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岸田文雄首相に「黄金の3年間」が訪れようとしている

 日本の運命は参議院選挙で決まる。と認識していない人が多い。政治家ですら認識していない人だらけなのだから、頭が痛い。総理大臣衆議院選挙で勝っているから、総理大臣をやれている。しかし、参議院選挙で勝たねば何もできない。それは平成政治では顕著で、参議院で多数を得ていない総理大臣は退陣に追いやられ続けた。

 日本の総理大臣は、与党である自民党の総裁がやることになっている。いまだに記憶に新しい菅義偉前総理の如く、選挙に勝てない総理大臣は容赦なく引きずり降ろされる。しかし、選挙に勝った総理大臣は自らが辞めると言わない限り、辞めさせる方法はない。安倍晋三元首相がそうだった。では、岸田文雄首相は?

 岸田首相自身も心得ていたようで、総裁選に勝った段階から今回の参議院選挙を意識していた。ここで勝利すれば、次の参議院選挙まで3年間、衆議院も解散しなくていい「黄金の3年間」が訪れると言われている。

◆岸田首相に日本の運命を託して良いのか

 さて、岸田首相に日本の運命を託して良いかどうか、有権者には考えてほしい。

 今回の選挙での争点は、ウクライナ危機による物価高と景気対策。実は一つの問題であり、つながっている。ただし、ガソリンの値段が上がって生活が苦しいので何とかしてほしい、などという単純な話ではない。政治を見る時は、国際政治・国内政局・重要政策の三位一体で捉えねばならない。

 世界中の最大関心事はウクライナ問題だ。最近は米欧でも「ウクライナ疲れ」と言われるようだが、日本の隣国の核保有国が残虐な侵攻(いわゆる侵略戦争)を続けている事実は変わらない。一進一退だ。ウクライナが善戦し、時間を稼いでくれている間が最後の猶予期間だと思った方が良い。

◆「防衛費GDP費2%」を“5年以内”など寝言だ

 国力とは軍事力。軍事力とは防衛予算だ。岸田自民党が「防衛費GDP費2%」を提言したのは良し。ただし「5年以内」などと寝言も付け加えている。本欄でも指摘してきたが、間に合うのか?

 この2%など、合格最低点だ。合格最低点とは、中国ロシア北朝鮮に対し、最低限の主張をできる軍事力を有する、必要条件だ。もちろん、金をつけるだけでなく正しく使って必要十分条件を満たすのだが、必要条件なしに十分条件も何もない

 自民党の提言では必要な軍事力を列挙しているが、それらを全部積み上げたら、軽く2%など超えてしまう。それを合格最高点の如く勘違いさせるから、岸田自民党の議論はおかしいのだ。しかも自民党としての合意すら得られず、「必要なものを積み上げるのが大事であって、総額ありきの議論をすべきではない」など、十分条件で必要条件を否定する議論が飛び出している。中学数学もできないのか?

◆円安上等! さっさとデフレを脱却すればいい

 軍事力をつけるには、経済力。日本は「経済大国」であって、本物の大国ではない。その経済大国が、もはや30年に及ぶ不況に苦しんでいる。何の取り柄もない国になり下がった。ただでさえ軍事力で劣る中国に経済力で追い抜かれ、知力でもかなわない。さっさと景気回復くらい成し遂げねば、離される一方ではないか。

 では、景気回復をさせる方法は何か。今はデフレなのだから、金融緩和を続けるしかない。円安上等! さっさとデフレを脱却すればいい。景気を回復した状態とは、インフレになること。インフレ率2%など最低基準で、アメリカなど10%になりそうだから大変だと大騒ぎだ。まだまだ日本には金融緩和が必要な理屈、算数ができれば理解できよう。さすがに岸田首相も、「悪い円安」「悪いインフレ」などの雑音には耳を貸す気はないらしい。当たり前だ。景気(インフレ率)と支持率は比例する。本当はもっと金融緩和を吹かせていいくらいだが、そこまでは望むべくも無いか。

◆自公連立に健全な批判勢力が見当たらない

 以上、防衛費倍増にしても景気回復にしても、岸田自民党の一般方向には賛成だが、やり方には不満だ。連立与党の公明党などは、防衛費倍増を隙あらば牽制する。こうした自公連立に健全な批判勢力が欲しいところだが、見当たらない。

 野党第一党の立憲民主党は、「防衛費増額などもってのほか」「金融緩和をさっさとやめろ」などと、先祖返りした頓珍漢な批判を繰り返している。共産党と同じだ。だから「立憲共産党」などと、おちょくられるのだ。昨年の衆議院選挙の敗北以来、何の工夫も無く、普通の事を普通にやっていたら、普通に負ける態勢になった。当然だろう。政策はリベラルを通り越してマイノリティー向けに特化しているようだが、ならば野党第一党の地位から去るべきだ。もはや解党するエネルギーすら残っていないとの声も聞くが……。

◆維新が全国比例で立憲民主党を抜けるかどうか

 比較的元気なのが日本維新の会だ。いきなり野党第一党は無理でも、全国比例で立憲民主党を抜くのは現実味がある。選挙区でも公明党に一泡吹かせるようなら期待が持てる。もっと自民党との対決姿勢を鮮明にしてほしいところだが。

 残念なのが、国民民主党だ。政策は抜群に良い。ただ、予算に賛成するなど与党寄りの姿勢を示しながら、求めるトリガー条項の発動(つまりガソリン値下げ)は実現しなかった。「食い逃げ」された格好だ。しかも支持基盤の労組を切り崩された。自民党としたら野党分断に成功した形だ。自公連立にトリガー条項を迫り、賭けに出た格好なのだが、残念ながら敗れた。選挙後には総括が必要だろう。

◆ヌルい自民党vs頓珍漢なリベラル

 第三極と呼ばれる維新国民は金融緩和の継続にも防衛費増額にも賛成だ。今時この二つに反対しているのは立憲共産党くらいだから当然だ。「もっと金融緩和を吹かせ。いっそ財政出動で消費税減税くらいしたらどうだ!」と迫って欲しいが。そして防衛費に関しては、「5年以内で間に合うのか!」「温い!」「そもそも公式の決定になっていないのではないか」と追及してもらいたいものだ。

 さもないと、かつての安倍内閣のような「ヌルい自民党vs.頓珍漢なリベラル」の二択の、悲惨な言論状況に逆戻りするだけなので。

財務省の言いなりにならないという岸田首相の意思表示

 ところで、「検討と先送り」を旨としながら減税だけは「絶対にやらない」と明言する岸田首相は「財務省傀儡」と目されている。しかし、そうだろうか。首相秘書官に嶋田隆元経済産業省次官を据えている。財務省の言いなりにならないとの意思表示だ。当然、財務省も心得ている。

 緊張は続く。

【倉山 満】
’73年、香川県生まれ。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務め、’15年まで日本国憲法を教える。ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰し、「倉山塾」では塾長として、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交についてなど幅広く学びの場を提供している。著書にベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』のほか、9月29日に『嘘だらけの池田勇人』を発売

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21日、党首討論会で「日本を守り 未来を創る」とボードを掲げた岸田文雄首相は、翌日にも「日本を守り未来を創るため全力を尽くす」とSNSに投稿。岸田氏の見る“未来”とは―― 写真/産経新聞社