょう。

ハンヴィーの後継として2022年現在、アメリカ軍が導入を進めているオシュコシュ製JLTV装輪装甲車(武若雅哉撮影)。