鉄道路線は通常、廃線になると線路を含めた設備一切が撤去され、また残されたとしても目隠しされるなどの措置が講じられます。しかし紀州鉄道には、廃線になった区間に、踏切警報機が残されている場所があります。

かつては日高川駅まで通じていた

線路もなしに、交差点に踏切警報機だけがある――そのような場所が和歌山県にあります。

同県御坊市内を走る紀州鉄道は、御坊~西御坊間を結ぶ総延長2.7kmの路線です。ケーブルカーを除き他社線との直通運転をしない単独路線としては、「日本一距離が短い鉄道」として知られます。

さて、終点の西御坊駅で下車しそのまま南へ数分歩くと、話題の踏切警報機が姿を見せます。もちろん、ここに列車は走ってきません。なぜ踏切が設置されているのでしょうか。

その答えは、1989(平成元)年4月まで、西御坊駅からひと駅先の日高川駅が終点だったからです。西御坊~日高川間には30年以上を経た今も、線路や踏切など一部の鉄道設備が残されているのです。

通常、鉄道が廃線になると、道路と線路が交差する踏切はすぐに撤去されるか、もしくは使用していないことが一目でわかるように目隠しされます。これは、踏切があると誤認して交通を乱さないための措置です。クルマならば、一時停止したことで後続車が追突する危険性もあります。紀州鉄道の踏切も「使用中止」と掲出されていますが、あまり目立ちません。

なぜ線路は残されている?

そもそも紀州鉄道の一部の鉄道設備が残された理由は、日高川駅の南側にある日高港の存在でした。日高港には整備計画があり、この計画が進めば、港への貨物輸送の需要が見込まれます。そのため、貨物線として再活用できるよう、設備は完全には撤去されませんでした。

しかし廃線から30年以上、計画は進まず、線路跡も貨物線としての復活は果たしていません。残された鉄道設備は、歳月とともに朽ち果てていくばかりです。そのため、この鉄道敷地一帯を鉄道公園として生まれ変わらせる計画もあるようです。

昨今、開かずの踏切を解消するために線路と道路の立体交差事業が各地で進められ、それに伴って踏切数は減少を続けています。それ以上に、多くの踏切が一斉になくなるタイミングが廃線です。まとまった区間でいえば、北海道新幹線の札幌延伸に伴い、JR函館本線の一部が廃止されることが決まっています。

ただ、廃止後ただちに一切の線路設備が撤去されるわけではありません。なかには用途が決まらず、長い間放置されるケースもあります。紀州鉄道の場合、その状態で30年以上ということです。

紀州鉄道のKR301形ディーゼルカー(画像:写真AC)。