北朝鮮では、国内での新型コロナウイルス感染者発生を公式に認める前から、高熱などで死亡した人の遺体を、遺族の同意を得ないままに火葬する方針を取っていた。

火葬に対して拒否感を持っている北朝鮮の人々は、大切な家族との最期の別れもできないまま、遺骨になって返ってくることに不信感を抱き、トラブルになることもしばしばあった。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、道内の三水(サムス)郡の邑(郡の中心地)に住んでいて、高熱で亡くなった人の遺族は、正確な死因もわからないまま他の遺体とまとめて家族の遺体が火葬されることについて、郡の安全部(警察署)に対して激しく抗議した。

彼らは、悪性伝染病(コロナ)でなかったのなら遺体を返してほしい、葬儀を営ませてほしいと頼み込んだが、聞き入れられることはなかった。怒った遺族が問題を提起し続けたところ、国の方針に逆らったとして、安全部に10日間も勾留されたとのことだ。

そんな不満の高まりを受け、両江道の非常防疫指揮部は、方針を変更することにした。だが新たな方針は、地元幹部の別の思惑が垣間見えるものとなっている。

両江道安全局は、市や郡の安全部の公民登録部署を通じて死亡届を受け付ける時に、人民班長(町内会長)の確認書類と病院の死亡診断書以外に、死体処理組の責任者3人のサインがあってこそ、コロナによる死亡と認める方針を明らかにした。たとえ、コロナを疑わせる症状で隔離された上で死亡したとしても、サインがなければコロナによる死亡とは認めないというものだ。

上述のように、コロナを疑わせる症状で死亡した場合、非常防疫法に基づいて、遺体を無条件で火葬しているが、公式統計には集計されないことに対し、市民から非難の声が上がっていた。

だが、新たに示された方針は不満の解消どころか、単に是が非でもコロナによる死亡を認めないという強い姿勢が表れたに過ぎない。

安全部は、「今のような時局に非常防疫法の規定に異論を呈することは、国を信頼しない者の行動であり、反抗すれば大きな代償を支払わせる」と警告を発した。

だが市民は、コロナによる死者の数を減らして報告することで、責任を回避しようというのがイルクン(幹部)の思惑に違いないとして、言葉には出さずとも怒りを示している。

北朝鮮の国家非常防疫司令部が毎日発表している発熱患者の数は、ずっと減る一方だが、現場の幹部による意図的な隠蔽、過少報告だとの疑惑が浮上している。

これは、もし発熱患者の数が減少しない場合、国の指示したコロナ対策を正しく執行していないと一方的にみなされ、現場の幹部が処罰を受けてしまうという、北朝鮮の重罰主義が影響している。

たとえどれだけ対策をしっかりしたとしても、相手はウイルス。思い通りに減らせるかどうかはわからないものだが、計画経済のスキームをコロナ対策にも応用しているため、このようなことになるのだ。

北朝鮮の防疫活動(2022年6月2日付労働新聞)