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激減するロンドンタクシー

昨年11月、ロンドン市内で運行できるディーゼルエンジン搭載のタクシーの最長使用年数が1年短縮され、13年となった。古い棺桶に新たな釘が打たれたのである。

【画像】ロンドンタクシーも電動化!最新モデルはおしゃれなEVに【LEVC TXを写真で見る】 全45枚

ロンドン交通局では、ゼロ・エミッション車をはじめとするクリーンな車両の普及を促進するべく、古いディーゼルタクシーを廃車するための補助金と、新型LEVC TXレンジエクステンダー(発電用エンジンを積んだEVのタクシー)などの購入補助金を導入している。

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ロンドン市内は古いディーゼル車の通行が制限されるなど、厳しい環境規制が実施されている。

これらの補助金と、2018年に初めて導入された使用年数制限は、現在ロンドンタクシーの約3分の1がゼロ・エミッション対応車であることから、所期の目的を達成しつつあるといえるだろう。

しかし、タクシーの総数は決して多くない。ロンドン交通局が市民の足となるタクシーの種類を変えている一方で、新型コロナウィルスと市の「ストリートスペース計画(パンデミックに対応して設立)」は、静かにタクシーの数を減らしているのである。

政府の最新の調査によると、2020年から2021年にかけて、ロンドン市内のタクシー台数はほぼ30%減の1万3400台となった。実際、2021年11月初めにライセンスを取得したディーゼルタクシーは、わずか9073台であった。

業界誌タクシー・ポイント(Taxi Point)の創刊者兼編集者ペリー・リチャードソンは、「このタクシー台数の激減は、運行会社が年数制限を超えた車両を廃車しているため」と語る。

パンデミック時にタクシー需要が減少したため、資金をゼロ・エミッション対応の新車に投資できたタクシー会社はほとんどなく、そのため現在のような状態になったのです」

では、LTI FX4(1958~1997年)、LTI TXI(1997~2002年)、LTI TXII(2002~2006年)、LTI/LTC TX4(2007~2017年)といった、古いディーゼルタクシーはどうなったのだろうか?

「第二の人生」を送るブラックキャブたち

リチャードソンが言うように、その多くは廃車(スクラップ)になった。しかし、幸運なことに、10万ポンド(約1600万円)もするような高級タクシーに進化したものから、1940年代風のピックアップトラックやリボンをつけたウェディングカーに生まれ変わったものまで、新たな命を吹き込まれたタクシーもいる。

実際、古いロンドンタクシーは頑丈な機械部品と広い室内空間を備えており、レストアするにしても、ゴージャスに改造するにしても、「クルマいじり」のベースとしては理想的なものだ。

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カーン・オートモービルズ社が製作した、ロールス・ロイスのようなLTI/LTC TX4

カーン・オートモービルズ社は、2017年に生産終了を記念してTX4の超高級仕様を製作した。外見は従来のブラックキャブに見えるが、キルティングレザーシート、アルミペダル、色分けされたシートベルト、本革巻きステアリング、スターライト・ヘッドライナーなど、室内は全くの別物だ。

「運転席のデザインは、本当に楽しい作業でした」と語るのは、同社のアフザル・カーン代表。「クルマにはロマンがあります。中を見たら惚れ惚れしますよ」

でも、10万ポンドもするクルマに乗ったら、騒音や性能、快適性など、決して上質とは言えない部分を無視することはできないだろう。

カーンはその点を考慮して、静音材を追加し、エンジンにも少し手を入れたという。乗り心地はそのままでまったく問題ないと判断し、変更しなかった。カーンはこの超高級TX4を5台製作し、すべて販売している。

実は、カーンがベースに選んだ車両は、中古ではなく新車である。しかし、首都圏での務めを終え、結婚式のタクシーとしてセカンドライフを送るタクシーもいる。

サリー州に本拠を置くウェディング・タクシー社は、結婚式の移動手段として使用されるロンドン風タクシーのオリジナルかつ最大のサプライヤーであると謳っている。同社ではFX4フェアウェイ、TX4、そして1940年代のナフィールド・オックスフォードなど、クラシックなタクシーが揃い、花嫁を教会に、結婚したカップルを披露宴に送り、穏やかな老後を送っているのだ。

頑丈さを武器にトラックへ改造されるものも

そんな彼らが、ポール・ベーコンがデザインしたタクシーに乗ったらどう思うだろう。カーンが豪華なTX4をデザインしていた2017年、レスターに住むエンジニアのベーコンは、唯一無二の改造タクシーの仕上げをしていたのである。

