オンラインで面接した男子学生は、どうやら下半身はスーツを着ていない様子。そこで面接の終わりに『最後に立ってあいさつしましょう』と促したところ、やっぱりパンツ姿でした。どんな言い訳をするのかと思ったら、すしざんまいポーズをして、元気よく『本日はありがとうございました!』とあいさつ。これには笑ってしまいました」――

 7月上旬で企業の採用活動もたけなわ。全国の企業で採用選考が行われています。近年、学生がしっかり就活対策をした上で選考に臨むようになっており、人事が頭を抱えるヤバい就活生は少なくなったと言われます。

 ただ、就活生の中には、社会人経験がないゆえに奇抜なことをする学生もいるはず。実際のところはどうなのでしょうか。今回は、大手企業の人事部門担当者に「人事が困ったヤバい就活生」を聞いてみました(記事中の事例は個人のプライバシーに配慮し、一部表現を改めています)。

「ウケ狙い」の奇抜な言動は激減しているが…

 人事が「こいつはヤバい」と思う就活生には、色々なタイプがあります。まず、ウケ狙いで奇抜な言動をするタイプです。

 1970年代「男は黙ってサッポロビール」というCMが流れていた頃、ある男子学生がサッポロビールの採用試験を受けました。その学生は無言のまま面接官の質問に何も答えません。怒った面接官が「どうしてずっと黙っているんだ?」と聞くと、男子学生は「男は黙ってサッポロビール」と答えたそうです。この学生は内定をもらった(が辞退した)とも言われますが、真偽不明の都市伝説です。

 人事担当者に、実際にこうした「ウケ狙い系」の就活生がいるのかどうかを尋ねました。近年、このタイプの就活生は激減しているとのことでした。

「平成の終わりまでは、ウケ狙いで一発芸や一発ギャグかます就活生にたまにお目にかかりました。けど、ここ数年はまったく見かけません。もはや絶滅危惧種だと思います」(エネルギー

「いまの学生は非常に冷静かつ現実的なので、ウケ狙いをして実際にウケても内定は出ないとわかっています。体育会系芸術系の学生はわかりませんが、一か八かで無駄なウケ狙いをするってことは、まずないですね」(素材)

 今回ハプニングとはいえ、すしざんまいポーズを披露した就活生を発見することができたのは、奇跡と言えるかもしれません。

 次に、就活生がウケ狙いをしていなくても、自然に奇抜な言動をしてしまうことはあるでしょう。このタイプを「天然系」と呼ぶことにします。ある物流会社での出来事です。

面接官「最近、円安が進んでいますが、円安は当社の業績にマイナスに作用します。その理由を説明してもらえますか?」

男子学生「円安になるとドルベースの輸出価格が上がり、いや下がり……。あれ、輸出は関係ないですね。すみません。よくわかりません」

 その後、しばらく面接が続き、所定の終了時間が近づきました。

面接官「では、最後に何か聞いておきたいことはありますか?」

男子学生「円安が御社の業績にマイナスに作用する理由を教えてください」

 面接官が理由を説明すると、疑問が晴れた男子学生は嬉しそうな表情で面接会場を後にしました。こうした「天然系」の就活生は、いつの時代もある程度います。ただ、数としては減っているようです。

「先日、ある女子学生が、ライバル会社の商品を当社の商品と勘違いして大絶賛していました。面接の最後に勘違いに気づいて『えへ、すみませんでした』とニッコリ笑って謝りました。こういう微笑ましい就活生にお目にかかることは、減りましたね」(食品)

「面接をして『こいつ面白いなぁ』と思う就活生は、だんだん減っていますね。就活本とかで面接のNG集が出回っている影響かと思います。良い意味でヤバい人材と出会うことが、人事の仕事の楽しさなんですがね」(エネルギー

お祈りメールに「死ね」と返信する就活生たち

「ウケ狙い系」が激減、「天然系」がやや減少しているのに対し、最近どんどん増えて、人事担当者を悩ませているのが「逆恨み系」です。

 今回多くの人事担当者が、「お祈りメール」に関する悩みを打ち明けてくれました。ちなみに「お祈りメール」とは、就活生に不採用を通知するメールで、最後を「今後のご活躍をお祈り申し上げます」と締めくくるので、そう呼ばれています。

お祈りメールに対し、何割か返信が来ます。たいてい『ありがとうございました』という当たり障りない内容ですが、たまに『不採用は納得できない』『不採用の理由を説明して欲しい』としつこく食い下がってくる学生がいます」(建設)

「返信の内容が年々過激になっています。『貴社の皆様に不幸が訪れることをお祈りします』とか、『死ね』と書かれたこともあります。不採用者にはメールを出さないように変更しようか検討中です」(機械)

「ヤバい親」たちが人事を悩ませるケース

 最後に番外編で、就活生の「親の問題」。近年、就活生の親がわが子の就活に介入し、人事担当者を困らせているようです。

「ある男子学生と1次面接が終わった後、父親から自筆の推薦文書が届きました。その学生はかなりの高評価で2次面接を予定していたのですが、わが子を褒めちぎるその推薦文書を見て、不採用に変更しました」(通信)

「ある女子学生に不採用を通知したところ、父親から抗議の電話が来ました。最初は冷静な口調でしたが、やがて激高し、『容姿で判断したんだろ!』と難癖をつけてきました。それでも怒りが収まらず、当社の過去の不祥事を蒸し返したりして延々と罵倒していました」(小売)

 モンスターペアレント対策が、採用活動の新たな課題かもしれません。人事担当者は色々なタイプの人を相手にしなければならず、悩みは尽きないようです。

結局、冒頭の就活生はどうなったのか?

 ところで、個人的に気になったのは、ヤバい就活生の「採用・不採用」です。今回取材した範囲では、「逆恨み系」はもちろんのこと、「ウケ狙い系」も「天然系」も、すべて不採用でした。

 冒頭で紹介したすしざんまいポーズの就活生は、窮地に追い込まれた際の対応としてはなかなか秀逸。「採用しようという話にならなかったのですか?」と尋ねたところ、人事担当者は即座に否定しました。

「この一件を人事部内で共有したところ、『面白いヤツだね』とか『ほー、なかなかやるじゃん』という感想でしたが、『よし、採用しよう』という意見はなかったですね。普通に不採用にしました」

 ヤバい就活生を排除すれば、新人が入社後にトラブルを起こすというリスクを低減することができます。ただ、結果として角が取れた学生ばかりを採用し、やがて企業は画一的な集団になってしまうのではないでしょうか。

「その懸念はありますね。経営陣からは『尖った人材、突き抜けた人材を採用しろ』と言われていますが、ヤバい学生を採ると後で配属先から文句を言われるので、やはり無難な学生を採用しています」(商社)

「学生の就活対策が進化し、面接で変なところを見せないということを徹底しているので、採用時に本人の性格や特徴を掴みにくくなっています。入社後に『あれ、こんな人だったっけ?』と思うことがよくあります」(サービス

 経済学者シュムペーターによると、イノベーションの本質は「新結合の遂行」。つまり、異質な考えが混じり合うことによってイノベーションが生まれます。自分たちとは異質の就活生を「ヤバい」と排除する日本企業は、イノベーションが起こりにくく、成長・発展しにくいと懸念されるのです。

(日沖 健)

世の中にはどんな「ヤバい就活生」がいるのか? ©iStock.com