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 緊急治療室に運ばれる患者の中には、石化したかのように体が固まってしまう人が存在する。言葉も発さず、ただじっとして、部屋の中を見回しているだけだ。

 試しに腕を上げさせてみると、上げたまま。採血するのに注射針を刺しても身じろぎひとつしない。1日や2日、飲まず食わずでいることもある。

 いったい、彼らはどうしてしまったのだろう?厄介な問題は、彼らがなにも話してくれないと、診断の下しようがないということだ。

 これは、「カタトニア症」として知られる珍しい症状で、運動や会話に障害が出る重度の精神疾患だ。緊張病と呼ばれることもある。

 意識は存在し、数時間で治ることもあれば、数週間、数ヶ月、何年も続くこともあり、治っても何度も再発することもある。

【画像】 動くことも話すこともできないが意識はある

 動くことも、話すこともほとんどできないとなると、意識もないと思ってしまいがちだ。だが、最近の研究では、そうではないということが明らかになっている。むしろ、その逆だという。

 カタトニア(緊張症)の人は、強い不安を示したり、感情が高ぶって圧倒されそうな感じがすると表現する。だから、カタトニア患者がなにも考えていないということではなく、むしろ、考えすぎてしまっているのではないかと思われる。

 だが、その思考とはなんなのだろう? どうして、そうした心の状態のせいで、体が固まって動かなくなってしまうのだろうか? 新たな研究では、そこに集中的に光を当てた。

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photo by iStock

なぜ彼らは動けなくなるのか?

 カタトニアを経験した大勢の患者の症例記録を見てみると、症状が緩和された後に何が起こっていたのかを話してくれた患者も数人いた。

 だが、多くの患者は、なにが起こっているのか気づいていないし、覚えてもいなかった。

 ある者は、とてつもない恐怖を感じ、またある者は、長期にわたる硬直状態に苦しんでいたと証言した。いずれにしてもまったく身動きできない状態が共通の症状だ。

 おもしろいのは、この人たちはカタトニアについてきちんと筋の通った説明をしていることだ。ある患者について、医師は次のように書いている。

この患者はひざまずき、床に額をつけていた。彼曰く、自分の命を守るためにこうした姿勢をとっていて、首専門の医師に診察してもらいたいと、繰り返しお願いしているのだという。

自分の頭が首からもげて落ちてしまいそうなのだと、彼は言い続けている

 本当に自分の頭が今にも落ちそうだと信じ込んでいたら、床に額をつけておくというアイデアは悪くないかもしれない。

 声(幻聴)があることをやるようにと指示してくるという患者もいる。また、もし動いたら頭が爆発してしまうと言われた者もいた。

 これは、じっとして動かない症状のかなり切実な理由と言えるだろう。また、飲んだり食べたりしてはいけないと、神に言われたと思っている患者もいた。

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この姿勢のまま動かないカタトニア症の女性 / image credit:Internet Archive Book Images/Wikimedia

死んだふりをする動物と同じ、ある種の防衛本能なのか?

 カタトニアは、一部の動物が見せる"死んだふり"に似ているという説がある。

 体の大きさでも、力でも圧倒的に勝ち目のない捕食者を前にすると、固まったまま動かなくなってしまう動物がいる。確かに捕食者に気がつかれないということもあるかもしれない。一種の防衛反応だ。

 ある患者は、ヘビの姿がはっきり見えて、それが話しかけてきたと話した。ひとつの例からでは、彼女の体が捕食者に対する原始的な防衛反応をとったとは断言できないが、その可能性はある。

 カタトニア症は、神経学と精神医学の中間に位置するいまだ謎の多い疾患だ。患者がどんなことを体験しているのかを理解できれば、元気づけ、共感を示すことができる。

References:Catatonia: the person's body may be frozen, but their minds are not – new study / written by konohazuku / edited by / parumo

追記(2022/07/03)誤字を訂正して再送します。

 
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石化したように体が動かなくなってしまう「カタトニア(緊張病)」とは?