「妻がインフルエンザにかかり、楽しみにしていた1週間のベネチア旅行に行けなくなってしまったんです。7日間も家でどう過ごせばいいんだ、と思いましたよ。本業は自転車で動くスムージーメーカー(ペダルを漕ぐとスムージーができる)を作ることなのですが、どうせなら自分が楽しいことをやろうと思って、タクシーベースのトラックのようなバカげたものを作ることにしたんです」

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ポール・ベーコン氏は自身のYouTubeチャンネルでクルマのカスタム動画をアップしている。

ベーコンはFX4フェアウェイの骨組みを使い、わずか7日間でこの「タキシダーミスト(Taxidermist)」を作り上げた。この経験を活かし、翌2018年には、1940年代のフォードF-1インスパイアされたピックアップトラックも制作した。

「伝統的なロンドンタクシーの素晴らしいところは、腐食しにくいシャシーを備えていることです。さらに、フェアウェイは超頑丈な日産の2.7Lディーゼルエンジンと、トヨタ製3速ATを搭載しています。でも、他の部分はジャンキーで、狂ったように錆びていくんですよ」

そこでベーコンは、F-1のレプリカを作るべく、フロントドア、フロントルーフ、フロントガラス、フロントバルクヘッドを除くボディの大部分を廃棄した。

次に彼は、石膏とポリスチレンで新しいフロントエンドのベースを作り、ボディフィラーでなめらかに仕上げた。これをワックスで固めてからグラスファイバーを詰め、F-1のノーズコーンとフロントエンドを形成した。

リアバルクヘッドはスチール製、フロントウィングとランニングボードはグラスファイバー製だ。荷台の側面とテールゲートには複合材を、荷台の床には木材を選んだ。

中古タクシーのカスタムがビジネスに?

ベーコンは完成したトラックを販売し、わずかな利益を得た。その数年後、新型コロナウィルスの流行がはじまり、ペダル式スムージーメーカーの需要がなくなったとき、この経験が役立つことになる。

「タクシーベースのトラックを作れば、なんとかなると思ったんです。最初の1台を作る様子をソーシャルメディアに投稿したら、注文が殺到しました。1台作るのに約6週間かかり、600~1000ポンドのドナー車を含めると、完成品で8500ポンド(約140万円)になります。これまで3台製作し、今は4台目に取り掛かったところです」

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ポール・ベーコン氏が製作したピックアップトラック

それが完成したら、次はケータリングバンを作るプロジェクトが控えている。ちなみに彼自身のタクシーは、レクサスLS400の4.0L V8を搭載したホットロッドにする予定である。これを作ったら、もうタクシーを使った作品には手を出さない。自転車に戻るつもりなのだ。

「タクシーベースのクルマは11台作りましたが、正直、どれも悪夢みたいなものですよ」と彼は言う。

それでも、このおかしなエンジニアと話をしていると、彼に古いフェアウェイと数千ポンドを渡せば、人生で最高の驚きと、他にはないロンドンタクシーが手に入るような気がしてくる。

中古のロンドンタクシーっていくらで買えるの?

英国におけるFX4フェアウェイの中古車価格は600ポンド(約10万円)からだが、海賊船に改造されたものが200ポンド(約3万円)で売られていた。状態の良いものは希少で、あるディーラーは手付かずのものを5000ポンド(約80万円)で売っている。

後期のTXIIも安く、良いもので2000ポンド程度だ。ロンドン交通局の13年という年数制限を少し超え、走行距離が65万km程度のものだと500ポンド前後から買えるが、高いものでは2万5000ポンド(約410万円)にもなる。

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なぜか「海賊船」に改造されたFX4が英国で3万円程度で売られていた。

10年落ちで走行距離29万kmのものが5000ポンド程度と、このあたりがスイートスポットだろう。首都圏で使えなくなるまでの数年間は、ロンドンタクシーを乗り回せることになる。

なお、改造ではなく、ロンドンでタクシー運転手になることが目的であれば、購入前に整備記録などの書類を確認したほうがよい。十分新しいと思って買った中古タクシーが、ライセンス申請時に交通局の年数制限を越えていたことがわかった、という事例も報告されている。


役目を終えたロンドンタクシーが海賊船に? 「クルマいじり」のベースとして再注目