7月10日投開票の参院選に向けて選挙戦が展開されていますが、女性候補者を中心に関係者を悩ませることがあるのが「票ハラ(票ハラスメント)」と通称される行為です。投票することや選挙で支援することを口実に、有権者や支援者が候補者に対してセクハラ行為などをするもので、女性の政治参加を妨げる一因ともされます。これらの行為には、法的問題はないのでしょうか。ゆら総合法律事務所(東京都荒川区)の阿部由羅弁護士に聞きました。

行き過ぎた行為、犯罪になり得る

Q.選挙運動中の候補者に対し、有権者が握手を求めて長時間手を握ったり、嫌がっているのに抱き付いたりする行為に、法的問題はありますか。

阿部さん「候補者の意に反して握手や抱き付きを行った場合、暴行罪(刑法208条)が成立する可能性があります。また、抱きついた際に候補者の胸や局部に触れるなど、性的な行為が含まれる場合には、強制わいせつ罪(刑法176条)や公然わいせつ罪(刑法174条)が成立する可能性もあります。

さらに、当該行為によって候補者が不快な感情を抱いた場合、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求(慰謝料請求)の対象にもなり得ます。

こうした行為についての違法性の有無は、被害者である候補者の性別を問いません。つまり、被害者が女性でも男性でも、罪が成立する可能性があります」

Q.「投票するから個人の携帯番号を教えて」と迫る行為はどうでしょうか。

阿部さん「携帯番号を教えるように、あまりにもしつこく迫った場合、不法行為に基づく損害賠償請求の対象になる可能性があります。また、脅迫を伴う場合には強要罪(刑法223条)が成立することもあります」

Q.支援者などとの酒席でデュエットを強要される、体を触る、1対1の場を要求される、といった行為は。

阿部さんデュエットの強要や、1対1での会食等を強要する行為については、不法行為に基づく損害賠償請求の対象となるほか、強要罪による処罰の対象にもなり得ます。

体を触る行為については、選挙運動中の場合と同様に、強制わいせつ罪(刑法176条)や公然わいせつ罪(刑法174条)が成立する可能性があります」

Q.有権者や支援者が、候補者の自宅前で待ち伏せする行為はどうでしょうか。

阿部さん「『ストーカー行為等の規制等に関する法律』(ストーカー規制法)で禁止される『つきまとい等』に該当する可能性があります。『つきまとい等』は都道府県公安委員会による禁止命令の対象です。禁止命令に違反した場合や、つきまとい等を繰り返して『ストーカー行為』に発展した場合、刑事罰が科されることがあります。

また待ち伏せ行為は、各都道府県が定める迷惑防止条例にも違反する可能性があります。さらに、不法行為に基づく損害賠償請求の対象にもなります」

Q.支援者が「自分は票をたくさん動かせるから、交際して」と迫る行為はどうでしょうか。

阿部さん「強要罪や、不法行為に基づく損害賠償請求の対象になる可能性があります」

Q.候補者の側は、選挙への影響を考えると、有権者や支援者に対して邪険にできないのが一般的には現実と思われます。ただ、票ハラ行為によって体調を崩したり、立候補を断念したりした場合、何らかの法的措置を取り得るのでしょうか。

阿部さん「当該行為が何らかの犯罪に該当する場合は、捜査機関への刑事告訴が可能です。不法行為に基づく損害賠償請求は、示談交渉、調停、訴訟などの手続きを通じて行うことができます」

「票ハラ」に当たる行為を含むハラスメント行為については、内閣府男女共同参画局が、啓発動画「政治分野におけるハラスメント防止研修教材」を作成。同局公式YouTubeで公開しています。

オトナンサー編集部

「票ハラ」の法的問題は?